蜂のガトリング
「兄さんたちは行ったか。まったく世話が焼ける兄さんだ。それに……」
無数の蜂の姿をした何かが周りを取り囲んで羽音を響かせた。
「面倒ごとを増やすのが上手くなった」
自慢のリボルバーを構えてそんな彼だからこそ守るに値すると心の底から思った。
「だけどこれは一体なんなんだ」
自由気ままに動きまわる黄色の数々。目が回ってしまいそうだ。
だがバンはそこまで間抜けではない。とりあえずその正体を知るために数発撃ってに引き落とした。
これで正体が分かると蜂が落ちたところへ向かうとそこには死骸ではなく、二発の徹甲弾が落ちていた。
徹甲弾の特徴としては装甲に穴を開けるために設計されたものなので先が細長く、少しだけ蜂の針に似ている。
それによく見ると両側に不自然な溝がある。こんなものは徹甲弾には必要ない。となるとこれはただの徹甲弾ではない。
「専用武器か」
超能力者のために特別に作られた武器、それが専用武器。
これには超能力に合わせて作られており、その人の超能力によって形状などは違うが超能力ナノマシンが伝達しやすいということは共通している。
一番シンプルな専用武器はダンとバンの拳銃。
ダンは超能力のストライクのために弾が異常に硬いように作られている。硬度はダイヤモンドをゆうに超えているだろう。
次に今バンが持っているリボルバー。入る弾数は六発と比較的に少ないが、その弾は極めて円状に近い形をしている。こうすることによってバウンドしやすくなったりする。
これらのような専用武器があるが、バンが今持っているようなものは珍しい。
「これ、形が変形するのか。少し厄介だな」
敵の超能力は明らかに操作系のものだが、その操られている物も危険だ。それに数が多すぎて一つずつ相手をしている時間はない。
それだと一部の蜂がダン側に流れてしまう。それを回避するためにまずこちらの方が強いと見せつけなくてはいけない。
「やってやる」
場所と角度を計算、バウンド開始。
回転しながら出た弾丸は続々と蜂たちに当たってみせた。
だがバウンドの要となる当たる対象物がとても小さくて動くので二桁以上連続でいくことはない。
それにいくら落としても数が減っている気配など微塵も感じられない。ふと、周りを見渡すと左にあったビルの屋上から複数の小さな黄色い点が割り込んできた。
どうやらお相手さんは高いとこで観戦を決め込んでいたらしい。
「あそこか、引きずり下ろしてやる」
怒りと何らかで殺気に満ちるバンに周りの蜂たちは慌ただしくなった。
そして何らかの合図があったのか、一斉に羽の向きを逆の針の方にした。すると羽の音とはまた違う音がしたと思ったら羽の部分を収納できる場所から青白い炎が上がって、蜂はミサイル型の徹甲弾となってバンへと突っ込んで地面に着くと同時に爆発した。
「そんなもの効くわけないだろ」
だがそんなものバンからしたらオモチャに過ぎない。爆発の煙を突き抜けて飛んでいた。
いや、飛ぶというより跳ねていたといったほうが正しい。
というのもバンの超能力は弾にしか効かないというものではない。物体であればほとんどのものに通用する。
それを利用して地面のコンクリートを超能力で跳ねるようにしてまるでトランポリンのように跳ね飛んでいるのだ。
そして大きく跳ねて着地したところは超能力者がいると思われるビルの屋上。
避難警報が出ているというのにそこには一人の少女がいた。風貌からして超能力者であることは間違いない。
「お前があの趣味の悪い蜂を操ってたのか」
「趣味は悪くありません。それに蜂ではなくイビーちゃんです」
「名前なんてどうでもいい。お前があれを操っていたのだろう」
バンはなんとなく冷たい言葉で接したが彼女はそれでもコクリと素直に返事をした。
「そうか……ならば手加減などする必要はないな」
彼女が超能力者であると確信があったものの質問してしまったのは見た目が中学生ぐらいの娘に見えたからである。
紺色で短いツインテール、ピンク色で真ん中に星がプリントされたパーカー。
まさしく女の子といった感じがするのだがそれを打ち消すかのように両手には彼女の体重よりも重たそうなガトリングが一つずつ握りしめられている。
「あなたに恨みはありませんが、これは命令だから悪く思わないでよ」
自分が勝つ気の彼女がガトリングの引き金を引くのに迷いなど一切ない。まるでゲーム感覚のように引き金を引く。
その度に彼女がイビーちゃんと呼んでいる徹甲弾が元の蜂が次々と出現して針をつきたてながら突進してくる。
何発かバウンドを使った弾で撃ち落としてみたもののいい成果は上げられはい。
堪らず後ろに逃げてビルから飛び降りたと見せかけて掴んだビルの一部でバウンドの効果を発揮させて空中に舞って残った弾で余ったイビーたちを全滅させて再び彼女の目の前へと舞い戻ってきた。
「お前、名前はなんていう?」
「ハヤノです。何でそんなこと聞くんですか?セクハラですよ」
