最後の仲間
「隊長!ご報告があります。先ほど送り込んだアルジェントが破壊された模様です」
政府の拠点の一室に武装した兵士が入って礼儀正しい大きな声でキリヤに報告を済ませた。
「そう。でもそれってさ〜当たり前のことだよね〜」
「と、言いますと?」
「だってアルジェントは確かに戦争では役に立ったらしけどそれって相手が普通の人間だったからなんだよね〜。でも今度はベテランの超能力者。敵うはずがないんだよね〜。特別な力もない、ただ装備に頼ってばかりの機械はさ〜」
「道具とは兵器のことですか?」
「そうだよ。でも僕たちが使ってる武器は普通の兵器とかは違うだよねこれが。一人一人の超能力に合わせて超能力ナノマシンを組み合わせて出来た超能力者専用の武器、というか兵器さ〜。戦闘系の超能力者は全員持ってるよ〜。これ常識」
人差し指を立ててまるで出来の悪い生徒に優しく教える先生のように振る舞う。
「そ、そうなんですか。ですがなぜ負けると分かっていてアルジェントを送ったのですか?犬死じゃないですか」
この兵士はそこが気になっていた。負けると分かっている戦争に行くものはいない。そもそもアルジェントは望んで戦ったか些か疑問だ。
「あれはただの時間稼ぎさ。どうせあれは後で処分される予定だったか有効活用したまでだよ。ちゃんとお偉いさんの許可を降りてるから安心して君は君の仕事に取り掛かりなよ」
「は!失礼しました。では最後に質問をよろしいですか?」
「なんだい?僕は部下の質問なら答えちゃうよ。何でも言ってみなさい」
「はぁ……。で、では隊長が書いている手紙は何ですか?」
入った時から書いていたので少し気になってしまった。それにこのご時世に手紙とは珍しいと思った。
「ああ、これかい。これは何でも屋にネズミの始末を頼もうと思って書いているんだ。だからこれは依頼書みたいなものだよ」
「ネ、ネズミなんてここにいるんですか?」
ここはとても入り組んでいるからネズミの住処としてはいいのかもしれないが、そんなもの兵士は一度も見たことがない。
「それぐらいいるさ〜。天井裏だけじゃなくて地下にもウジャウジャいるからね〜。それにあわよくば相打ちになってくれたら〜なんて淡い気持ちを乗せて書いているだよ」
「そ、そうなんですか。失礼しました」
兵士がこの場を去ったのは話すことがなくなったとかではなく、キリヤのにやけた顔が仲間であるのに怖いと感じてしまったからだった。
「ダン、ほら飯だぞ」
重量のある音を立てて置かれた皿には山盛りのカレーライスが乗っていた。
「ま、またカレーかよ。確かに美味しいけどよ、流石に五日連続はキツイぜ。これならピザが良かったぜ」
その方がバリエーションが豊かなので早々飽きることはない。
「ふん!そんなのばかり食べてると体に良くないことぐらい知っているだろ。それより何か?私が作ったカレーが食べれないとでも」
「そ、それは……」
ガレッドの必死な眼差しにダンは口が止まってしまった。
「お〜い。ダン喜べ依頼だぞ」
そんなナイスタイミングに現れた
元気がいいおじさんは手紙を持ちたながらダンたちの本拠地へと来た。
「なんだよ、どうせ面倒な仕事なんだろそんな仕事はお断りだ。俺はそういう面白みのない仕事は嫌いなんだよ」
ダンの言う面倒な仕事とは表向きでやっている何でも屋への依頼で、庭の草むしりから迷子の猫を探したりと穏やかな仕事だ。
だがダンにとっては刺激が足りないのか、そういった仕事は他の三人に任せていることが多い。
「まあ、そう言うなよ。お金を稼ぐには働くしかないんだ。目を通すぐらいはしてくれよ。一応ここのリーダーなんだからさ」
「ったく、分かったよ」
渋々と散らかった机の上に置かれた手紙の封を破いて中にあった紙を取り出すと、写真が一枚飛び出した。
「おっと」
床に落ちたそれを拾おうとしゃがんでその写真を覗いたダンの手が止まった。
「どうしたんですかダンさん。何が写ってたんですか?」
異変に気付いたラカサは後ろから呼びかけてその写真を見てみようと試みたが、ダンは体で邪魔して頑として見せようとはしなかった。
「お前はまだ知らなくていいことだ」
冷たくラカサを突き放すとその写真を元の場所に戻して、紙に書かれた文を流れるように読みとそれも封の中に入れて磨いていた拳銃を腰に装着して扉を開けた。
「俺はこれから仕事に行くが、絶対ついてくるなよ。ただの邪魔になるからな」
睨みを利かせて大きな音が鳴るように扉を閉めて出て行った。
「なんで今更出てくるんだよ」
誰にも聞こえないように空を見上げてダンは息を吐いた。
「さっきのダンさん様子が変でしたね」
殺し屋STRAIKEの本拠地である古びた洋式の家に残っているのはクラトスが忙しい、忙しいと言いながら出て行ったので女性三人のみ。
「確かにそうだよね。何か押し殺してるような。そんな感じだった」
「いや、いつもそんな感じだろ。自分一人で勝手に事件に巻き込まれて勝手に解決してしまうだろ」
リカとガレッドは呆れたようで心配しているようにダンのことを愚痴った。
「へ〜、昔からそんな感じだったんですか。流石、長い付き合いですね。私はダンさんと会ってからそんなに経ってないから分からないことばかりですよ」
ラカサが始めて会ってから、逃走した時のことを話してはくれたがダン自身の話など一切聞いたことなどはない。
「ん〜、ダンくんは結構自分の事を言いたがらないからね〜。多分、ラカサさんが聞いても何も教えてくれないんじゃないのかな?さっきの手紙のことも含めて」
確かにダンは口が堅くて、口が悪い。
何回か罵倒して話が逸らされてしまうのがオチだ。
「そうだな。だが、手紙のことはダンに聞かなくとも分かることだ」
自信満々に笑うガレッドが人差し指と中指の間に挟んだものを二人に見せた。
「こ、これはさっきの写真ですか?」
「そうよ。小石を当てて私の手元にテレポートさせておいたのよ。ダンがまた変なのに顔突っ込んでるかもしれないからな」
カレーのことで喧嘩をしていたが、やはりダンのことが心配のようだ。
全員に見れるように写真は三人の真ん中にある机に置かれた。
「あ、これって」
「うむ、そうだろうな」
少し暗くて見にくいところがあるが、ラカサもその男の顔を知っていた。
「ラカサは知らないと思うけど、この男はダンの弟よ」
知っている。
ラカサはターゲットであるダンの情報は前々から集めていた。だから本当はガレッドとリカのことは知っていたし、この写真の彼も知っている。
彼の名はバン=ストライク。
ダンたちと同じ超能力者でダンの実の弟でもある。