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DEADストライク   作者: 和銅修一
13/26

バウンド

 ダンの手元にある手紙の内容は地下水道に大量のネズミが現れたので駆除して欲しいものであった。

 だがそれは前置きに過ぎなかった。最後の方には“こんな大きなネズミもいます”と添えられていたのはリカと脱走して行方不明になっていた弟の写真だった。

 短い水色の髪に綺麗な黄緑色の目。間違いなくバンの姿だった。

「でも誰がこんなものを」

 問題はそこだ。

 なぜバンがこんなところにいるのか?それになぜリカと脱走した後に行方不明になったのか?

 他に幾つか疑問はあったが、手紙を送ってきたのは誰なのかというのが一番気になる。

 その人物が裏で糸を引いている張本人だからだ。しかし確かめようにも飛び出して来たため、手紙を持ってきたクラトスがいないから試す方法がない。

「ま、考えててもしょうがねーか」

 ダンがいろいろ考えながらも着いたのはバンが発見されたという地下水道。

 ここはありがたい事に電灯があるので探しやすいと言ったら探しやすいが、ここは地下水道。

 街の地下に血管ように張り巡られているから隠れる場所などいくらでもある。

 だから普通に探しても見つけるのに何日もかかってまう。でも頭を使うのは面倒。そんなダンが行ったのは銃の乱射。

 ただの乱射ではない。北、南や各方向細かく分けて十六方位に回るようにして撃つ。

 こうすることでダンの超能力であるストレートで地下水道の壁に小さな穴が空いて遥か先まで飛んでいく。

 弾は余るほどあるので遠慮することはない。それを移動しながら続けてバンが自分の存在に知らせる。

 そうしたらバンは必ずここまでやって来る。これは確実に起こることだ。

 だからダンはそのまま連射を続けていると、ネズミなんかよりも比べものにならないほど大きな影が現れた。

「やあ、兄さん。何日振りかな?」

 声が高い優男。

 それがバンのを一言で表す言葉だ。

「知るかよ。そんなのいちいち数えてねーよ」

「冷たいなぁ兄さんは。でもそれでこそ兄さんだよ。良かった、変わってなくて」

 もう一つバンを表す言葉があった。

 それはブラコンだ。




 一応説明しておくが、ブラコンとは兄、もしくは弟に対して強い愛着、執着を持っている状態だ。

 つまりバンは兄であるダンが好きだということだ。

 なぜこうなってしまったのかは分からない。原因があったであろうが、今だに不明である。

「あ〜、兄さん。その鋭い目、気迫。やっぱり兄さんの空気は最高だよ」

「そんなことはどうでもいいだろ。何で姿を消していた。リカと俺のところにこれば良かったものを」

 あの脱走作戦での一番の疑問はそれだ。共に協力し合う仲だったのに、何の前触れもなく消えたバン。

 大きな戦力を失ってしまったと困っていたものだ。もし、最初からバンが仲間になっていたら今までの戦いはスムーズに勝てたはずだった。

「兄さん……。そうか兄さんは僕のことを心配していてくれたんだね。流石、兄さんだ」

 常時ニヤニヤしている彼の目はとても怪しく光っている。

「バーカ。んなわけねーだろ。俺は何で約束破ってこんなところでかくれんぼしてんのかって聞いてんだよ」

「ふぅ……。そうだ兄さん。一つ、決めたことがあるんだ。それは兄さんを殺す」

 今度は狂気に染まった笑みでリボルバーを取り出して連続で二発撃った。

 だが弾の軌道はあらぬ方向でダンに当たるはずがなかった。

 しかし、完全に軌道が()れたと思われた弾は壁に当たると同時に甲高い奇妙な音を発して、反射した。

 その反射した先にはダンの横腹。確実に両側の横腹をえぐった。

「げばっ!」

 これは弟とであり、仲間であるバンの超能力。

 名称はバウンド。その名の通り、当たったものが何であれ超能力ナノマシンが流れ込まれた攻撃はバウンドしてその回数分だけ威力が上がるというものだ。

 これもダンと同様で政府からは恐れられている力でもある。なぜならばバウンドして威力が上がるのに制限がないからだ。

 つまり上手く使えばダンのように超能力者の強靭(きょうじん)な体をも吹き飛ばすほどの力を有しているのが、このバンの超能力。

「な、何で……こんなこと」

 だがその超能力は兄であるダンに使われていた。

「兄さんだけには言うよ。実はね、あの後、亀女とはぐれてしまって、僕はある人にあったんですよ」

 亀女とは一緒に逃げていたリカのことだ。

 いつもビクビクしていて行動が遅いからと、バンが勝手にそう呼んでいる。

「ある人?」

「名前はサカマ=ソーマタカス。兄さんが狙っている大統領だよ」

「大統領だと!会ったのかあいつに」

 まだ、ダンは写真で顔を見ただけで実際会ったことはない。しかも政府の長でもある大統領が脱走しようとしている超能力を見逃すのかと疑問にも思った。

