第79話 : sign
石田が冷徹に立ち去り、環奈が廊下で泣き崩れる中、麻奈はただ、病室に残っていた。
彼女は、傷だらけで意識を失っている神城のベッドサイドに、ずっと張り付いていた。神城が心臓を損傷しているという事実は、麻奈の胸を容赦なく締め付けた。
(快……お願い、無事でいて。)
麻奈は、彼の手を、壊れ物を扱うようにそっと握った。彼女は、小学生の頃に快を救った時のような、あの強い怒りを今は失い、ただ、無力で、純粋な祈りの中に身を委ねていた。
「快.........私の声が..........聞こえる?あの時、私が『嫌だって言いなよ』って.........言った時みたいに..........今も、生きることを『嫌だ』って..........言わないでよ」
涙が次々と溢れ、神城の手を濡らしたが、麻奈はそれを拭うこともせず、ただひたすらに祈り続けた。
「快が目を覚ますまで、ずっとここにいるから。お願い、目を覚ましてよ。……私にとって、快がいない世界なんて、意味がないんだから……」
彼女は、初めて、幼馴染という枠を超えた、自分の心からの依存と、逃れようのない深い愛情を自覚していた。
その日から、麻奈と環奈、石田の三人は、生きている心地がなく、重い時間を過ごした。三人は欠かさずに毎日病院へ様子を見に行ったが、三人の様子は変わらず、ずっと寝込んでいた。
数日後、医師団から緊急手術が行われるということが伝えられた。
神城の心臓、翠の肺、凛の肝臓という、生命の根幹に関わる致命的な損傷に対する、極めて難易度の高い手術だった。それは、三人の命を繋ぎとめるための、最後の望みであると同時に、あまりにも大きな、運命の賭けでもあった。
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
そして、その重い手術を経て――奇跡が起きた。
三人は、同時に目を覚ました。