「残念ながらそういったものではない。お前からは妙な気迫を感じれたんで本気を出してみようと思ったんだよ。でもなそれだと死んでしまうかもしれないから一応聞いておくんだ」
「変な人ですね。そんなこと気にしなくてもいいのに」
「変……か。確かにそうかもしれないな。だがこれは僕が尊敬する兄さんがこうすると思ったからそうするだ。それ以上侮辱すると地獄に叩き落とすぞ小娘」
目がつり上がってバンの顔は豹変して弾を連発する。しかしここはバンにとって分が悪い場所となっている。
バウンドは壁などの反射させるためのものがあってこその攻撃でそれがないと一番得意としている弾で翻弄することはできない。
あの時、地下水道にいたのは偶然ではなく自分が有利になる条件が揃っていたからだ。
だが今回は最悪の条件。一番嫌なのが風。
これで負けたということもあるし、反射する時の妨害となるのが難点。だが風なんてもの自然現象。風使いの超能力でない限り、どうにもならない。
弱音を吐くと勝てる要素が一個もない。だけどここを引くということは兄さんの期待に背くということ。それだけは嫌だ。
自分の専用武器を力いっぱい掴んで、あることを決意して弾を装填しにかかる。
だがその数秒の隙を見逃すほど彼女の目は甘くない。瞬時にガトリングが火を噴いて大量のイビーが出現する。
大量といっても十か二十の数だったのでこれは楽勝だと思って計算を終えたところで引き金を引いたが弾はバウンドがは発動するまでもなく空の彼方へと消えて行った。
「あなたの超能力は調査済みです。弱点も知り尽くしています」
あえて言う必要もないだろうとそこで口を噤んだ。
それぐらいバンも承知はしていた。弱点のないものなんてない。それに直すことができないから今までは敵に気づかれないように戦ってきた。
しかしハヤノはもう看破しているからといって顔一つ変えはしないがそれでも彼女が余裕な感じなのは確かだ。
弱点を見抜いている。
と言うが、その弱点が凄く考えなくては分からないものではない。戦闘中でも冷静でいられる人ならば誰でも気づくこと。
それはバウンドは必ず物に当てなくては弱いということだ。
これは地下水道でダンと戦った時の最後の一発が物語っている。
つまり、バウンドはすればするほど格段に威力が増すが逆にそれさえなければとても弱々しい。
だからこんな壁の少ないところでの戦闘は嫌だった。今更ながら後悔をしている。
「もう、そろそろ諦めてくれます。時間勿体無いんで」
結局、イビーを使おうとしても精密な動きでかわされて今までただ逃げ回ることしかできなかった。
「残念だが俺は諦めることができない。僕が一番尊敬している人が死ぬまで諦めるな、死んだら諦めろと言ってたから当分諦められないな」
「そうですか。なら死んで諦めてください」
ここに来るの時と同様にイビーの羽が変形して鼻の長い魚のようになった。
変形したイビーたちは内蔵されたエンジンで縦横無尽に飛び回る。どうやら前の時は手を抜いていたか、距離が遠かっただけで今のが本気のようだ。
その目にも留まらぬ速さの弾丸にはついていけず、とうとうバンが捉えられて右の足首へと命中した。
「ぐっわ!」
防御が高くないバンの肉は簡単に貫かれてぽっかり穴が空いた。
「これで勝負はつきましたね。武器を渡してください。そうすれば見逃してあげます」
自分より年も背も低い女の子に見下ろされながら情けをかけらる。意外とプライドが高いバンにとっては屈辱的だった。
しかし十分に時間は稼げたと思う。だからこれからは男、バン=ストライクの戦いだ。
「残念だが俺はまだ諦めてない。言っただろ死ぬまで諦めないと」
睨みつけたその顔はもはや呆れたの感情しか残っていなかった。
「一つ聞いていいですか?それは超能力者として行っているですか、それとも男性として言っているんですか」
執念すら感じさせるその気迫が何なのかほんの少しだね気になってしまって、ついそんなことを口走ったが言ってしまった以上取り消すことはできない。だから諦めてその質問の答えを聞くことにした。
「人間としてだ」
だが返ってきたのは選択肢意外で、とてもあり得ない答えだった。
「私たちは超能力者です。人間ではありません」
「超能力が使えれば人間じゃなくなるのか。それはおかしいものだ。元は同じなんだなら人間と大差などない」
「か、勝手なこと言わないでください!」
今までの自分が全否定されているようでハヤノは初めて声を荒げてガトリングを向けたがそれよりも早く引き金を引いたのはバン。
しかしその手には拳銃は握られておらず、ずっと握られていた手をただ開いただけ。それだけでハヤノはガトリングを撃てなくなっていた。
粉々になって手からこぼれ落ちたのだ。
「今まで手のひらでバウンドを発動させ続けて力を溜めていた。これしな君に勝つ方法がなかったからね。悪く思わないでくれ」
去りゆくその男を追わず、ハヤノは自分の相棒の成れの果てを見つめた。