第一話「見つけた私の王子様!」
第一話「見つけた私の王子様」
皆さんどうも初めまして。私の名前は、野々下 可奈子。今年の春から大学生をしている今時の女の子でっす!
あぁ、憧れのキャンパスライフ。
サークル活動に合コン!ツーリング!友達の家に押し掛けてのお泊まり会!そして、そして…素敵な出逢い!
そう!出逢い!正直なところ私の生きてきた19年で甘酸っぱい思い出は皆無に等しく、振り返ってみれば気の合う女友達との思い出しかありません。
だから、このキャンパスライフ。素敵な彼氏を作って薔薇色に染め上げて見せると固く心に誓い、鼻息荒く学園という戦場に乗り込んだのですが…。
「うー、こんなはずじゃなかったっす」
2時間目の講義が終わり、やってきたのは食堂です。
食堂の右端のテーブル席がいつもの指定席。
その学食のテーブルに突っ伏しながら私は世の中の不条理を嘆きます。
○○っすというのは私の口癖です。
小さい頃テレビで覚えた口調らしいのですが、真似をしているうちにすっかり板についてしまいました。
「まったく、入学してまだ1ヶ月でしょ?もう弱音?彼氏作るんっす!って息巻いてた可奈子はどこ行っちゃったのかしらねー」
彼女は私の親友、榊原 菜奈です。中学校からの付き合いでヘタレな私に何かと世話を妬いてくれる良い人です。
「菜奈はいいっすよね、社会人の年上彼氏がいるっすからね」
「フフン悔しかろう。くやしかったら可奈子も早く彼氏作りなさい。いいものよー、横で支えてくれる感覚ってのも」
「私だって好きで一人でいるわけじゃないっす。これでもこの1ヶ月、新歓、合コンと週3ペースでイベントをこなしたっす」
私はお気に入りのポシェットからスケジュール張をとりだして4月のページを開きます。
そこにはぎっちりと書き込まれたスケジュール。
「わぉ、インドア派の可奈子にしちゃ随分ハッスルしたわね。で?収穫は?さすがにこれだけやって声掛け0って事はないわよね」
「まぁ、2、3人には声掛けられたっすけど…」
確かに声は掛けられました。
一人目はでっかい眼鏡をかけて額にバンダナを巻いた人でした。息遣いが荒く汗っかき、人と話慣れていないのでしょうか、よく噛みます。おかげで何をしゃべっているか分かりませんでした。
二人目は寡黙な人でした。おしゃべりしましょうと声をかけてきたのに目の前に座ったままずっと私を見ていました。
三人目は酔っ払いのオジサンでした。
しかも、隣のテーブルから乱入してきた部外者です。何故か苦労話を聞かされ好きな事ができるのは若いうちだけだと何度もリピートで話していました。
総合すると収穫はなしです。
むしろこれらは収穫してはいけません。
「うわぁ、酷いわねそれは」
「自分で言うのもなんなんすけど、私って容姿はそれなりに整っていると思うっす」
菜奈は私から少し距離をとり私を観察します。
「そうね、客観的に見て可愛いと思うわ」
「性格もそこまで歪んでないっす。男性にも尽くすタイプっす!」
菜奈はこめかみに指をあてて過去を振り返ってみます。
「そうね、男好みの性格だとおもうわ」
「なのになんでモテないんすか!」
「そうね、私があなたに教えてあげられることは一つだけよ。可奈子、ちょっと立ってみて」
私は立ち上がります。
菜奈も立ち上がります。
結果として生まれたのは絶望的な身長差と残酷な現実でした。
身長140cmジャスト。
ちっこいです。未成熟です。
そう、私の身長は中学の頃から横這い状態、身長だけならともかく女性のサイズこと3サイズも未変動なのです。 (まあ、ウエストが動かないのは嬉しいのですが…)
おかげでぱっと見た姿はまさに、…子供なんです。
「か…神様のバカヤローっす!!!」
現実を再認識して泣きそうになる私の肩を菜奈がそっと抱いてくれます。
「可奈子、強くなるのよ。この現実を受け入れない限り彼氏を作るなんて夢のまた夢よ?」
「私、強くなるっす!幼児体型に負けない強い女になるっす!」
