第94話 : gaze
凛もゴミ搬入口の凹みに座り込み、狭い場所で肩を寄せ合いながら、しばらく互いの存在を確かめ合っていた。神城は、気持ちが通じ合ったことで、張り詰めていた緊張が溶け、彼は少しだけいつもの調子を取り戻した。
「今日はお酒に頼らなくても、ちゃんと、言いたいこと言えるんすね」
神城は、そんな雰囲気ではないことを、わかっていながら凛をいじった。
「医者に止められてるんだよ。神城くんの意地悪」
凛は、泣きながらも、幸せそうに笑みをこぼした。
神城は、再び未来の約束を口にする。
「2年後、俺が二十歳になったら……一緒に飲みいけるんすかね?」
凛は、涙を拭い、神城の心臓が宿る胸にそっと手を当てた。
「必ず治すよ。その日には、私が神城くんに、最高の乾杯を奢るから」
二人は、複雑な運命を乗り越え、ようやく結ばれた、命の絆を確認し合うように、強く抱き合った。
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神城と凛がファミレスの裏口で、ようやく結ばれた愛を確認し合っている頃。
環奈は、様子が気になって、ファミレスの隣にあるコンビニの横で、事の運びを見ていた。彼女は、一本のタバコに火をつけ、夜空に向かって煙を吐き出した。
「ったく。焦ったいっての」
環奈は、遠くのファミレスの方角を見つめながら、そう呟いた。
「よかったね。神城くん、凛」
灰皿に静かに灰を落としながら、彼女は二人の幸せを静かに祝った。環奈は、二人の再出発を、静かに見届けた。
彼女はタバコを揉み消すと、立ち上がった。
「よし!今日はやけ酒だぞー」
環奈はそう言いながら、家で飲む用のお酒をコンビニで大量に購入した。それは、親友の満たされた幸福を心から祝うための乾杯であり、同時に親友を「奪われてしまった」自身の淡い想いを静かに弔うための、孤独な、一人きりの乾杯でもあった。
環奈は、一人でバイクに乗り、自宅へと走り出した。