 普通、厄介になる前に消すはずだ。だが、今目の前にバンが五体満足でいるのでそれはなかったらしい。

「ああ、牽制しながら逃げたよ。それだけでもあれの強さは十二分に分かった。兄さんたちはあれに勝てない。だからこそ兄さんを殺す」

 何の躊躇(ちゅうちょ)もなく引き金を引いた。

「同じ攻撃は食らわねーよ」

 バウンドするのは分かっている。だからダンはあえてその場から前に出るように足を踏み込んだ。

 間一髪。弾はダンの後ろを過ぎ去っていった。

「やっぱり兄さんは僕のことを一番理解してくれてるんだね」

「変な言い方はやめろ。だが、なんで俺を殺そうとする意味が不明だぞ」

「なに言ってるの兄さん。兄さんはどうせ僕が止めてもあの男に戦いに挑むのは分かってる。でもそれだと兄さんはあの男に返り討ちされて、殺されるだけだ。ならいっそ僕が殺してあげようって話さ。そうすれば僕の兄さんは兄さんのままでいられる」

「ますます意味わかんねーよ。俺はどうしたら殺されなくて済むんだよ」

「証明……、証明して欲しいんだ兄さん。あの男に負けないという証明を。そのために久しぶりに殺り合おうよ」

 リボルバーの銃口を上に向かって撃った。

 撃たれた弾は天井にぶつかってバウンド、さらに地面でバウンドをしてVの字でダンを襲う。

 だが、避けられる場所がある。

「ここだ!」

 襲いかかってくる弾を横に飛んで回避した。が、頭上から甲高く、奇妙な音が鳴り響いた。

 バウンドの発動する時の音だ。

 咄嗟(とっさ)に両腕を上にして盾代わりにした瞬間、重たい衝撃が走って思わず尻もちをついてしまった。

「まだまだこんなもんじゃないよ兄さん!」

 少なくなってきた弾をリロードして今度は左横と右横に一発ずつ。ジグザグに迫ってくる。

 ダンはしゃがんでやり過ごすことにした。

 上に飛んで避けるというのも無くは無いがそれだと浮いている時間に集中砲火される可能性もあったから下にした。

 だがそれの同時にバンは事前に決めていた角度に撃った。それは下、地面にぶつかって跳ね上がったと思ったら横で縦横無尽にバウンドしまくってる二発のうち一発に当たってもう一度地面に当たってそれはダンの腹部へと直撃した。

「がっ!」

 予想だにしていなかった下からの攻撃でダンは血を吐いた。さらにその弾で上に持ち上げられて自然と横でバウンドしていた二発の弾がまたもや横腹に命中してしまった。

「ば……!」

 流石のダンでも蓄積されたダメージで膝をついた。

「ガッカリだよ兄さん。これじゃあ弱すぎるよ」

 ため息をついたバンは帰ろうかと思ったが後ろからの銃弾が目を覚まさせた。

「オイオイ、気の早いこといってんじゃねーよ。俺はまだまたやれるぜ」

 痛みで片目を閉じながらダンは立った。

 足元がフラフラふる。凄まじい威力だった。

「お前の敗因はここまでで俺を殺せなかったことだ」

「何を言ってるんだい兄さん。この勝負兄さんの負けだよ」

 声を高らかにバウンドを発動させながら弾丸を放ったがそれがダンに当たることはなかった。ダンはただ立っていただけだというのに。

「あ、あれ?」

 まぐれ?

 そう思って次は慎重に角度を決めて撃った。しかしそれでも結果は先ほどとそう変わらない。

 バンは意地になっていろんな角度から撃ってみせたがどれも当たることはなかった。

「これでお前の負けだバン!」

 拳銃を腰にしまって拳を振りかざしてダンは弟に突っ込んだ。

「くっ!」

 最後の悪あがきとばかりに額を狙って撃ったが、その弾はバウンドで強化されていないので耐えきれずに粉々に砕け散った。

 バキ!

 その後はダンの拳が骨に響いた。

「これは兄を侮辱した分だ。じゃあ、俺はお前に借り返したから帰るわ」

「ま、待ってください兄さん!どうやって僕のバウンドを破ったのですか?それだけ教えてください」

 何かの細工をしなけばあれほど弾を外すことはなかった。彼が何かしたのだ。

 だがバンにはその何かが分からなかった。

「それだよ、それ。お前の後ろにあるやつ」

 ダンの指に(うなが)されて後ろを見てみるとそこには壁に押さえつけられているバンの弾とそれを押さえつけているダンの弾があった。

「お前が何発か撃ってる時に超能力がかかってる弾を俺のストライクでバウンドしないように壁に押さえつけといた。そうすることによって回転数のあるお前の弾はさらに回転して風を起こしたんだ。それでお前の角度の計算を狂わしていたんだ」

 回転数が多いのは初期の攻撃力を底上げするためだったが、それを知っていたダンは利用してやったのだ。

「流石、僕の兄さんだ。だけど戻る気は無いよ。今更戻ったって無駄だろうし」

「そうか、ならいい。だけどこれだけは覚えておけ。お前は俺の弟であり、仲間だ。困ったことがあったらすぐ連絡しろよ」

「分かったよ兄さん」

 結局、認めてもらえたのかダンが弟に殺されることはなかった。

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