舞い降りた死神
死神は存在する。
長髪黒髪でルビーのような紅き瞳をもつ見た目は高校生ほどの女性、ラカサ=ブラッド=コランナもその一員であるがいつも上手く行かず落ちこぼれなどと言われる。
だがそんな彼女にもチャンスが来た。
死神の出張依頼だ。死ななくてはいけない人が生きている時や生きなくてはいけない人が死にそうな時に使われる制度でこれは死神にとって出世するための第一歩と言われている。
ラカサの出張依頼は後者の人助けの方の依頼だった。性格上こちらの方が気が楽なのでラッキーだと思っている。
これを失敗すれば見放されしまうかもしれない。
ラカサは手に持った手帳に力が入る。この手帳こそ死神だけが持っている特別な手帳、通称デッドリスト。それぞれ差はあるが誰が死ぬかが書かれているものだ。
これを駆使して依頼にある人物を助ける。
デッドリストを開いてその人物の名を口に出してみる。
「ダン=ストライク」
その言葉を最後に彼女は故郷である世界から飛び出し人間世界へと入った。
「にゃぷ‼︎」
いきなり尻もちをつき変な声が出てしまった。だがちゃんと人間界へ来れたようだ。
今まで住んでいた世界とはまるで違う。大きい建物が多く、少しだけ空が狭い気がする。母から聞いていた通りだ。
ホッと一息ついて安心するもラカサはやるべきことを思い出す。
「ダ、ダンさんを探さないと」
依頼はダン=ストライクという男の人を死なないようにすること、その人の顔写真は見たし近くに転送してくれたのですぐに見つかると思うのだがこれがなかなか見つからない。
ついには路地裏まで来てしまい完全に迷子となってしまう有様であった。
「う、う……。ここはどこですか〜?」
震えた声で誰かに言うわけでもなく、そう呟くと後ろからガサガサと音がした。
「ヒッ‼︎」
振り向いて驚いてしまった。そこにはゴミ箱の中に入った人がいたのだ。足が外に出ているところを見ると意図的に入った訳でないらしい。意図的に入ったなら呼吸ができるように顔出すようにするだろう。
恐る恐る近づいて唯一外に出ている足をツンツンしてみる。するとその足はジタバタ動き出す。
「ほこにられかいるろか? たふけてくれ!」
一部聞き取れなかったが助けえくれと言った気がするでラカサは足を両手で持って後ろ方向にありったけの力を入れた。
スポッという音がするのではないかというほどゴミ箱から一人の男が出てきた。
「げっほ、げっほ。助かったぜありがとな」
「ど、どういたしまして!」
ラカサはその男の顔を見たことがある。正確にはその男が写った写真をだ。
ボサボサの白い髪に黄金色の目。ラカサは人間の寿命の十倍ほど生きているが、見た目はそれより年上に見えしまう。腰に自動拳銃をぶら下げているがこの男は間違いなくダン=ストライクだ。
「あ、あの…」
私死神です。あなたを助けに来ました、などとは言えない。この依頼では死神とばれてはいけないのだ。しかしここで取り逃がしてしまうともう二度と会えないかもしれない。もしくは、また探している間にデッドリストの運命により死んでいる可能性だってある。ここで決めなくては。
「わ、私を仲間にしてください」
ラカサは生ゴミの匂いが残っている白髪の男に精一杯大きな声で頼んでいた。
「ほらここだよ俺の住処」
ダンに連れられて少しオンボロな建物の前まで着ていた。その建物にはSTRIKEという英語の看板が掲げられていて、赤く光っている。彼が言うにはここで仕事をしているそうだ。ちなみに他にも何人か仲間がいるらしいのだが、あいにく今日は留守だそうだ。
ここに連れてきてくれたのは助けてくれたお礼とさっきの話の続きが聞きたいからということだ。
中に入ると大きな革製のソファーと小さな机、それにビリヤードなどの遊び道具が幾つかあった。
それらに目を配りソファーへと座った。
「ほいコーヒー」
ダンはそっと丁寧にカップを渡してくれた。
「あ、あのその話のことなんですけどね」
「仲間になりたいってやつだろ。俺はあんま進めないけどな」
確かにこのオンボロな感じからしていい仕事をしているようには見えないし、昼間にゴミ箱に突っ込んでる人の仕事なんてどんなものかわかったもんじゃない。
「そういえばなんでダンさんはゴミ箱の中に入ってたんですか?」
ふと思い出して質問してみるとダンは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「それはちょっと逃げる途中に隣のビルに飛び移ろうとしたんだが失敗して落ちた先にあのゴミ箱があったんだよ。まぁ、クッション代わりになったから結果オーライなんだがな」
「逃げる? ダンさんは誰かに追われていたんですか」
「ああ、だって俺殺し屋だし」
「へ? こ、殺し屋ですか」
「そ、今じゃあ依頼主から受けた仕事ならなんでする便利屋みたいになってるがな。もしかしてお前知らなくて仲間になりたいって言ったのか?」
「ま、ま、まか〜。私はその噂を聞いてここに遠いところから駆けつけてきたんですよ。」
目を逸らしながら今思いついた嘘をできるだけ自然に話した。
「そうかならいいんだが、やっぱり進めることはできんな。仕事が仕事だし…。いや女だからダメとかじゃいんだ誤解しないでくれ。ここの奴にも女はいるしな」
「では、何がダメなんですか」
