第7話 : hope
その夜、家に帰った神城は、頭の中で先ほどの「好きな人がいる」という情報を何度も反芻していた。
「凛ちゃんに好きな人がいるだと……」
彼の脳内会議は数分で奇妙な結論に達した。
「待てよ、好きな人ってことは、少なくてもまだ付き合っていないということじゃないか!」
今日の神城は、あり得ないくらいポジティブだった。
「しかも、その好きな人が俺という可能性もあるな!いや、高い!強引さが魅力って言うしな!」
今日の神城は、バカがつくほどのポジティブであった。
数日後のシフト。神城はいつも通りオーダーを取りに歩いていると、妙に熱い視線に気づいた。
(誰か、俺のことをめっちゃ見てるな……まさか、凛ちゃん!?)
神城はすぐさま視線の先にいた人物に意識を集中させる。
「って、凛ちゃん!」
神城は浮かれ気分で凛に駆け寄り、前のめりになった。
「あ、あの……オーダーを……」
「おっと、すみません!ハンバーグセットでしたよね!」
「たらこパスタセットです」
実は、神城が認識した熱い視線は、彼ではなく、彼の斜め後ろに立っていた石田に向けられていたものだった。しかし、神城の脳内はすでにロマンスで満たされている。
(そっかぁ……凛ちゃんは俺のことが……)
神城は宙にも浮かぶような気分でニヤニヤが止まらない。
「……おい、神城が笑っているぞ」
「なんか悪巧みしてるんじゃないか」
他のバイトたちは、一人でニヤつく神城を見て怯えきっていた。
神城は今日しかないと確信した。今日のバイトは神城も凛も同じ時間までのシフトで、絶好のチャンスだったのだ。
神城は先に店を出て、バイクのそばで凛を待ち伏せしながら告白の練習を始めた。
「お疲れ様です。後ろ、乗ってきませんか」
これだ! バイクに乗せて夜景を見に行って告白。ロマンチックで最高に「かっこいい」!
やがて、店のドアがガラッと開いた。よし、今だ!
「お疲れ様です。後ろ、乗ってきませんか」
い、言えた!心臓が破裂しそうになりながら、神城は勝利を確信した。
「おお、神城。ちょうどよかった。疲れたから家まで送ってくれよ」
店長は躊躇なく神城のバイクにまたがった。
バイクを走らせる神城。背後から、店長が神城の腹に腕を回してくる。
神城は何も言えなかった。ただ、ヘルメットの中で静かに涙を流して店長を家まで送った。




