超能力者たちの決断
「よし!キリヤ、話の続きを聞かせてくれ。まだ言いたいことあるんだろ」
自分という存在に悩み続けていた超能力者たちの中で一番に声をあげたのはダン。
立ち上がって、両手で自らの頬を思いっきり叩いて喝を入れて、先ほどより清々しい顔をして戻ってきた。
「で、でも私たちなんて結局、人間じゃないんでしょ。そんな私たちが何しても無駄だよ……」
泣き顔を通り越して、絶望の表情にあるリカは虚ろな目でダンを上目遣いで見つめた。
いつもなら涙目で可愛らしい上目遣いになっていたのだろうが、今は正直可愛いとは言えない。
他のみんなも元気がなく、まともな顔つきなのはダンとこうなってしまった原因を作り上げた張本人の二人のみ。
「何だよお前ら。そんなに人間扱いされなかったのが悔しいのかよ。だから諦めるのか?それは逃げじゃねーか。いつまでそうやって逃げ続けるつもりだ。一年か?十年か?そんなの時間の無駄だろ!」
らしくない彼女らと知らない人だが悲しい目をした子供っぽい少女にだんだん苛立ってきて、いつもは大声をあまり出さないダンが精一杯に張り上げた。
「だ、だかなダン。ならばどうしろというんだ。私たちは何者なんだ?」
いつもは強気で男らしいガレッドも今では迷える一人の女の子で気持ち悪さを感じる。
「何者?俺は俺で、お前たちはお前たちだ。悩み苦しんで心を持って生きている。人間だろうとそうでなかろうと関係ない。自分の存在は自分で決めるんだ。本なんかに決められてたまるか。だから俺はキリヤと冥府に行く。それでもお前たちが無駄な時間を過ごしたいならここで悩んでろ。一生答えなんで出ないぞ」
厳しいようだが誰かに自分の存在を決めてもらうのは間違っているし、決められるのも間違っている。
自分自身のことは自分で決めるのは宿命だ。課題とも言える。
その課題は一人で乗り越えなくてはいけないし、マイナスなことばかり考えていてはいけない。
最初に顔を上げたのはキリヤの相棒だと勝手に言われてるプライン。
「俺っちは食べる事が好きだけど、何で食べるかって聞かれたらまずは生きる為って言うかもな。だって食べないと餓死しちゃうしね。でもなんで生きているのって聞かれたら、産まれてきて命をもらったからとしか言えない気がするんだ。だって命が勿体ないだろ。床に落ちたご飯と同んなじだ。そこに理由はないと思う」
最後の方はおかしかったと思うがどうやら元気を取り戻したようだ。
「リ、リカもそう思います!悩んだって仕方ないですよね」
「そ、そうだな。私はダンについて行くぞ」
続くように二人がいつもの調子に戻ってきた。そしてバンはなぜか静かに笑った。
「ふっふっ。やっぱり兄さんは兄さんだね。心に響いたよ。僕は兄さんについて行く存在になるよ」
「いや、それだけは遠慮させてもらう」
手を広げながら前に突き出して冷ややかで即時に拒否した。
「え?何でだい兄さん。こんなに兄さんのことを思って全てを捧げようと決意したのに」
「だからそれが嫌なんだよ。お前は俺のことを考えるな。絶対に変な方向にいく」
「それは無理な話だよ。僕の頭の中は兄さんのことでいっぱいで張り裂けそうなんだから」
これはもう何を言っても無駄なようなので次に移る。
「え、え〜とハヤノちゃんだっけ?」
彼女はあまり落ち込んでいるように見えないが、感情を表に出さない娘なのだろうか。
ともかく彼女のことはあまり知らない。操作系の超能力を使うということはバンやキリヤから聞いたがそれだけだ。
何が好きなのかとか、性格はどんなのかとかは一切聞いてないので困ったものだ。
しかも彼女はあまり喋らなくて、ジッと黙ったままその場が凍りついた。
「え、え〜とハヤノさん?聞こえましたか〜」
あまりにも表情が変わらないので何を考えてるかが分からない。もしかしてちゃん付けが気に入らなかったのではと訂正してみるものの、効果がない。
「……あなたならいいかもしれません」
暫くそのまま待っていると、唐突に何か言い出したがその声はあまりにも小さく聞き取るのが困難でほとんどが耳に入ってこなかった。
「へ?」
もう一度何を言ったのか聞こうとしたが、彼女からしたらあの声で届いてるものだと思ってその隙を与えずに話の続きが始まった。
「私は指示をくれるオーナーがいないと何もできないという存在です。それはもう変えられません。なのであなたが次のオーナーになってくれませんか?」
「お、おお」
突拍子もない申し出だがダンはそれは彼女なりの言い方であって仲間にしてくれ程度のことだと思って戸惑いの二つ返事をした。
すると、さっきまで離れていた距離を何の迷いもなく詰めて最終的には拳一、二個分ほどの距離にまで縮まった。
「おい待て小娘!僕の兄さんに馴れ馴れしくするな。神聖なる兄さんが汚れてしまう」
「それは無理です。私はオーナーを守ることを生きがいとしています。たった今オーナーとなったこの人を守るために出来るだけ近い方がいいんです」
「兄さんの気持ちになって考えてみろ。迷惑に決まっている」
「そうなのですか?」
ブラコン弟の訳の分からない一言に戸惑い始めるハヤノは上目遣いで尋ねてくる。
彼女はキリヤから聞いた年齢とは違って、体の成長が追いついていないが不思議オーラが漂っていて引き寄せられるものがある。
ロリコンというわけではない。彼女なりの良さがあるということだ。勘違いするなよ。
「迷惑ではないけどあんま俺にくっ付くなよ。どっかの誰かさんが変な誤解をするからな」
バンだけことを言ったはずなのに、なぜか他の二人がビクリと反応したがハヤノは小さく短い髪の束を揺らした。
「どうして?私は構わないけど」
何やら意味深な一言。
その後には鋭い視線が痛いほどに刺さってきたがあえて振り向いたりはしなかったのは、その中に弟がいるかどうかだがかなり高い確率で居そうなやめておいた。
「いや〜、流石だよ。あの空気からこんな風に変えるなんて女たらしの才能があるよ」
課題を与えた先生役は机に足を乗せてからかうように笑ってみせた。
これからのことを考えてあえて言ったと思ったんだが普通に楽しんでやがるコイツ!
