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DEADストライク   作者: 和銅修一
22/26

バンの苛立ち

「くそ!やっぱり落ち着かない」

 お目当ての塔の前に着いたバンはらしくなく、一人で苛立ってた。

 原因は以前戦ったハヤノのせいだ。

 あの小娘は図々しくも兄さんと同行したいと言い出して、頑として兄さんについて行こうとした。

 争ってる時間もないから譲ったものの、兄さんの隣は弟である僕の立ち位置だ。何も知らない小娘が割って入っていいところじゃない。

 苛立ちのあまり、無意識で爪を感じていたが血が出たところで我に返った。

「ここで悩んでいても時間の無駄か。早くここを探索して兄さんの元に駆けつけるのが優先か」

 塔の場所は大体右斜めに進んで行ったところにあるはずだ。確信はないがあの軽い男のを頼りにはしたくない。

 早くダンの元へ向かいたいバンは警戒をしながらも塔の中へと入った。

「ここが塔の中か……」

 死玉(しぎょく)と呼ばれる赤い水晶玉の数にも驚いたが、目を引いたのは塔の造りにある。

 真ん中の円、それを取り巻くように壁の中に隙間がないほどに死玉が詰められていてその間に十分なほどのスペースが設けられているのだ。

「おかしな塔でしょここは」

 不意に何処からか声が聞こえた。その声は塔の中を響き、バンの耳の元へと届いた。

「誰だ?」

 いつもの調子が戻って、鋭く冷徹な目で話しかけてきた女性を見つめた。

 情熱的で彼女の明るさを表すように足元まで伸びた紅い髪、つり上がった目。肌は褐色で服の胸の辺りのボタンは苦しそうに悲鳴をあげている。

 それに右手に握れている大きな鎌。彼女の背より頭一つ分大きく、赤を基調とされている。一番目に付くのは刃の部分と持ちてをつなぐところでゼロから二十一までが並べられている四角いメーターのようなものがつけられいる。

「あたしはオルクス。この塔を任されている死神よ。あんたは誰なの?男共は人間界に行ったし、あんたみたいな死神見たことないわね。名前はなんていうのよ。あたしも言ったんだからあんたも言いなさいよ」

 バンから見たこのオルクスという死神は小うるさくて厄介な女だという風に映った。

「バン=ストライク。この塔を少し見て回りたいんだが許可をもらえるか?」

 もしこのまま死神と勘違いしたままならそれを利用して目当て死玉を探せるなら無駄な戦いはせずに済むし、すぐにここにあるかないかが分かるはずだ。

 利用してやる。一刻も早く兄さんのところへ行きたいんだ。

 平静を装ったまま、彼女の目を見つめる。

「そう。なら鎌を見せなさいよ。死神なら持ってるでしょ」

 死神は全員鎌持ってるのか?変な奴らだ。

 といっても、鎌なんて持ってるわけがなく、手元にあるのはリボルバー一丁とその弾丸のみ。

「お前なんかに見せる必要があるのか?」

「当たり前でしょ。何言ってんのよ」

 だがあっさり死神でないことを明かすのは非常に惜しい。このまま強引に押し切れば何とかなるかもしれないと思って、いつも以上に声質を低くして恐い感じを醸し出してみるが、一切怯んだ様子はない。

 どうやら性に合わないようだ。これならいつも通りいけばよかった。

 少しがっかりしている中でこの死神は気にしないで話を続ける。

「あ!もしかして新人の死神さん?駄目よ、ちゃんとマニュアル読んだの。確かにあたしも最初あれを受け取った時は気が滅入ったけど大切なことがたくさん書かれてるんだから」

 死神にマニュアルなんてあるか……。

 意外な事実に驚きを隠せないでいたが、彼女のペースに飲まれていることを危機として感じた。

 騙すならこちらのペースに飲み込まなくてはいけない。こっちが飲まれててどうする。僕は兄さんに会いに行かなくちゃいけないだろ。

 心の中で自分を叱咤してこれからのことを考える。

 まずは騙しに失敗した時に備えてこの塔の造りを把握するためにじっくり見ながら左手を銃に触れさせる。

「それよりここを見学したい。あまりここのことには詳しくないから教えてくれないか?」

 まだぺちゃくちゃと話を続ける間に入ってみた。これは鎌のことが疎かになっている今なら誤魔化せるお思ったからで、一種の賭けであって駄目だったら左手で触れいるものを突き出して引き金を引くだけだ。

「えっと、あ〜案内ね。もしかしてあれ?冥府を一人で見て回ってるの?あたしなんて面倒だからしなかったわよ。最近の死神()は偉いわね〜」

 バンはふと思った。

 こいつちょろいな、と。




「他の塔は見たことがある?外見は一緒だけど、中が違ってるのよ。不思議でしょ?確か、既に建てられていた建築物の壁を修復して活用しているらしいわ。いわゆる再利用でエコってやつよ」

 この冥府のことは知らないことが多いが、死神である彼女が騙せている間は情報が聞き放題。出来るだけ聞いておいて損はないだろうし、目当てのものがなければ適当に理由をつけてここから去ればいい。

