第9話 : letter
ある日、神城はリベンジに燃えていた。
(前回は最悪の形で失敗したが、今回は完璧だ。今日は確実に凛ちゃんは帰りの時間が一緒。このチャンス、逃してなるものか!)
一方、凛もまた決意を固めていた。
(いきなりの告白はフられる可能性が高い。よし、前回フられたことは水に流して、まずはデートに誘うくらいはしたい!あの淡々とした石田くんを、じわじわと好きにさせてみせる!)
神城は、凛を呼び出すため、愛を込めた(ただし中身は簡潔な)手紙を書いた。
内容:「バイトが終わったら、店の隣のコンビニに来てください」
そして、それを凛のロッカーに入れた。
凛もまた、石田を呼び出すため、勇気を振り絞って手紙を書いた。
内容:「バイトが終わったら、お店の駐車場に来てください」
そして、休憩時間。凛はロッカーに手紙が入っていることに気づいた。
「あれ?まだ手紙入れてなかったか。危ない、忘れてた」
凛は自分のロッカーに入っていた神城からの手紙を石田のロッカーに投函した。
神城は胸を高鳴らせ、コンビニの自動ドアの前で凛が来るのを今か今かと待っていた。告白のセリフを頭の中で千回唱える。
そして、ついに足音が聞こえてきた!今だ!
神城はドアを開け、片膝を軽く曲げた情熱的なポーズで思い切って言った。
「俺は、ずっと前から君のことが……好きだったんだ!」
神城の正面には、なぜか無表情の石田が立っていた。
神城の頭の中は真っ白になった。なぜ?なぜお前がここに?彼の脳内のロマンス映画が急停車する。
石田は状況を理解した様子もなく、淡々と神城を見下ろす。
「……えっと、神城さん。コンビニ集合、でしたよね?じゃあ僕はこの辺で。明日もよろしくお願いします」
石田は、何の感情も見せずにサッサと帰っていった。
神城はそのままのポーズで、コンビニの前に呆然と立ち尽くしていた。
一方、その頃、駐車場では
凛は、自分の書いた手紙の待ち合わせ場所であるお店の駐車場で、石田を待っていた。
誰も来ない。
「どうして石田くん来ないのー……」
凛は、前回フられたトラウマと、今回の連絡無視のような状況に、一人寂しく泣いていた。石田が、手紙(神城が書いたもの)の内容を読んで、「駐車場」ではなく「コンビニ」へ向かったことなど、知る由もなかった。




