幼なじみ
「夏村ちゃんはなっちゃんで、いい?」
「なんでもいいよ」
「じゃあなっちゃんで。ところで私は?!」
様々なポーズをとって、何か考えてアピールをする莉子に対し、
「莉子サン」
「莉子ちゃん」
即答である。
「か、変わらないの?!」
今にも泣き出しそうな莉子だ。
「デハ、リィチャンハ、ドウデスカ?」
「おぉ、りぃちゃん! 賛成! 今日から僕りぃちゃんね! ありがとうあん子!」
晴れて3人のあだ名(?)が決まり、仲が深まる気がした。
なんでなっちゃん……と思っている夏村は、
「夏村ちゃーん!」
と呼ばれた。
「はーい!」
営業スマイル&ヴォイスで呼ばれた方に振り向く。
忘れがちだが、夏村の外向きの人物は、いつも笑顔でみんなに好かれており友達が多い、現実にこんな人は絶対にいないであろうものだ。
「夏村ちゃん、あのね……」
はぁはぁ、と息を切らしながらやってきたのは、幼なじみで運動が苦手な久遠椎菜[くおん しいな]だ。
椎菜はケーキ屋の一人娘なので、夏村は小さい頃からよくケーキやクッキーなどの洋菓子を貰っていた。
「椎菜どうしたの?」
「はぁはぁ、夏村ちゃん、営業スマイルしなくて、大丈夫だよ……」
「あ、ごめんごめん、クセなんだよね」
クセとは恐ろしいものだ。
「で、そんなに慌ててどうしたの?」
「あの、あのね……。ちょっと来て……」
「う、うん?」
袖を引っ張られ、人目がつかないところに連れていかれる。
「あの、私と夏村ちゃん、幼なじみでしょ? それで、昔、夏村ちゃんといっぱい遊んだけど、いなかった……」
「え?」
椎菜が何を言っているかわからない。
「同い年だったら、一緒に遊ぶ……でも、いなかったよ、ね?」
「それは、なんのこと?」
「その、あの、あん子ちゃんの、こと……」
申し訳なさそうに椎菜が言う。
だんだんと小さくなる声に、夏村は若干の責任を感じた。
――椎菜は私のことを心配してんだ……。
そう思った。
「なんか、その、あん子ちゃんって、誰なの……?」
――だけど。
あん子がロボットだ、ということを伝えるわけにはいかない。
確かに椎菜のことは信頼している。
口も堅いし、優しいし、大好きだ。
――やっぱり……。
「椎菜には、関係、ないと思う……」
こう言うしかなかった。
あん子がロボットだと言えば、椎菜は驚くだろう。
そしてそのことを誰にも言うな。
そんな約束をして、椎菜に余計な負担を掛けるわけにはいかないのだ。
「そ、そうだ、よね……。ごめんね、夏村ちゃん……。私なんかには、関係、ないよね……。じゃあ、私、先に教室に帰るね……」
「……ごめん」
立ち去る椎菜の目には、涙が浮かんでいた。
「本当に、ごめん……」
そう呟くことしかできなかった。
☆★☆★☆
2分後、トイレには啜り泣く声が響いていた。
「うぅ、うぅ……」
タオルを口に当て、必死に声を殺しながら椎菜は泣いていた。
どうして私にはなにも教えてくれないの。
私が夏村ちゃんの1番だったのに。
夏村ちゃんは他でもない私のものなのに。
よくも夏村ちゃんを。
三好あん子は許さない。
私の夏村ちゃんを奪うなんて許さない。
椎菜は携帯を取り出し、母に電話をする。
「もしもし、お母さん? 今日は夏村ちゃんが大好きなあれを用意してくれる? うん、ありがとう。できるだけ大きくね」
電話を切り、そしてトイレからでた。