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DEADストライク   作者: 和銅修一
18/26

アズラーイールの書

「死んだら魂はどこに行くのかって考えたことはないかい?それはきっと死神が冥府に送ってくれるんだよ。あ、冥府ってのはあの世のことなんだけどね。でも冥府に送られた魂がどうなるのかってのは分からいんだよ。まあ、僕は転生とかロマンチックなことは言わないけどね死神はいるんだよ。なんせここを通って実際にこの目で見てきたんだからね」

 この部屋で一番大きな存在の黒の中に赤が螺旋状に渦巻いている何かを触った。

 しかし、硬さというものはないらしく、手はズブズブと底なし沼に突っ込んだように吸い込んでいく。

「それは一体なんなんだ?お前の超能力にと似ているようにも見えるんだが、何か関係あるのか」

 色といい、雰囲気といいまるでキリヤの超能力であるブラックスペースに良く似ているのは一度体感したダンにとっては見ただけで感じ取れる。

「いい質問だね。これは僕が今言った冥府に繋がっている門だよ。この世界とあの世の間に作られてるんだ。僕の超能力はこの世界で使ってもあの世側じゃなくてその反対側の空間に繋がってるからこの門じゃないと冥府に行けないだ」

「待て待て、それだと死神がいるって本当になるだろ。証明されなんてなくて誰も信じてないのに」

 信じていないのに彼のように手など突っ込めるはずがないし、何が目的でこんなことを話し出したのだろう。

 だがいくら考えても目的が分からないのでこの話に飽きつつあるダンはため息すら吐いた。

「証明なんていくらでもできるよそこにいるラカサちゃんがいればね」

 指を刺されて一斉に視線が集まった。

「もう隠す必要ないんじゃないかな〜。だったら教えてくれてもいいだ。死神のこと。できれば相手の戦力を知りたい」

 なせわ戦力を知りたがってるのかは分からないが顔は真剣だ。

 戸惑って何も喋らないでいるとそれがラカサは死神であることの証明にもなった。普通の人なら即答で否定するだろうからだ。

 それはおっちょこちょいのラカサにも当てはまる。

「お前、死神だったのか?」

 この中で一番付き合いの長いダンが困っている顔を覗き込んだ。

「は、はい。騙してるみたいで嫌だったんですけど知られるのはまずいことなんですよ」

 世界の公開されて存在を知りれてしまったら、裏で仕事をする死神にとっていい迷惑になるからだがもうばれてしまった。

「ねぇ、ラカサちゃんはここに来るのはダンくんを助けるためとかそんなこと言われなかったかい?」

「はい。ダンさんが死ぬのは間違ってるって

。死神は魂の管理だけじゃなくて生と死の管理もしていますから」

「それは嘘だよラカサちゃん。僕が冥府に監視するために行った時に聞こえたんだよね。この世界にはあまり死神が送られてないんだって」

「あ、はい。でもそれは女性の死神の場合はです。男性はほとんどこの世界で死神の修行してたりします」

「じゃあ、何でラカサちゃんがダンくんを見守ることになったのかな〜?他の目的があるんじゃないのかな〜」

 意地悪っぽく迫って威圧をかけてみるが、いつもの彼女らしく首を傾げられて返された。

「どうやら君も騙せている人の一人のようだね。なら教えるけど君はダンくんが死ぬように送られてきた人材なんだよ」

 真剣な顔で迫られて困るラカサだったが、これはキリヤがこの門を通って冥府でとってきた情報で間違いはない。

「そ、そんなの嘘ですよ。私はダンさんを見守ってきたんですよ。それに仲間には定期的に連絡をしていますけどそんな話一切聞きませんでしたよ」

「それはラカサちゃんが仲間はずれにされてるか、黙っておいた方が良かったからなんだろうね〜。こっちからしたらどうでもいいだけど。でも僕がこれから言う計画にはあんまり関係ないからラカサちゃんは死神として知ってるだけのことを教えてくれないかい?」

 偵察をしてそれなりのことを知れたキリヤだが知識というものは多くて困るというものではない。

「な、何でそんなこと教えなきゃいけないんですか?そんなこと教えたら私、反逆者にされちゃいますよ〜」

 一方的で自分が損ばかりするのではないかと、個人的に彼が嫌いだったので情報提供には戸惑った。

「ならこう考えてよ。これは君が依頼されているダン=ストライクくんの命を助けるためのなんだって。そうすれば裏切りということではなくなるんだよ。もしそう言われても僕から聞いた話を忘れて依頼を遂行しようとしていたって返してやれば嘘をついているあっち側は迂闊(うかつ)に反逆者扱いはしないと思うよ」

