第81話 : warm
重い手術を経て、神城、凛、翠の三人は意識を取り戻した。
凛と翠は、話すことはできるものの、まだ疲労と損傷が深く、ほとんどの時間を静かに横になって過ごしていた。
しかし、神城の目覚めは、周囲に新たな混乱をもたらした。
神城は、目覚めた直後、周囲にいた凛や翠、環奈を恐怖と警戒の瞳で見つめ、最初の言葉を放った。
「あんたたち……誰だ?なんでここにいるんだ?」
事故の衝撃により、彼は直近の記憶を失っていた。覚えていたのは、小学校、中学校の頃の記憶まで。高校での人間関係や出来事、そしてバイトのことも、彼の頭からは消え去っていた。
神城が病室で最初に名前を呼んだのは、麻奈だけだった。
彼の瞳は、周りにいる凛や翠、環奈に対して、警戒と恐怖を露わにした。
凛や翠、環奈が「友達だよ」と優しく声をかけても、神城は怯えてパニックに陥った。
「嘘だ!あんたたちは、俺をだまそうとしている!俺は知ってるぞ、小学校の時みたいに、また俺を笑いものにするんだろ!」
彼の記憶の中では、凛や翠は、自分をからかい、いじめる人間と誤認されていた。
この状況を受け、医師と家族は、神城の精神的な安定を最優先することにした。
刺激を与えないよう、凛と翠は、別の病室に移され静養することになった。そして、環奈、石田は、これ以上の刺激を避けるため、一旦帰宅することになった。
病室には、麻奈と神城の二人だけが残された。
神城は、麻奈だけが唯一、記憶と感情に繋がっている存在だった。彼は、シーツを握りしめ、涙を流しながら、震える声で麻奈に訴えた。
「麻奈、俺どうしちまったんだろう?俺、変だ……みんなが誰だかわからない。なんでここにいるのかも……」
彼の姿は、幼い頃の、いじめに怯えていた神城そのものだった。
麻奈は、涙を拭いながら、ゆっくりと神城のベッドに近づき、彼の震える両手をそっと包み込むように握った。
彼女の顔には、悲しみと同時に、彼を守るという強い決意が浮かんでいた。
「大丈夫だよ、快」
その声は、どんな不安も包み込むような、温かい響きを持っていた。
「何も......心配しなくていい。少しずつでいいから....私がずっとそばにいるから....」
神城は、麻奈の温もりを感じながら、まるで嵐の中で唯一の灯台を見つけたように、安堵し、泣き続けた。




