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DEADストライク   作者: 和銅修一
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カウントサイズ

「やっぱり兄さんみたいにはいかないか」

 不意をついた一発は当たりはしたが、バウンドしていないせいで攻撃力が低い。

 それに死神は超能力者と同様に体が異常に頑丈にでいているらしく、弾丸は軽々と弾かれた。

 しかし、それを無駄にするバンではない。効果が薄いと分かった時点で距離をとった。

「久しぶりにいい死神に会えたと思ったのに残念だわ。ずっとあたしを騙していたなんてね。この超能力!」

 オルクスは騙せていた時とは違って明らかに様子かわおかしくなった。

 ただ騙されていたことに怒っているこではなくてバンが超能力であったことに怒っているようである。

「なぜそんなにも超能力を嫌う。僕たちは何もやってないじゃないか」

 そもそも死神の存在自体知らなかったのだからどうこうできるばすもなく、何も心当たりがない。

「とぼけたって無駄よ。派遣した死神たちがみんな口を揃えて超能力者にやられたって言ったのよ。あなたもその一員なんでしょ」

「待て!本当に何の話しをしている。こっちは政府との対決で死神なんかをかまっている余裕なんてなかった。何かの誤解じゃないのかそれは」

 やられたという死神たちが口裏を合わせて嘘をついている可能性だってある。

「そんなわけありません。調査で犯人は超能力者だと分かっています。やられた死神たちが嘘をついたわけではありません。それにあたしを騙した男の言うことなんて信じると思いますか?」

 確かにそれは道理だ。

 しかも、その情報は冥府からのものだろう。冥府が嘘をついているとは考えにくいが、本当に超能力者が死神をどうこうしているのか?

 それならそいつは何処の誰で、何を目的として死神なんかを襲っているんだ?

 もしやまだプラインのように政府がまだ認識できていない超能力者たちの仕業かもしれない。それならキリヤが気づかないのも無理はないし、こちらが気づくこともない。

「待てオルクス。お前は勘違いしている。僕はただ死玉を奪いに来ただけで戦う気なんて微塵もない。それにここには目当てのものがなさそうだからもうここから出て行くつもりだから見逃してはくれないか?お前だって本当は戦いたくはないだろ」

