第73話 : ominous
神城が翠を連れてジェットコースターの列を離脱した後、二人がアトラクションの最後尾で息をついていると、その後ろにはなぜか麻奈の姿があった。
神城と翠は、自分たち二人の「秘密の逃走」に麻奈がついてきていたことに、揃って動揺した。
神城は、麻奈に詰め寄った。
「麻奈、なんでお前まで?まさか、絶叫が苦手なのか?」
麻奈は、俯いたまま、ほとんど聞き取れないほどの小さな声で呟いた。
神城は、その消え入りそうな言葉を聞き逃さなかった。
「おい、麻奈!今、なんて言った!?」
麻奈は、顔を上げ、涙で瞳を潤ませながら、その言葉を繰り返した。
「『凛さんのことが好き』って言ってたくせに!!」
その言葉に、神城と翠は気まずそうに顔を見合わせる。麻奈は怒っているというより、裏切られたような、深い悲しみを滲ませていた。
麻奈の視線が、悲しみと怒りを込めて、翠に向けられた。
「大体、あなたは何なんですか!」
翠は、何も言い返せずに、ただ黙っている。
神城は、この場を収めるために、必死に弁解した。
「ま、待て麻奈。本当に俺が好きなのは、凛ちゃんなんだよ」
しかし、麻奈は涙を拭いもせず、神城の逃げ道を塞ぐように、最も痛い質問を投げつけた。
「じゃあ、何で今、その好きな人から離れて、この人とこんな駆け落ちみたいなことしてるの!?」
「駆け落ちって」
翠は、麻奈のあまりにも文学的な表現に、思わず半笑いを漏らした。
「何で笑ってるの?」麻奈は、翠のその態度にも我慢ならず、鋭く問い返した。
翠は、感情を逆なでするような、冷たい視線を麻奈に向けた。
「いや、あなたってどう見ても、友達がいなそうで笑えてくるのよね」
(お前、人のこと言えるのか?)
神城はそう思ったが、この場でさらに波風を立てるまいと、ツッコミはしなかった。
翠の心ない一言は、麻奈の心を深く傷つけた。麻奈は、さらに大粒の涙を流し、「もういい、帰る!」と叫ぶと、二人を残して一人で走り去ってしまった。
その後、神城と翠は凛たちと合流した。
「あれ?麻奈ちゃんは?」と凛が尋ねた。
翠は、苦しい言い訳を捻り出した。
「麻奈さんは……朝から少し体調が悪かったみたいで、先に帰ったって」
「えー!さっきまで元気だったのに!」環奈は少し不思議そうに首を傾げた。
神城と翠は、麻奈を追い出した罪悪感を背負いながら、残りの時間を過ごした。遊園地の賑やかさとは裏腹に、二人の心は沈んでいた。




