酒場に落ちた雷
戸惑うラカサにクラトスさんがこの世界とダンについての説明を話してくれることになり、ダンの行きつけの酒場へと来てカウンター席に座った。
「いいかいお嬢さん。君がどこから来たかは知らないけれど、ここは半分は戦争で成り立っている世界だ」
「つまり、どういうことでしょう」
「言葉のままさ。半分は平和的かつ普通の生活を、もう半分は危険な戦争を仕事にして生きているんだよ。ここは後者のものたちが集まる区画とされている」
「どうしてそんな風になってしまったんですか? 何か理由があるはずですよね」
「そうだな、実はこの世界は大きな三つの国でできていたんだ。だがその内の二つの国が戦争をおっ始めたんだ。その巻き添いを食わないようにどでかい壁を作った。大きさがこの世界の半分を占めるほどだったから半分は平和な国、半分は戦争の国となってしまったんだよお嬢さん」
クラトスはそこでグラスにつがれた酒を一口飲んだ。隣のダンなんてグビグビ飲んでいる。
「でもそれとダンさんの超能力とは何か関係があるんですか?」
「もちろん関係ある。実は三つの国になる前にも戦争があった。その時には超能力者が軍人として雇われ重宝されいた。未来予知から全てな。だが彼らの超能力は微力で戦いではあまり役に立たなかった。そこで作られたのが超能力ナノマシン」
「超能力ナノマシン…ですか」
聞き覚えのない言葉にラカサは首を傾げた。
「そうナノマシン、つまり目に見えないウイルスサイズの機械。これを今までの超能力のデータを利用して実践的な超能力が使えるようにするためのものだったんだが、これにはある欠点があったんだ」
「なんですそれは?」
「人体に支障を起こす。詳しく言うと体が拒否反応を起こして最悪の場合は死んでしまうんだ。だからナノマシンの為に人間を作った。支障が起きないように特別に頑丈な体の人間をね」
それがダンということはラカサでもわかった。
「なるほど、だからあの爆発でも傷一つなかったんですね」
「まぁな、あれぐらいだったら余裕で耐えられる」
手に持ったグラスを回して氷を鳴らした後、残った酒を一気に飲み干した。
「でも、本当になんで猫が爆発したんでしょうか? ダンさんは何か心当たりはありますか」
「ありまくりだ。俺は殺し屋だし恨まれてるからなだが、今回みたいな妙な殺し方をしてこれるのは奴らしかいない」
ダンは歯を食いしばり、怒りを露わとした。
「奴らってもしかして他の超能力者ですか」
「そうだ、顔を知っているのはほんの数人だけだがな」
「そうだな、だから俺がついてるんだろうが」
クラトスはそう言うとグラスを傾け酒を飲み込もうとした…が、酒から何か小さい筒状のものが飛び出てきたと思ったらクラトスの口の近くで爆発して後ろへ吹き飛んだ。
「クラトス!」
ダンを黄金色の目を見開き倒れたクラトスを支える。口から血が出ているがそれほど重症ではない。
「あが、うごが…」
苦しみ悶えるその姿に他の客も混乱する。ダンは拳銃を取り出していた。
「おいマスターはどこだ酒に何かしこんだろ」
だがダンの目の前には綺麗にボトルが飾られているだけで人はいなかった。諦めて他のとこを探そうしたところ、ボトルとダンがいるところの間のスペースにしゃがんでいる中年のおじさんがいた。
「おいそこのテメェ、しゃがんでるテメェだよ。そのでなにしてやがる」
黒いスーツを着た紳士的なおじさんは少し顔を上げた。
「備えているのですよ。ここに落ちる雷に」
「雷? 今日は一日中晴れだって天気予報の姉ちゃんが言ってたぜ」
彼の不気味さに銃口を向ける。
「そんなもの信じてはいけせん。唯一信じられるとしたら自分だけじゃないですか。なら私はとことん自分を信じますよ」
「お前ここのマスターじゃねえだろ。本物のマスターはどこだ」
「私はつい最近マスターになったんですよ。あなたが知らないのも無理はありません。ですが私の予測ですと爆死したのだと思いますよ」
ラカサの手帳が黒く鈍い光を放つ。気になって開くとそこにはダン=ストライクの名前があった。
「ダンさん気をつけて」
「雷はどこにでも落ちますよ」