 戦いを望む者なんて狂者ぐらいだ。それに引き換え彼女はそれと正反対。少し馬鹿なところあるが、普通を望んでいるのが話し方で分かる。

 だからここは引いてくれるとばかり思っていたが鎌を握った手に力を入れた。

「あなたはタロットを知ってる?」

 唐突な質問に戸惑ってそれぐらいは知っていたが彼女から放たれる異様な空気が答えることを許さなかった。

「タロットは七十八枚一組のカードで大アルカナと小アルカナの二重類に分けられて私はその内の大アルカナを使って戦う。それが私の鎌、カウントサイズよ」

 鎌を持ち直して力を込めて床へと叩きつけて塔の中に音を響かれた。

 しかしその大きな音とは裏腹に塔の中の異変はバンの足元近くにあった棚の死玉が転がってきただけでそれ以外の変化は一切ない。

「ふん、ただのこけおどしか」

 雰囲気からしてとんでもない大技を繰り出してくるのではと身構えていたが、全くの無意味だったと後悔して距離を詰めた。

 近くなれば銃が武器であるこちらは不利になるが武器は銃だけではない。超能力という忌々しくも頼もしい力がある。

 完全に閉じていない左手にはハヤノを倒した時と同じで、その中でバウンドを続けている。相手は話すのに夢中だったから簡単だった。

 それに鎌というものは扱いにくい武器の一つ。

 刃物は特殊な形をしているし、大振りしなくては力が鎌に伝わらない。

 つまり、距離を詰めることで大振りできないようにして戸惑ったところに文字通りの隠し玉をぶち込んでやればいい。

「お前に恨みはないが、少し眠ってろ」

 左手を前に出して開こうとしたが、オルクスは手の位置を奥の方に変えて鎌の長さを適当なものとしてそこへ切りかかった。

「うっ!」

 意外な攻撃に逆に惑わされたバンはたまらず、あらぬ方向であるのにも関わらず手を開いてしまった。

 回転を帯びた弾は目にも留まらぬほどの勢いで塔の中へと消えていった。

「手の中に武器を隠していたんですか。ですが、そんな小細工あたしには効きません。鎌の扱い方ならどんな死神にも負けませんから」

 先ほどの手さばきからしてそれがハッタリではないことぐらい誰にでも分かることだ。

 迷いがなく確実な一撃は手の皮膚を切り裂いていったが、それはバンが咄嗟に動いてからだ。

 もし、反応できていなかったらさらに奥のところを切られて今頃手と腕は繋がってはいないだろう。

「なるほど、大した技だ。敵ながら称賛に値するな」

 敵にしておくには惜しい存在だと、彼女の認識を改め始めた。

「あなたから誉められても嬉しくありません。それにまだ私の鎌の恐ろしさを分かっていません」

 流れる血を眺めていたバンを尻目に不気味な声で呟いて、ゆっくりと指を鳴らした。

 また初めの時と同じで何も起こらないであろうと油断していた。

 気づいていた時にはもう目の前にはオルクスの姿はなく、天井があった。

 落ち着いて、落ちている自分を手を床に添えて超能力を発動させてバウンドして後方へ飛んだ。

 飛んでいる時にオルクスは強く握りしめた鎌をバンが落ちていた場所に振り下ろしていた。

「一体何した?これがお前の鎌の力だというのか」

「そうよ、でもこれはごく一部。情けであたしの鎌の力を教えるけど相手を切った数でタロットの大アルカナが決まって、それに似合った攻撃が放たれるわ」

 急にタロットがどうとか、アルカナがどうとか言い出したのは今思い返すと彼女なりのヒントだったのだろう。

「一回切ったということはアルカナは魔術師か」

「あら、知ったの。なら話早いわ。そう、あなたが今受けた力は魔術師のアルカナの力。タロットで魔術師は物事の始まり、起源を指すわ。あたしが印をつけた時のあなたの体を移動したのよ」

 無意味にかと思われた床への攻撃は印をつけるためのものだったらしい。まんまと騙された。

 それに運が悪いことに転がっていた死玉につまづいて転んでしまうとは皮肉なものだと転ばした張本物を睨んだ。

「ちなみにその死玉もあたしの計算のうちよ

。まぐれなんかじゃないからね」

 心を読んでいるかのように叫んでいるが、それか本当かどうかなど区別がつかない。それにそんなものつかなくてもいい。ただ勝てばいいだけも話。

「タロット占いは暇な時に良くやったもんだ。だがそれが得意な人が言ってたんだが所詮は占い。占いでは人は殺せないし、運命も変えられないと言ってたぞ」

 研究所の時にいた同士の言葉がふと頭の中に流れた。

 もう、あいつは生きてはいないがいい様々なことを教えてくれた人生の先輩とも言えるべき人だった。

 少し感傷的になっているとオルクスは自分の力が馬鹿にされたと思って体を震わせて怒りをあらわにしていた。

「あなたの言う通りよ。タロットは占いとかで使うカード。武器じゃないわ。でもね、あたしは一つ一つに込められたカードの意味に凄く心震えたの。だからこそこうして鎌の力として現れているのかもね。でも、それはあたしを否定しているのと同んなじよ。もうあなたが死神だろうと超能力者だろうと関係ない。後悔するまでズタズタに切り裂いてあげるわ」

 怒りとは、超能力者より人間らしい死神だと、苦笑してそれに応えるように銃を構えた。

「そいつは良かった。僕も君とは一人の戦士として戦いたかったところだ。私情による戦いは嫌いだからな」

 彼女が超能力者に恨みがあることは態度が急変したことで分かりはしていたが、それを鎮めることは様子からして不可能だからせめてこちらが気持ちよく戦えるようにしてもらった。

