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【短編小説】スクール水着に憧れて

掲載日:2025/12/27

 指についた白い汚れを濃紺の袴で拭き取りながら、グラウンドの掛け声やバスケットシューズが床を擦る音を聞いてると、

「その袴、誰のですか?」

 藍染竹子が素肌にブラウスを羽織りながら訊いた。

「さぁな、俺のじゃないことは確かだ」

 黒檀光男は未だ白い滴を吐き出す亀頭を袴で拭うと、少し藍色がついて熱帯の蛇みたいになったので笑って竹子に向けた。

「なんか蛇みたい」

 竹子はメガネをかけて光男の蛇をまじまじと凝視すると、「少しお疲れのようですね」そう言って口づけをした。


 カーン!と金属バットが硬球を叩く音が聞こえる。程なくしてサッカー部のホイッスルなんかも響いて放課後の色が濃くなる。

「光男先輩の蛇、元気になってきましたね」

 竹子は自分の事みたいに喜んで笑った。

「お陰様でな」

 光男が学ランから煙草を取り出して火をつけると、竹子はひと口ねだりながら「バレると怒られるっスよ」と言って光男の蛇に煙を吹きかけた。


 学校は去勢施設なんかでは無い。

 そんなことを言ってるのはスノッブでブルジョワな奴らだけだ。

 良いとこの嬢ちゃん坊ちゃんが、何も出来なかったことを他責してるな過ぎない。

「何もできなかった?ってなんですか?」

 竹子はとりあえずと言った感じでショーツより先に制服のスカートを履いた。

「セックスだよ」

 黒檀光男がケツを掻きながら答えた。

 竹子のパンツをさっき何処に投げたか思い出そうとして諦めた。

 



 在学中にセックスができれば言うことは無い。制服セックスの有無はその後の人生に大きな禍根を残す。

「制服セックスができないと、ドンキで買った安い制服をソープ嬢に着せて復讐みたいなセックスをする羽目になる」

「何でそんなこと知ってんスか?」

「そこんとこだが、おれにもわからん」

 竹子のブラはどうしたっけ?

 竹刀置き場に投げた気もするが……

「悪いと犯罪者とかっスか?」

「いや、貢いだりしてしまう方が予後が悪いと言えるかも知れないな」

 光男は帰るまでに思い出せればいいやと割り切って、裸に制服を着た竹子を見た。


 竹子の首に巻かれたままの制服リボンが少し曲がっていた。

 確か、女子の間では名札とかリボンが斜めになっている事に意味があったはずだ。恋人が欲しいとか、いま付き合ってる人がいるとか……。

 知っていれば、それを見て告白したりタイミングを見たりするのだと前に竹子から聞いた。

 そう言えばおれは竹子に告白をしていないなと光男は思い返して、改めてするべきか少し悩んだ。



「結局はセックスまでの人間関係を構築できるかと言うだけの話だよ」

「でも校則とか教育課程にそんな事は書いていッスよね」

 竹子の胸が上下する度に白いブラウスが動いて乳首を露わにしそうだった。

 光男はすっかり元気を取り戻した自身の蛇を見ながら

「または単にヤル気が無かったのを責任転嫁しているかだな」

 そう言って蛇を上下させると、竹子はおもむろに咥えた。



 

 何れにせよ、学校に責任は無い。

 学校と言う異常な閉鎖空間に発生するヒエラルキーは雄度と雌度によって構成される。

 去勢なんかしている場合じゃない。

 されている場合でもない。

 

 安いスポーツコロンや整髪料、または親のムスクや百均コスメ。

 そんなものでは闘えない。

 生き残れない。

 ヒエラルキーで必要なのは金と暴力とセックス。あと少しばかりの太陽光。



「何で太陽光が必要なんすか?」

 竹子が口を離して不思議そうに訊いた。

「室内競技はヒエラルキーの外にいるのだ」

 そう答えても相変わらず不思議そうな藍染竹子に黒檀光男は

「俺たち武道部員は大会の試合時間が短いからスタミナ必要無いし、だから外周など走らんだろ。それ故に陽の光を浴びずに真っ白だ。それに臭い」

 と言うと、竹子は納得した顔で

「あー、バスケ部員は外周するからか。じゃあ卓球部員もダメっすね」

 と言ってスカートに手を差し入れながら再び光男を咥えた。



 実際に校内ヒエラルキーの覇権争いで卓球部が抜きん出る事などまずあり得ないだろう。

 大抵はサッカー部、テニス部、バスケ部が上位常連だ。ラグビー部や野球部はやや劣るが、武道部員たちよりマシだ。

「どうしてですか?」

 竹子が再び口を離す。

 引いた糸が銀色に光り、鼻息を冷たく感じだ。

「少なくとも何番を打つか、と言う話にはなるからな」

 武道部員は主将ならまだしも、先鋒次鋒など球技部員のベンチ暖め要員よりも地位が低い。



「だからあーしら、こんなとこにいるんすねぇ」

 竹子の声が部室と言う名前の体育館倉庫に響く。

 武道部にはちゃんとした部室なんてものは存在しない。本来ならマットなんかが置かれる倉庫がその役割を果たす。

 実際にここは倉庫だ。

 防具や道着に使う除湿剤が倉庫の端に山と積まれて鎮座している。

 誰かが捨てる、そうやって積み重ねられた部員たちの怠惰。俺たちの怠惰。

「前後の繋がりがわかんねぇよ」

 黒檀光男が藍染竹子の中に入って律動を始めると、二人は再び無口になった。


 フォーム確認用に置かれた巨大な姿見の中に、中途半端に制服を着た二人が映っている。

 捲れたスタート、ブラウスの背中と視線を動かした光男は、鏡に手をついた竹子と目が合った。

 竹子は目を細めながら

「だから、あーしらはそのスクールカースト?ヒエラルキー?だかの変なとこにいるから、こんな倉庫にいるって話です」

 光男は一定のリズムを保ちながら、気の利いたジョークを言おうとしたが何も思いつかなかった。


 竹子の臀部に飛び散った白いものは、さっきより少し薄くなっていた。

 それが流れ落ちて、コンクリートの床に敷いた簀子に黒いシミを作る。

「まぁちゃんとした部室では無いな」

 光男が肩で息をしながら言うと、同じように肩で息をする竹子が訊いた。

「どうスか?教室とか、屋上とかは」

「うん、まぁ」

 悪く無い。

 無駄に高い天井に昇っていく煙草の煙を見ながら、屋上なら夏になる前じゃないと大変だなぁとボンヤリ考えた。


 竹子は光男から煙草を奪った。

 光男は煙草の先端が赤く光るのを、まるでいまこの瞬間みたいだなと思ったが、言葉にするとまるで何を言っているのか分からないので竹子には言わなかった。

「それはその後の人生になんか変な影響って出ないんですか?」

「社会人になってもオフィスとか社屋でやれるだろ、だから大丈夫だよ」

「そんなもんなんすかね」

 そんなもんだ、と思う。

 黒檀光男は声に出さずに頷いて答えた。



 校庭からは、ホイッスルの音と金属バットがボールを弾く音が同時に聞こえる。

 放課後はますます色を濃くしていく。

 次はスクール水着を着させるか。

 いつの間にか起き上がって全裸で竹刀を振り回す藍染竹子を見ながら、黒檀光男は残りのコンプレックスを指折り数えた。

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