その中年男の言葉を合図として飾られていたボトルが一斉に割れ、その中から物騒な魚雷が幾つも姿を現しダン目掛けて飛んだ。
「チッ!」
銃口を魚雷へと向け直し、何発か撃ち幾つかはなんとかなったが余った魚雷が拳銃を掴んでいた手に当たり拳銃は床へと転がっていってしまった。
ダンは仕方なく距離を取り丸い机の下に身を隠した。ラカサもそれに続きそこへ隠れた。
客は騒然として慌てふためいて逃げ回っていた。だが机の上にあったグラスの酒から魚雷が発射され、それを拒んでいるようだった。
しかし、実際はあのマスターがダンを逃がさない為の攻撃であって、客はただその被害にあっているだけに過ぎなかった。
流れ魚雷が一発、ここに飛んできた。咄嗟にダンはラカサをかかえて横へと飛んだ。
魚雷は机に当たり、その上に乗っていたグラスが宙を舞う。そして中に入っていた酒が空中でこぼれる。
塊となって飛んでしたその酒は一際大きな魚雷を出し、ダンの足で破裂した。
「グッ!」
さすがのダンもこれは痛かったらしく、足をかかえてうずくまる。
「クソッ! 銃さえあれば、あそこに隠れてる偽マスター野郎を殺れるってのに」
このままではダンが死んでしまう。自分は何のためにこの世界に来たんの、ダンさんを助けるためでしょ、守られてどうするとラカサは自問自答する。
「なら私が私がとってきます」
「待てお前じゃ無理だ。クラトスは一人で仲間を呼びに行ったらしいからそれを待て」
「それじゃあダメなんですよ。それじゃあ間に合いません。デッドリストがそう言っているので間違いありません。なんと言おうと私は行きます」
机の下から飛びたしたラカサはデッドリストを開く。まだ逃げ遅れてる客をうまく利用する。
ラカサのルビーのように透き通った紅いがさらに輝き、死神としての力を発動する。それは魂を見ることができる瞳だ。魂は人の情報が詰まっていてその人の名前、性格など全てのことが把握できる。しかしこの状態は長くは持たない。体力の気力を著しく消費するからだ。
だからラカサは走った。そして客の魂と手元にあるデッドリストを比較する。
ボブ死なない、ドリオ死なない、ローカス死ぬ。
これを確認してローカスという人から離れてボブ、ドリオ側の道を進み拳銃を拾った。
「ダンさん!」
ラカサはその細い枝のような腕で拳銃を投げ、それは放物線を描きダンの元へと届いた。
「ナイスだ」
拳銃を受け取ったダンは今もなおしゃがんでいるであろうところへ銃口を向け一発撃った。
その弾はカンターの台に当たるが、お構いなしに無理やりに突き破った。
「うぐっ」
マスターの声が聞こえ、魚雷が止んだ。
「手応えありだな」
カンターへ近づき仏を覗こうと思ったが、そこには誰もいなかった。代わりにマスターのものであろう血がこびりついていた。裏門のドアの外まで続いている。
「逃げられたか」
「でも死ななくて済んだんですからいいじゃないですか」
「まあそうだな」
「でもあの人も超能力者なんですよね。なのに銃弾一発でこんな風になるんですか」
カウンターの台、床の血を見てラカサは疑問を感じた。
「いや普通は傷もつかない。これは俺の超能力、ストレートが発動したからだ」
「ストレートって野球とかのあれですか?」
「そうだな。俺の超能力者は全てストレート、真っ直ぐに飛んで行くようにする。だからこそ超能力者のあいつの装甲を破ってここまで手負いにできたんだ」
「なるほど、性格を表してますね」
「それはどういう意味だ」
ダンは眉をひそめて頬をつねった。
「いえ、深い意味はありまへん」
反省するとダンは簡単に手を離してくれた。
「よしじゃあ逃げるか」
「逃げるんですか⁉︎」
「おいおい、忘れたのか。俺は殺し屋だぜ、ここが戦争ばかりでも警察はいるだぜラカサ」
ダンは酒場から勢いよく飛田して行った。
「て、ダンさん今私の名前呼んでくれた」
「うっせー! 口より足動かせ置いてくぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜」
その時、クラトスは仲間へ電話で呼んで、一人で病院に駆けつけていた。
「あれからなんの連絡もない。扱いがひどすぎる」
四十二歳、独身。彼はベッドの上で寂しさと戦っていた。