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あいうぉんととぅーびーあ ニンゲン!  作者: 今はまだ保留でお願いします
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赤メガネ

「オハヨウ、ゴザイマス! 夏村サン!」


あん子が夏村の体を揺さぶる。


「アサ! アサデス!」


「ん……?」


重いまぶたをこすり、あん子を見た夏村は、


「うわあっ?!」


と一瞬驚く。


が、昨日のことを思い出したのか平常心をとりもどして『おはよう』と言った。


「今何時?」


「アサ、ノ、7ジ、デス! ソレニシ、テモ……」


「なに?」


あん子が夏村の目の下を見て、不思議そうに言う。


「メノシタ、マックロ、ナゼデスカ?」


「これはくまって言って、寝不足や疲れてるときにできるやつなんだよね」


「ネル、タリナイ、イケナイデス! ナンデ、ネレナイ、デシタカ?」


キスのことをずっと考えていて眠れなかった、なんて言えない。


「いろいろあるんだよ」


とりあえず適当に返す。


「ネル、タリナイ、ヨクナイデス!」


真剣な眼差しでうったえるあん子。


「うん、次から気をつけるよ」


「キヲツケル、オネガイ、デス!」


「はいはい。じゃ、朝ごはん食べようか」


「マッテ、クダサイ!」


立ち上がり台所に向かう夏村を、あん子が引き止める。


「ん、なに?」


「アサゴハン、ヨウイ、デキタ、デス!」


「なんだと?」


――ロボットは、朝ごはんも作れるのか?!


しかし、テーブルを見回しても朝ごはんらしきものはみつからない。


「どこにあるの?」


「ココ、デス!」


「は?」


あん子は自分のお腹を指す。


すると、がちゃこん、とお腹が開いて、中からおいしそうなおにぎりとたくあんが乗ったお皿がでてきた。


「サ、ドウゾ!」


お皿に乗ったおにぎりとたくあんをずいっと差し出してくる。


あん子は、これを朝ごはんとして出したのだろうか。


「マジで……?」


「イル、チガウ、デスカ?」


「いや、そうじゃないんだけど……」


もらうのを躊躇っていると、あん子の様子がおかしくなってきた。


「イル、チガ、デ……」


「どした?」


だんだんとあん子の目の輝きが無くなっていく。


「ガ、チ……」


そして、動かなくなってしまった。


「あ、あん子? どうした? 私が朝ごはん受け取らなかったから、固まったふりしてるの?」


「……」


話し掛けるが、ぴくりともしない。


「え、なに、なんなの? 朝ごはんなら受け取るよ?」


お皿を受け取ると、あん子の頭頂部……アホ毛がたつところから、旗がでてきた。


その旗には、『充電切れ』と書いてあった。


『れ』がものすごく小さく書かれているのは、設計した人のミスだろう。


しかし、なぜ書き直さなかったのだ。


「充電切れって、どうしたら……」


――あ、もしかしたら……。


一つの希望のみを頼りに、大きなダンボールに入っていたものを確認する。


ランドセルをひっくり返したり、リコーダーを分解したりしたが、見つからない。


――取り扱い説明書は、一体どこにあるんだ……。


ダンボールの壁や、奥底を触ってみると、指が引っ掛かった。


――あった!


説明書と書かれている紙をびりびりと剥がし、書かれている文字を読む。


そこには、


『もし途中でロボットが止まったら……』


という項目があった。


そのページに行くと、


もし止まってしまったら。

それは恐らく充電切れです。

充電してあげましょう。


と書いてあった。


――またキスしろってこと?!


まるでおはようのキスだ。


――でも、人間にしなきゃいけないみたいだし、やるしかないのかな……?


決心がつかない。


目の前にいるのは、直立不動のあん子。


夏村はあん子を人間にしなくてはならない。


突然すぎてわからないが、逃げることはできないらしい。


もしキスせずに学校に行き、直立不動のあん子が家で帰りを待っていたら、怖い。


あん子がだれかに見つかり、マスコミが家に押しかけてきたら、怖い。


――やるしか、ない!


心を決め、あん子の唇に夏村の唇を重ねる。


前に、朝ごはんをテーブルに置く。


直立不動だろうが、あん子の唇は柔らかい。


取り扱い説明書を持っているうちに、説明書を読む。


何分キスをしたらいいのか、わからないからだ。


説明書を読んでいると、気になることが書いてあった。


――嘘……でしょ?


説明書には、愛が深まるほど早く充電可能&長い時間稼動と書いてあったのだ。


――何回キスしたらさっさと充電が終わるのさ?!