 こんなに簡単に騙されるほど低脳でも持ち場を離れることはないだろう。

「なるほど。では、この死玉は修復が終わった後にこの塔に保管されただけで昔からここにあったわけではないと」

「まあ、そういうことね。アズラーイールの書も一、二世紀ぐいでそれほど昔からあるものじゃないからこの塔に死玉が保管されたのは四、五十年前ぐらいだったんじゃないのかな〜?」

 アズラーイールの書や死玉はとても大切にされているようなので何千年も前からある物だと思っていたから意外だ。

「でもこれほどの死玉をこの塔が出来るまでは何処に?放ったらかしということはないだろ」

「それは魂の神殿近くにある地下倉庫にだよ。あそこなら広くて厳重だから安心だったんだって。あたしもその時は産まれてすらなかったから聞いた話だけどね」

「なら死玉に刻まれているこの数字は何だ?見ていると数字順に並べられているようだが」

 ここにあるのは千に近い数字ばかりで二千に近い数はまだ見当たらない。

「それは死玉ができた順よ。アズラーイールの書は生者の名前が刻まれたと同時に死玉を産むから、改良した死神が分かりやすいようにってしたものよ。最大どれくらいあるかはあたしも知らないけれど、ある一定の数に達したらまた一に戻るって聞いたわ。でもこれ一つに一人ってわけじゃないわよ。それだとこの冥府が死玉だらけになっちゃうから」

 その光景を想像したのかクスリと笑ってみせた。

 バンが少し疑問に思っていたことが一つ解決された。

 それは本当に壊す死玉は二千四十六番の一つでいいのかという点だ。

 言ったのはあの狡猾であくどいキリヤ。

 地下水道にまで追い詰めてきたのも、それから兄さんを刺客として送り込んできたのも、全部キリヤが裏で糸を引いていた。

 そんな騙しのプロフェッショナルである男ならば自分一人だけ助かるために、自分だけの死玉を壊させようと企んでいるのではと不安だったが一つに複数いるのだから必ず全員が助かる玉なのだろう。

 なぜなら彼にとって大切になってくるのは自分の手足となって働いてくれる戦力。

 プラインという謎の超能力者がいるが、たった一人では満足しないだろう。

 そうなってくると必要なのはダンたちの戦力。だからあのキリヤならばここで借りを作っておくのは当たり前だろう。

 借りを返すのはダン=ストライクという人物の性格からしたら絶対だし、他の二人は高確率でおまけとしてついてくる。

 しかもあの新しく加わったハヤノという生意気な少女もだ。

「どうした?何か機嫌が悪そうな顔だが、そんなにあたしの案内が駄目だったか?す、すまない」

 困った子犬のような顔で覗き込んでくるオルクスの一言で我に返ったバンはゆっくりと首を振った。

「いや、これはただ考え事をしていただけだ。案内は分かりやすいし、問題はない」

「そうだったの。よかった〜」

 安心してほっと息を吐いて先を進もうとするオルクスの背中を見て、もう聞きたい情報は聞けたからリスクを覚悟してあれのことを聞いてみるか。

「それより二千四十六番の死玉を知らないか?」

 塔を見回りしている死神が知っているかはどうかは分からないし、こんな質問をすればどんな馬鹿でも不審に思うだろうから今までこれは言わないでおいたが遠慮する必要はない。

 情報は搾れるだけ搾る。

 ここら辺の数字からしてこの塔にはなそうだし、知らなくてもそれでいい。それなら兄さんのいる塔に向かうだけ。

 だがもし知っているのなら力づくでも聞き出す。

 この作戦は時間との勝負でもあるからだ。

 囮役は頼りなさそうな女三人。それにあそこはここよりも重要度が高い建物だから巡回している死神も多くいるはず。

 やられるのは時間の問題だ。

 それにそいつらが捕虜となったら兄さんは必ず助けに行くだろう。兄さんはそういう人だ。

 しかしそれでは兄さんが危険な目にあってしまってどうなるか分かったものではない。もしかしたら殺されてしまうかもしれない。

 だから時間がほしい。そのためには玉の場所を知るのが一番。

 今だに黙ったまま答えない彼女の背中を期待しながら見つめていると、微かに震えていることに気がついた。

「あなた……なんでその番号を知っているの?その番号は塔の見回り役とその関係者がぐらいがしか知らない極秘のものよ。あなた死神じゃないわね。鎌を見せなさい!なかったらこれで八つ裂きにしてあげるわ」

 どうやら欲張り過ぎてしまったようだ。彼女の言葉からして、攻めてくることは予想されていて塔の者たちには注意が呼びかけられていたようだ。

 だが注意だけということは確信のなかったこと。確信がなかったから上はことを荒立てたくなくて増やせばいい塔の巡回をこの女一人だけにしておいたのだろう。

 ならばやることは一つ。この女を倒して次に進むこと。

「残念だがそういった趣味の悪いものは持ち合わせてはいない。代わりにこれを見せてやろう」

 いつでも取り出せるようにしておいた拳銃を素早く抜いて、ためらうことなく引き金を引いた。

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