 恨みつらみで狂っていても馬鹿はなおらない。それを利用して怒りの対象を自分を馬鹿にした男にすればこうなることは予想していた。

 案の定、そんなことを知りもしないお馬鹿な死神さんは心理的罠にはまったわけだ。

 だがこれはあくまで気持ち的な問題で実際の戦いには変わらずわ実力で押し切るしかない。

「くらえ!十二回反射の弾を」

 棚の中や死玉、床を反射して計十二回までバウンドの力を溜めた弾丸は素早くオルクスの元へと飛んで行き、避けられないと判断されて鎌を盾代りにした。

 これで勝負は決まった。

 そう確信していた。十二回ならば鋼鉄の壁にも穴が空くほどの威力。あんな細い武器など簡単にへし折ってくれるだろうと思ったからであったが、折れたのは弾丸の方。

 形を変形されられて吹き飛んで行ってしまった。

「これがあなたの本気?なら大したことはないわ。新人の死神レベルじゃない」

 余裕の笑みを浮かべて平静を装っているが、弾の衝撃が来る時に足にもの凄い力が入っていた。

「次はあたしの番よ」

 数歩下がって、いきなり何もないところへ鎌を振り回し始めた。

「あたしの鎌は万能で、力を発動するために切るのは何でもいいのよ。床でもあなたでも空気でもね」

 気がつくとメーターはぐんぐんも上がっていっている。止めようにも鎌の動きは速すぎて一本の線としか見えず、とても割って入ることなどはできない。

 そして気が済んだのか、数秒で鎌の動きを止めてバンの方向へ向けておもむろに指を鳴らした。

「第二十のアルカナは審判。カードの配置は逆位置。意味は悔恨に悪い知らせ。これらを我が敵を打つ為に解き放つ」

 呪文にも似た言葉をつらつらと語ると鎌で切り裂いた空気のところが急に輝き出して一本の槍がバンの心臓めがけて飛んできた。

 槍は金で装飾されていて無駄に豪華。何処から出したのかは不明だが危険な匂いがする。

 間一髪のところでかわして、後ろで役目を終えた槍は光の中へ消え去っていった。

「どうやら失敗に終わったようだな。お前の力はこんなもんか?」

 あれだけ空気を切って、あれだけ長ったらしい台詞をかましておいてダメージはかすり傷の一つのみだ。

「このペースだと俺を倒すのに日が暮れるぞ」

「う、うるさいわね。次はこれよ」

 またもや空気を切ってメーターの数をため始めて十九に達するとそこで鎌を動かす手を止めた。

「第十九のアルカナは太陽。配置は正位置。意味は成功や誕生。我が今求めるは成功。灼熱の炎で全てを焼き尽くさん」

 両手でしっかりと握られた鎌の先からは半径三十センチほどの火の玉が現れた。

 それはまるで小太陽。マグマのような炎が生き物みたく、動き回っている。

「くらいなさい」

 振り下ろされた鎌と同時にその小太陽を落ちてきたが、スピードは思ったほどなかったが熱風が後ろに逃げたバンにまで届いた。

 床は熱で溶けてジュウジュウと香ばしい匂いを立てた。

「二連続で失敗とはな。次は僕の番だ。兄さんが酷い目にあってるかもしれないから、こんなところで時間を食いたくないしな」

 鎌を破壊するのは難しいがそれを操っている本体は大した防御力はなさそうなので次はそれを狙ってバウンドさせればいい。

「失敗?太陽のアルカナの意味は成功よ。足元を見てみなさい」

 得意げに笑うオルクスに言われるがままに自分の足元を見ると、そこには鋭利な刃物でつけられたであろう傷が複数存在していた。

「第十二のアルカナは刑死者。配置は正位置。意味は忍耐、努力、試練。我は汝に試練を与える」

 今度も何処からか現れたものがバンに襲いかかる。

 そして今回は刑死者らしい縄で足を縛られて、空中で吊るされてしまった。銃は落としてしまったから反撃も身動きもできない。

「どう?あたしのカウントサイズの力は。数は限られてるけどこうやって事前に仕掛けることもできるのよ。これであなたの悪運も尽きたわね。これであたしの勝利よ。負けを認めたら命だけは助けてあげるけど」