 確かにあちらはまだ騙せていると思い込んでいるのだからそれを利用するのはありだ。

「分かりました。出来るだけ協力します」

「そうかありがとう。じゃあ超能力者である皆にとって大事な話をするけどここにいるのもなんだし、ちょっと場所を変えよっか」

 ちゃんとエレベーターを元の位置に戻した後、切り裂かれた空間の穴を通って七人の超能力者な死神は数分ほど歩いてダンたちには見慣れたところに出た。

 古びた洋式の館。ビリヤード台に色とりどりのダートという手投げの矢が刺さったままのダーツボード。薄汚れた木の机。

 まさしく殺し屋STRIKE(ストライク)の中である。

「な、なんでここ?てか、お前俺たちの居場所知ってたのかよ!」

 当たり前のように悠々と入るが、ここは秘密の場所で政府にも知られていないはずであって一度敵の仕掛けた罠が来たがそれは偶然だったとクラトスが話していた。

「まあ、まあ細かいとこは気にしない。それより席についてよ。話の続きするからさ」

 はぐらかせながらちゃっかり、ダンがいつも座っている黒革の特等席に座る。

 別にそれが嫌というわけではない。図々しい彼にイラっとしたのだがいちいち注意しているときりが無いので黙って客人用のソファに座るとそれに続いて他の者も誰も文句を言わず、席についた。

「本当にここに来る必要があったのか?俺はただお前が面白がってるようにしか見えないんだがな」

 流石に何も言わないのは実権を握られているようで腹が立ったので自分の特等席が奪われたダンは愚痴をこぼした。

「もちろん必要だよ。今から大切な話をするから誰にも聞かれたくないんだ。あそこに比べてここは監視カメラとか仕掛けられないだろうからね〜。それに一回来てみたかったんだよここに」

 興味津々に周りを見るがここには大したものはない。

「何もねーよ。ここはクラトスのおっさんが用意したもんだからな」

「な〜んだつまらないな〜。まあいいや、それより話の続きをしようか。気になる人も多いようだし」

 多いと言うが、全員が気になっている。

 だからこそ皆が真剣な顔つきになった。ラカサも例外ではない。

「じゃあ初めにアズラーイールって知ってるかな?死をつかさどるっていう天使なんだけど」

 これは誰も知る者はおらず、全員がゆっくりと首を横に振った。

「やっぱり知らないみたいだね〜。死神なら知ってて当たり前なんだけど流石ラカサちゃんだよ」

 呆れるように呟かれ、恥ずかしそうに(うつむ)く常識知らずの死神だがそれを(とが)める者はいない。もはや慣れてきた。

「で、その天使が何なんだ?話と関係があるのか。これは死神の話だろ」

 回りくどい言い方に(ひざ)を揺らし続けて苦虫を噛み潰したような顔をして問いただす。

「無論大有りさ。そのアズラーイールが肌身離さず持っていたとされる本が冥府の重要物を保管する魂の神殿に隠されているんだ」

「だからどうしたというのだ。お前が言っていた私たちの死とは関係ないではないか」

 苛立ち始めたものがもう一名。ダンの隣に座り、専用武器のスナイパーライフルを肩と手で支えているガレッドは強気な口調で彼を批判する。

 それも無理はない。ガレッドは彼のような飄々(ひょうひょう)とした男が一番苦手で嫌いなのだ。少しは怒りもするだろう。

 だが嫌われているのを知らない彼はいつも通りの笑顔を絶やさない。

「待ってくださいよガレッドちゃん。話はまだ終わっていませんよ」

「ちゃ、ちゃん? !」

 言動からちゃん呼ばわりされることが少ないので声を裏返しながら驚いてその場から立ち上がってしまったが、視線が注目したのに気づき咳払いをして何事もなかったように座り直した。

「それでここからが本題なんだけどその本は元は生者の名前が記されてあって、その人が死んだら消えるってだけの代物だったんだけど死神が仕事に役立てるように改良したらくて今では人がいつ死ぬのか、どうやって死ぬのかが書かれるようになったんだ。そして改良されたせいで外部からの干渉が容易になったらしくて誰かが僕たちの名前と死に方と時間を書いたんだよ」

「ま、待ってくださいよ。書かれたってそれまでは私たちの名前が書かれてなかったって事ですよね。生者の名前が記されているならそれはおかしいんじゃないんですか?」

 最初に話の異変に気がついたのは知らない人と敵だと思っていた人がいるので怯えながら縮こまっていたリカだ。

 まずキリヤの話が全て嘘偽りのないものだとして生きている自分たちが生者扱いされていない事がおかしい。それだけと死者と扱いが同等のようなものだ。

 さっきのは今現在、息をしてこうして話し合っている彼、彼女たちの心臓は動いているのに彼はそれでもあなた達は生者ではありませんよと告げているのに等しい発言だった。

「アズラーイールの本、死神たちはアズラーイールの書と呼んでいるものは自然体で産まれた生者でないとそこに記されません。忘れたんですか?ここにいる全員は普通の人間ではなく、超能力を使うために人工的に作られた存在だと」

 重い現実を突きつけられた者たちの顔は一斉に暗くなった。

 今まではずっと自分をちゃんとした人間と思い込んで忘れようとしていたのにこんな形で思い出されてしまった。

 ただ逃げていたのと同じだが、それでも人間として扱って欲しかった。辛い研究所では兵器として扱われてしたので自分を正当化したかったのだが、それと許させることもなく死神が改良した本によってそれを全否定された超能力者たちは複雑な感情の中を漂った。

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