朝からどんよりした気分になると、あん子が動きだした。


夏村は唇をはなし、


「あん子、起きた?」


と一言かける。


「アー、アー……、ガー、ピー、ポー……」


「……す、すごい機械チックな音でてるけど、大丈夫?」


「ダイジョブ、デス! ジュウデン、バッチリ! ゲンキ、ナリマシタ!」


「じゃあ私、朝ごはん食べちゃうね。あん子は?」


「ジュウデン、マンタン、ナノデ、オナカイッパイデス!」


「充電とご飯って、同じなの?」


「ジュウデン、モ、ゴハン、モ、オナジヨウナ、モノデス! デモ、チョットチガウデス! ワタシ、オナカ、フタツアッテ、ヒトツガ、ジュウデン、モウ、ヒトツガ、ゴハンデ、ドチラカガ、イッパイ、ナッタラ、ゲンキデス! ソレデ、カタホウ、ガ……」


「いや、うん、わかった。なんかすごいことになりそうだからいいよ。読者さんもカタカナばっかりで大変だろうから」


「ア、スミマセン。トリアエズ、ゴハンハ、ダイジョブ、デスノデ!」


「了解。あ、そこの押し入れに制服入ってるから着てな。それに、そこらへんに靴下落ちてるし、バッグも適当なのがあるはず……。とにかく、学校の準備しといてー」


「ワカリマシタ!」


隣の部屋であん子が準備をしていると、夏村のお腹が鳴った。


――よし、朝ごはん食べるか。


「いただきます」


「ゴチソウ、サマデス!」


「あん子は早く学校の準備! それにまだ食べてるよ!」


おにぎりをむしゃむしゃ食べ、途中でたくあんをポリポリ食べる。


「塩がきいてて美味しいね、このたくあん」


「カラダノ、ナカデ、タップリ、ツケコミマシタノデ!」


あまり聞きたくなかった情報である。


あと一口分のおにぎりと、たくあんが二切れ残っているところで、インターホンが鳴った。


「アノ、コレハ、ナニノオトデスカ?」


学校の準備を終わらせたあん子が、隣の部屋から戻ってきながら問う。


「ああ、外で誰かが呼んでる音だよ。私、でてくる。静かにしててね」


「ハーイ」


――朝から誰だよ糞が。……あー、たくあん美味しい。


「はい、どちらさまでしょう?」


「夏村サン、コエ、カワリスギデス……」


夏村の完全なる営業ヴォイスに、あん子も少し戸惑っている。


「あのー、私ここの前の家に住んでるんですよー」


インターホンから流れる、少し幼さを残しているが、しっかりとした声。


聞いたことのない声だ。


「それで、私中学二年生なんですけど、あなたと同い年ですよね?」


「え、まあ……」


なぜ知らない人が夏村の年齢と自宅を知っているのだろう。


――恐ろしい……!


「そんで、同じ中学生って知って、家も近いし友達になってほしいなあー、なんて」


あははっと外の人が笑う。


「あの、前のお家って、すごく大きいし、お金持ちだって聞いたんですけど、そこの子がどうしてこんな貧乏なところに?」


当然でてくる疑問だ。


「あぁ、私この前引っ越してきて、この辺に友達いないんですよねー」


――転校生か。


「なので、友達になってほしいんですよ。家近いし。てことで、学校行きましょうよ」


「あ、じゃあ……すぐ準備しますので、外でお待ちください」


「へーい」


――はあ、疲れた。にしても、自分勝手な女の子だな。


「ダレ、デシタカ?」


「転校生だよ。友達になりたいんだって」


「テンコウセイ、ハ、ナンデスカ?」


「ここじゃない遠いところから引っ越してきた人のことだよ。……おにぎり美味しい」


「トモダチ、ハ、ナンデスカ?」


「うーん、一緒にいて楽しくて、頼りになる人のことかな? ……たくあん美味しい」


「オォ! トイウコトハ、夏村サンハ、ゴシュジン、デハナク、トモダチ、デスネ!」


「そりゃどうも。……ふぅ、ごちそうさま。お皿片付けといてー。私準備してくるから」


「カシコマリマシタ!」


急いで着替え、歯と顔を洗い、髪の毛をとかす。


「夏村サン、ガッコ、イキマショ!」


「うん、じゃ靴履いてよ」


「ヘーキデスヨ! ミテテクダサイネー……」


あん子は自分のくるぶしを触り、ぐいっと押し込む。


「く、くるぶし?!」


いろいろな意味でぎょっとすると、あん子の足にはしっかり靴があった。


「クツハ、コレデス!」


「すごいね、あん子……」


夏村も靴を履いて外にでる。


「おはよう、夏村ちゃん!」


「お、おはよう……」


「オハヨウゴザ、イマス!」


「ん、そのイントネーションがちょっぴりおかしな子はだれ?」


――やばっ。


夏村は全く気付いていなかったが、あん子は普通の人と比べて、だいぶイントネーションがおかしいのだ。


「ワタシ、ハ、三好あん子デス! 夏村サンノ、イトコ、デス! キョウカラ、ガッコ、ナンデスヨ!」


「へぇー、従姉妹。可愛い娘じゃん」


「カワイ……」


「これからよろしくね!! あはは! えっと、名前は?」


よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりの顔で『ふふーん』と鼻を鳴らした。


「ピンクのボブとー赤いメガネがす・て・きな、小波莉子[さざなみ りこ]でーっす! よろしくね☆ ……って、夏村ちゃんの顔が死んでる?! うー、せっかく振り付け考えたのにー……。本番はやらないほうがいいな」


「(アノ、オモシロク、ナカッタデスネ)」


「(しっ。あんまり言っちゃ駄目だよ)」


「聞こえてるよーっ!」


小波莉子は、なかなかおもしろそうな女の子のようだ。



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