「よく言った可奈子くん!さぁ、あの夕日に向かって走りだそう!」
「はいっす!コーチ!」
一昔前の青春ドラマよろしく食堂を走り出す私と菜奈。
まぁ、古い付き合いの友達との身内ノリなんてものは何処でもこんなものです。私達は走り出した勢いで本来の目的である昼食を摂ることにしました。
「わたしはいつものデラックス定食っす!菜奈は何を食べるっすか?」
菜奈は発券機の前で腕を組考えます。
菜奈は私と違って発育が良いですが食べたら食べただけ太くなるのが悩みだそうです。
「むむむ、あまりお腹減ってないので野菜サラダで」
カツ丼を押しそうになりながらも、サイドメニューの野菜サラダのボタンを押しました。
痩せ我慢している菜奈は可愛いです。
ちなみに私がいつも頼んでいるデラックス定食はエビフライ、ハンバーグ、とんかつが乗った大皿と大盛りご飯、さらにきつねうどんまでついてくるボリューム満点のメニューです。
「んふふぅ、さすがデラックス定食っす。これで700円とは大学食堂おそるべしっす!」
「ちょ!可奈子!前!」
「んへ?」
このときの私はデラックス定食をゲットした喜びと、お盆にのったどんぶりで前方の視界を十分に確保できていませんでした。
私の不注意。
菜奈の声に反応した時にはもう遅すぎました。
目の前には人が……。
ガシャーンッ!
「うう、痛いっす…」
ぶつかったショックでお尻を打ってしまいました。
お尻の肉付きがイマイチな私には結構なダメージです。
なかなか起き上がれません。
「大丈夫か?怪我は?」
そんな私に優しげな声と共に差し出されたのは一本のしなやかな手でした。
視線を上げてその手の主を確認するとそこには信じられないほど美形の男性がいました。
無造作に伸びた、しかしながらさらさらな黒髪、どこか女性を感じさせる整った顔立ち、モデルのようにスラッと伸びた長い手足。
少女コミックでしか見たことのない黒髪の美男子がそこにいたのです。
「は…はいっす」
私は差し出された手を興奮気味に握り返します。
トクンッ。
私の小さな胸が高鳴ります。
これは恋なのでしょうか?
触れた手はスベスベで柔らかいです。でも、大きくて力強くて……素敵です!!
「よっと、ごめんな。考え事してたんだ」
私を引き起こしてくれた彼はポケットからハンカチを取り出してうどんの汁にまみれた私の顔をポンポンと拭いてくれます。
「ま、怪我がないならいいや。じゃ、俺いくから」
彼は私の頭にハンカチを乗せて背を向けます。
「あ、ハンカチ…」
「やるよ、それ」
そういって去って行く彼の肩には、うどんがぶら下がっていました。
「ちょっと、可奈子大丈夫?ちゃんと前見ないからよ?」
心配した菜奈が駆け寄ってきました。
あっという間の出来事。
未だに夢の中のようなフワフワした感じです。
まだ手に残るあの人の感触。
「あわ、あわわ…て、ててて」
「どうしたの?可奈子…」
「ててて手!手握っちゃったっす!に、妊娠しちゃうっす!」
「落ち着け!」
ボグシャ!
菜奈の右ストレートが私の顎を正確に捉えます。
「手握って妊娠っていつの時代の都市伝説よ」
菜奈のツッコミは相変わらず強烈です。
でも、おかげで意識がはっきりしてきました。
「痛いっす。夢じゃないっす」
「そうよ。まったく〜びしょ濡れじゃない」
ということは、さっきのあの人も現実ですか?
現実です。
そうに違いありません。
「見つけたっす!私の王子さま!」
───次回予告
遂に見つけたっす!
私の王子さま!
どうやら彼は大学でも有名人らしいっす!
彼との接点を模索するうち、私は彼の行き付けの喫茶店を突き止めるっす!
次回「はじめてのバイト、喫茶ロシナンテ」
問答無用のドタバタ劇!奮えて待てっす!
さて、はじまりました。
とりあえずは無事に終わらせることを目標に頑張っていきたいと思います。
連載ペースは週、または隔週になるかと思われます。
少しでも興味を持っていただけたなら気が向いたときにでも覗きに来て下さいww
でわでわ~ww