「そうだな、簡単に言うとこっちの都合上かな。俺らにはいろいろあるんだよ」
「そ、そうなんですか」
断られてしまった。勢いで言ったのだからこれぐらいは覚悟していたがこれではこちらの依頼ができない。どうにかしてこの状況を打開しないと……。
ラカサがコーヒーをすすりながら悩んでいると一人の男が入ってきた。茶色い帽子を深くかぶり、帽子と同じ色のコートを羽織った中年のおじさんだ。所々の皺が貫禄をかもちだしている。
「相変わらず石頭だなダン」
「おっさんなんだ帰ってたのか」
「ああ、ついさっきだがね。ついでにお前の様子を見に来たらこれだよ」
「ちっ、相変わらずおっさんは嫌な性格してぜ」
「それはどうも」
二人の交互に見ながら観察していたラカサは今だにこのおじさんがどういう存在なのかがわからない。一見すると親子のようなのだが全く似ていない。
「あ、あの〜この人はダンさんのお知り合いですか?」
「ん? ああ、すまんな。こいつはクラトス=コーチスつって俺のところに仕事を持ってきてくれるおっさんだよ」
どうやら仕事上の関係らしいが、妙にフレンドリーでとてもそうは見えなかった。
「ど、どうもラカサ=ブラッド=コランナです。よろしくお願いします」
「はいどうも綺麗なお嬢さん」
渋い声と優しい笑顔で応えてくれたが、殺し屋であるダンに仕事を持ってくるということはこの人もやはりそういう仕事をしてるのだろか。
などと考えてしまい背筋がブルっとした。 とにかく余計なことは考えないようにしよう。今はこの人をきっかけにダンさんにそばにいられるようにしないと。
そう心の中で呟き顔を上げた。何か言おうとしたのだが、それより先にクラトスが口を開けていた。
「ダンいいか、もうすぐあれを本格的に始めるんだろ。それなら仲間の一人や二人必要になってくる、そうは思わないか」
なんとクラトスがラカサに救いの手を差し伸べてくれたのだ。だがダンは虫を噛んだように苦い顔をした。
「仲間ってたって俺はこいつが使えるかどうか知らないんだ。それじゃあ、決めることはできないよ」
「つまりこのお嬢さんが使える人材だったら仲間にしてくれるんだな」
「まぁ、簡単に言うとそうなるな」
「だそうだ、お嬢さん」
「ほぇ⁉︎」
いきなりのことで変な声が出てしまった。今日は特に多い気がする。
だけどこれはチャンスだ。ここでいいところを見せて仲間にしてもらえば依頼を達成できる可能性がグッと上がる。
でも何をすればいいんだろう。
ラカサは何かないかと探すと黒い手帳、デッドリストがあった。
「そうですね。では、ちょっとした予言をしましょう」
ペラっと手帳を開いた。
「予言? なんだ俺の運命でも占ってくれるよか、いいぜ俺は嫌いじゃないぜ占い」
ラカサを馬鹿にするようにヘラヘラと笑った。
「ぬぬっ」
ラカサは頬を膨らませて不機嫌そうな顔になる。
昔、死神仲間に“落ちこぼれ”と馬鹿にされたことを思い出し、イラっとしたのだ。
だがこの手帳があればギャフンと言わせられる。
「じゃあ、まず…、この辺を縄張りしているクロって呼ばれいる黒猫が二分後死ぬわ」
二人の表情が変わった。それもそのはずだ。いきなり死の宣告をしたのだから。
「死に方はどんなだ。どんな風に死ぬ」
「いえ、そこまではわかりません。わかるのは誰がいつ死ぬかだけです」
「なんだ、お前の超能力は不便だな」
「ちょ、超能力? 一体なんのことですか」
デッドリストは超能力ではない。死神に与えられた特別な力でえるが、そんな機密事項を話せるわけがない。
「しらばっくれなくていい。お前も俺を殺しに来たんだろ」
「違います。これはその…とにかく私はダンさんを殺しに来たんじゃあないんです」
首をブンブン振って否定するが、言葉だけだけでは信じてくれなそうだ。
そんな時一匹の黒猫がどこからともなく現れた。赤い首輪をつけているところからして誰かに飼われているらしい。
「おークロ、久しぶりじゃねぇか」
ダンは近寄ってきた黒猫を両手であげた。
「ク、クロ! ダンさん今、クロって言いましたか」
「そう、こいつがお前が言っていたクロだ。ちょくちょくここに遊びに来るんだ。飼い主にあったことはないがな」
ダンはさらに腕を上げて猫を自分より高いところへとやった。
ボンッ‼︎
急に黒猫が爆発した。
「ダンさん大丈夫ですか!」
急いでデッドリストを開くがそこにはダン=ストライクの名前はなかった。
「お嬢さんそんな慌てなくても彼は頑丈なんだよ」
クラトスはポンと肩に手をおいてラカサを落ち着かせる。
そのおかげで少し落ち着いたラカサは爆発したダンを見た。煙が止むとそのには無傷のダンがいた。
服はボロボロになっているが髪の毛や顔には一切傷がない。
「なるほどお前の占い対したもんじゃねえか、確かにクロが死んだ」
手に残った黒い毛を悲しそうな目で見つめる。
「ダンさん、なんで無傷なんですか。普通なら死ぬ勢いの爆発だったんですよ」
「俺は猫がいきなり爆発したのが不思議なんだがお前には俺の方が不思議にみえるか」
「はい……」
「そらそうだろうな。そういえばちゃんと自己紹介してなかったな俺はダン=ストライク。ここで殺し屋をやっている超能力者だ。殺し屋ストライクはお前を歓迎する」
彼はよくわからないことを口にして握手を求めてきたが、ラカサはそれを受け入れた。
これは初めて死神と殺し屋が握手をした光景であろう。