愉快そうな顔をして踏ん反り返っている男にこの怒りをぶつけてやりたかったが、お供になったばかりのハヤノがその手を押さえた。
「大丈夫です。女たらしも一つの才能です」
「そこじゃねーよ。俺が怒ってんのはこいつが上から目線で俺たちを監視してたことだよ」
「監視なんて人聞きが悪いな〜。ただ目の前で行われる演目を見ていただけだから傍観と言ってくれ。その方が聞こえがいいから」
「どっちも似たようなもんだ。それよりこっちの話はまとまった。お前の意見を聞かせてもらおうか」
迷いは吹っ切れた。次は前に進む番だ。
そしてそれは多くの情報を持っていることからキリヤが入念に準備していたようだ。
「やっと出番ですか。ではまずはアズラーイールの書についてですが、生者の数が多いので死玉と呼ばれる玉に移し替えているそうです。数はどれだけあるか分からなかったのですが、一人では数え切れないほどあるしらいですよ。そして僕たちの目的はこの死玉。これを破壊しなくてはいけないんですよ〜」
「ほう、どれだけ壊せばいい。何なら全部壊してやったらどうだ」
「いえ〜、そのまでする必要はありませんよ。僕たちが欲しいのはたった一つの死玉だけ、2046番の死玉なんですから無闇やたらに壊さないでくださいよ〜」
「壊したらどうなる」
「その死玉に詰まった分の死がないことになります。つまり僕たちの死玉を壊せば死は免れる。これは後付けられた文字でもそうなるはず」
「なるほど、具体的にどうする。未開の地ではこちらが不利になるのは確実だぞ」
特にバンはできるだけ周りに壁がないと戦えない。
「その点については問題ないよ。全体的に室内での戦いだから安心して。策は考えてあるから」
そう言ってポケットから取り出したのは地図。話の流れからして冥府のものだろう。
「いい?死玉は角にある四つの塔に保管さへてるからまずそこに一人づつ潜入する。そして僕らの目的は死玉だと思わせて残り全員で魂の神殿を攻める。そうすることによって真の狙いは本だと思う死神たちは戦力を神殿に集まる。これで死玉のある塔の警護は薄くなるだろうからそこを突く。死玉は壊せなかったら持って帰った後にしよう」
情報を駆使したいい作戦だと思う。
「でも戦力を分散させすぎなんじゃないのか?俺たちが目指してる死玉のある塔知ってたらそこに一斉に攻めればいいじゃないか。お前ならそれぐらい知ってるんじゃないのか?」
そうすればすぐに警護の者たちを倒せて死玉を簡単に手に入れることがでいるはずだ。
「駄目だよ。これは揺動が上手くいかくなくちゃいけないんだ。それに万が一全員でそこに攻め込んでも警護の人に勝てなかったらどうするの?仲間呼ばれて逃げられなくなっちゃいますよ〜」
「そ、そうしたらお前の超能力で逃げればいいだろ」
「もしもことを考えてよ。こういう時はそれが一番大事になってくるからね〜」
「お前の超能力を破る奴がいるかもしれないってことか?」
「そういうこと。とりあえず組み合わせはそっちで決めてね。僕はこれからハヤノちゃんの専用武器が壊れてたからそれを探さないと。戦力は一人でも多い方が助かるから」
忙しそうにナイフで空間を切って中に入ったキリヤに続いてプラインも消えてしまった。
大統領を倒した後だというのにまだまだ戦いは続きそうだと嫌気が差すが、ちょっと変わった仲間が増えた。
「改めてみなさん。ハヤノといいます。これからはここでお世話になりますね」
久しぶりに多くの人に囲まれた彼女は自然と笑みが浮かんでいたのに気づいてはいなかった。