増幅
「おやおや〜、ふぅむ、なるほどなるほど」
キリヤはUDを眺めながら、頷き、楽しそうに笑っていた。
「どうしたのですかキリヤ隊長」
一緒にいた兵士はそれを不審に思った。彼は一体何がおかしくて笑っているのだろう。
「いやね、どうやらターゲットとは別の超能力係数が感知されたんですよ。つまりどういうことかわかりますか?」
意地悪そうに質問する。兵士を試しているのだろう。
「ここに別の超能力者が現れたということでしょうか」
「ピンポ〜ン大正解。そしてここで現れるのは彼女の仲間しかいません。彼女は僕と同じで非戦闘員ですからね〜」
「リン=フレバレスの仲間……超能力者殺しのダン=ストライクですか? !」
ダン=ストライクは一般兵士達の中でも有名だ。数々の超能力者を葬り、皆が恐怖している。
「そう、だけど超能力者殺しなんかじゃあないよ彼は。死神さ。迷うことなく殺しを実行する死神」
何か意味深なことを言ってキリヤは廊下を革靴の音を響かせて歩いた。
「こちら異常なし。さらに奥を探索する」
「了解、キリヤ隊長からの伝言によるとダン=ストライクがこの辺にいるらしい。十分気をつけて、遭遇したら戦わずに連絡をしてくれ」
「わかった注意する」
そこで兵士はトランシーバーを切って、周囲の安全を確認しながら進む。
「なんで俺がいることばれてんだよ。これじゃあ奇襲とかできねーじゃん」
道の角で隠れながらそれを聞いていたダンは困っていた。
たった二人で徘徊している兵士だがこのような任務を任されるならかなりの精鋭だ。
警戒してる彼らに奇襲しても片方が連絡する可能性がある。そして居場所が知られたら一番に飛んでくるのは超能力者だろう。
それだけはどうしても避けたい。
「どうしたもんか……」
「なら戦わなきゃいいんじゃないんですか?」
「は? !」
提案したのはラカサだった。
「だってあの人たちと戦う理由がないじゃないですか。今回の目的はリカさんなんですし」
「それもそうだが気にしていたら時間がかかってしまう。その間にリカが捕まってしまうかもしれないぞ」
手厳しく問題点を指摘するガレッド。
「ならガレッドさんのテレポートを使えばいいじゃないですか。細かく移動しておけば見つかることもないですし、時間も短縮できますよ」
「なるほど……では善は急げだ」
頷いたガレッドは二人に手で触れて、ラカサの考えたテレポート作戦を実行した。
テレポートのいい点はすぐに、簡単に移動できることなのだが一切攻撃力はない。
それにテレポートしようとする場所に何かあると強制的に超能力が解除される。つまり、既に物体があるところにはテレポートできない。
これらを含めてガレッドはこの超能力を誇りに思っている。
「おいダン。確かにこれだと時間短縮になるが片っ端から探すとなるとやはり無理だ」
分かれて探すという考えもなくはないが、それだと攻撃手段を持っていないラカサはすぐに捕まってしまうだろう。
だからこそこうやって固まって探すしかない。
「何かヒントがあればいいんだが……」
周りに誰もいないことを確認しながらダンは地図を広げた。
「あれ?さっきは気づかなかったですけどこれはなんですか?」
ラカサは左上に小さく書かれている“し※m”
という文字を指した。
「暗号……だな。リカが手紙を取られることを想定に入れて簡単に居場所がわからないようにしたんだろう」
「でもこれじゃあ私たちもわからないですよ」
「とりあえず説明している時間が惜しい。ガレッド急いでくれ」
「わかっている」
何もかも悟ったようにガレッドはテレポートを小刻みに発動して素早く移動を開始した。
着いたのは迷子センターの前である。
「本当にここですか?」
「ああ、まだ誰も来てないみたいだし簡単に説明してやるよ。まず、mからだ。これは俺たちが脱出する前に考えた方角の表した方だ。北はZ、西はMみたいにそれの向きを変えると方角を英語にした時の頭文字になるようにしてある。つまりこの場合はmを左回転させてEつまり東(EAST)となるわけだ」
補足すると北はZを左回転させてNORTHの頭文字N、西は半回転させてWESTの頭文字Wとなる。
「じゃあ、“し※”っていうのはなんですか?」
「それはしんにょうの“し”に※ではなく米だ。それを合わせても迷子の迷。これは俺たちが勝手に作った造語みたいなもんだからわかる奴は少ね〜だろうな」
これで暗号は解説した。今までのを全て合わせると……
「東にある迷とつくところ、つまり迷子センター」
「そういうことだ入るぞ」
得意げそうに謎解きをした後、ダンは迷子センターの扉を開いた。
中に入ると幾つもの巨大ブロックが道を塞いでいた。
よく見ると柔らかい子供が遊ぶのに使うブロックだ。
「なんですかこれ! ?」
遊び用のブロックだということはわかるがこの大きさは異常だ。
「これはリカの仕業だろうな。誰かが侵入できないようにバリケードとして造ったんだろうな。おい!俺だリカ、ダンだ」
ブロックの山の向こう、リカがいるであろうそこへ大声で話しかけた。
するとブロックは見る見る小さかなって行き、数秒後には元の大きさに戻った。
「ダンくん……」
真ん中で女の子座りしている彼女が声を上げた。
髪は綺麗なオレンジ色で短い。それに彼女の目はガラスのように透き通っている。体型はよく言えばスレンダーだ。
「よお、久しぶりだな」
パチパチ。
拍手をしたのはガレッドでもなく、ラカサでもなく、黒い髪のスーツを着た男だ。
「いや〜、感動の再会ってやつですか?いいですよ、いいですよ。じゃあ、とりあえず大人しく捕まってください」
「貴様!どうやってここを」
「いやね、僕は超能力を探知する機械を持ってるんですよ。それでねある超能力が道のように続いていてぴーんときたんだ。ここが巣だってね」
「俺が来たのもそれで知ったのか」
「そういうわけです。では、武器を捨てて投降しなさい。でないと殺っちゃいますよ〜」
まるで警察が犯人を包囲したような感じだが、スーツ越しに隠していたナイフを構える彼はそんなのは似合っていなかった。
「断る、リカ!」
「わかった」
リカはダンの背中に触れて力を込める。
そして溜まって、 膨れ上がったそれを弾丸に込めて地面に流した。
「あり?」
途端、キリヤは滑った。尻もちをついて、それから立ち上がろとしても立てなくなった。
「リカの超能力は増幅。そして俺のストレートはそのおかげで止まらないの先を行き、摩擦や空気抵抗を操れるようになったのさ」
キリヤが滑るのは摩擦をなくなったからだ。
「そこで指くわえて救援でも待ってな」
仲間を救出した三人はテレポートでこの大型ショッピングモールを出て行った。
「ふぅ、行きましたか……なら僕もここから出るとしますか」
ナイフで地面を切り裂いた。するとその分だけ穴という影ができる。
その中へとズプズプ入ったキリヤはショッピングモールの裏側の出口に来て、ある男が来るのを確認した。
「では、プライン=ドルナーデさん。お食事を用意しておきましたよ。おまけに兵士とナノマシン弾もありますのでごゆっくりと」
お辞儀をするキリヤを無視してプラインはショッピングモールの中に食事をするために入った。