 超能力者への怒りが薄まってきたようだ。

 だけども足に巻きつかれている糸は硬く結びつけられていての敵に勝利を確信したオルクスだったが縄で吊るされても冷たい顔が変わらない。

「お前は数学は好きか?」

「え、ええ。鎌の能力がこんなのだし好きか嫌いかで言えば好きだと思うわ。でもなんでこんな時に?何かの遺言」

「そうじゃない。いいか、兄さんは数学は見ただけで吐き気がするとまで言っていたがとてもいいものだ。式があっていれば答えに導いてくれる。僕の超能力は計算ができなきゃ始まらないからね。それに僕は一度も計算を間違えたことはない。君と戦って勝てる確率が戦いを受けたんだ。この意味がわかるか?」

 腕を組みながら何かを待つかのように目を閉じた。

「あんた今の状況わかってんの?そこからどう勝とうっていうのよ。そこで動かずに言うとおりにすれば殺しはしないからあたしの指示に従って。もういいでしょ」

 超能力者は許せないが彼自身に恨みがあるというわけじゃない。

 できれば殺さずにこの場を収めたいというオルクスの考えは逆さかになりながら首を振る男に否定された。

「それじゃあ、僕の気が済まないし兄さんのところへ行けないじゃないか。それに殺さないなんね随分死神らしくないことを言うんだね君は」

「何よ、あんたを気遣って言ってあげたんじゃない!それともまだ勝てる根拠でもあるの」

「言っただろ。勝てるからこの戦いを受けたんだ。それに僕の計算に狂いない」

 急に体を前に倒して動き始めたと思うと、その勢いで拳を突き出した。

 そこに上から吸い込まれるように赤い玉が降ってきて拳でバウンドをして鎌のメーター部分に激突して、傷一つかなかったそれは粉々に砕け散った。

「おっと、鎌が壊れたら能力が解除されのか。まあ、当たり前か」

 縄で吊るされていたバンはいつの間にか足を床につけていた。

「ど、どうやってあたしの鎌を……。あたしの鎌は能力の発動条件がある分、特別に硬く作られているのに」

 それは自慢できる一つで、今さっき盾として使ったのも自身があったからなのだがそのせいで鎌が壊れてしまった。

「確かに貴様の鎌は硬かったが、それを超えるものがあったんだよ。足元を見てみろよ」

 鎌を失っても悲しんでいる余裕のないオルクスは言われるがままに足元を見ると、そこには鎌を壊したであろう死玉が転がっていた。

「初めから用意はしていた。お前が僕を転ばれるために利用した死玉を僕も利用させてもらった。転んだ時、咄嗟にバウンドを使って飛ばしていたんだ。あそこにあった罠には気づいていたからそれもお前を倒すために使わせてもらったぞ」

「騙すの間違いじゃないの」

 メーターは壊れたが鎌の全てが壊れたはけではなく、刃の部分や持ちてには何の問題もないのでそれを握りしめて悔しさと怒りでバンを睨むがもはや能力の使えない鎌では勝てる気などしない。

 自分でも気づかずに手を震わせていた。

「戦いに騙す、騙されるは関係ない。残るのは勝者か敗者だ。感情に流されて行動するなよ」

 鎌を握る手の力を入れたのに気がついたのか、忠告のように吐き捨てて落ちた拳銃を拾った。

「あなたもね。ここはそんなに甘くないんだから」

「忠告感謝する」

 拳銃を腰辺りにしまうと軽い感じで返して少し早足で塔を出て行った。

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