第86話 : alcohol
退院した凛は、環奈と二人で飲み屋に来ていた。
環奈は、グラスを空けながら構わずお酒を注文するが、凛の目の前にあるのはソフトドリンクだけだ。彼女は事故で肝臓を損傷し、ドナーによる移植手術を受けたため、毎日薬を飲んでおり、医師から飲酒を固く止められていた。
環奈は楽しそうにビールを一口飲み、言った。
「しかし、よくあの状態から三人とも復活できたよね。すごい奇跡だよ。ドナーしてくれた人って、誰なんだろうね?」
凛は、ソフトドリンクのグラスを静かに回しながら答える。
「私もずっと気になってるんだよね。誰だったんだろう。本当に、感謝してもしてもしきれないよ」
環奈は、お酒の力で上機嫌になり、楽しそうに話している。凛は、そんな環奈が飲んでいるアルコールを、とても羨ましそうに見ていた。
「……私も、ちょっとだけなら……」
凛が、環奈のビールに手を伸ばそうとすると、環奈がその手をパシッと払った。
「だめだよー凛、止められてるんでしょ?命に関わるんだから」
環奈はお酒の勢いでさらにテンションが高くなっていた。凛は、目の前で楽しそうに酔っていく環奈が、さらに羨ましく、そして遠い存在のように感じられるようになった。
我慢の限界に達した凛は、環奈の隙をつき、素早くグラスを掴んで一気に煽った。
カーッと喉が焼けるような感覚と共に、凛の顔は一瞬で真っ赤になった。薬の影響か、アルコールが急速に身体に回っていく。
酔いが回った凛は、感情のタガが外れたように、堰を切ったように話し出した。
「私ね、神城くんに告白して、振られた」
環奈は、突然の告白に、一口飲んでいたお酒を吹き出しそうになった。
「えっ!?そんなそぶり全くなかったじゃん!いつ!?嘘でしょ!?」
凛は、テーブルに突っ伏しながら、酔っ払った勢いで全てを吐き出す。
「神城くんはね。私のことを何度も救ってくれたの。優しくしてくれた。妹の翠とのやりとりを見てて……いいなあって思ってたんだよねえ……」
凛は、そのまま重い溜息と共に眠りについた。
環奈は、溜息をつきながら、泥酔した凛をそっとおんぶして立ち上がった。
「お酒を飲まないと、本当のことを喋れないなんて。気持ちはわかるけどな……」
環奈は、ぼそっと独り言をこぼした後、凛をタクシーに乗せ、家まで送り届けた。




