第65話 : truth
会社にいづらくなった後輩は、ある日、会社を無断欠勤した。
神城の父親は、上司から後輩の家に訪問に行くように言われ、そのアパートに向かった。
「そこで君のお父さんが目にしたのは........後輩の姿だった」
男の話を聞きながら、神城は息を呑み、テーブルの縁を強く握った。
男は、神城の父が、その場で泣き崩れ、後輩との記憶を必死に手繰り寄せていたと語った。
「彼は、後輩の神城くんと過ごした、一つ一つの瞬間を思い出していたそうだ。例えば、無言で飯を食った、あの心地の良い時間。自分より遥に優秀な後輩に、ミスをした時に逆に助けられた、あの頼もしい瞬間をね。」
「次の日に、君のお父さんは後輩が嫌がらせを受けていたことを、風の噂で聞いたんだ。君のお父さんは、激しい後悔と共に、後輩の線香を立てた」
そして、神城の父親は、後輩が吸っていたタバコを、一本取り出して吸ったという。普段タバコなんて吸わない彼が。
「次の日、君のお父さんは会社で後輩の同期を見つけた。しかし、彼は酒を入れていた。理性を吹き飛ばすためにね。そして、誰が主犯格なのかも区別がつかないまま、目の前の後輩の同期を、憎しみと後悔の全てを込めて、獣のように殴りつけた」
男は、静かに続けた。
「その時、君のお父さんが殴ったのは、今回の嫌がらせとは全く関係のない同期だった。彼は意識不明の重体となり、君のお父さんは傷害罪で捕まり、職場は解雇となったんだ」
「君のお父さんは、『傷害罪で捕まった』ということしか言わず、君の奥さん(神城の母)に、君と戸籍を変えるように言い、姿を消した。全ては、君を、自分の罪の連鎖から守るために」
神城は、絶句し、震えながらテーブルを叩いた。
「何で黙ってたんだよ!」
神城の父親の傷害罪は、彼が最も大切にしていた後輩の死への、壮絶な報復と、自責の念から生まれたものだった。
神城は、ショックから立ち直れないまま、消息不明となっていた母親の現状についても尋ねた。
「おふくろは…母さんはどうなったんだ?」
男は、悲しそうな顔で答えた。
「君のお母さんは、その事件の後に、精神的に病んでしまった。夫の起こした事件、子供の名字の変更。様々なストレスで精神疾患となり、幻覚を見続けるようになったんだ。今は、とある施設に通っていると聞いている」
神城は、静かに目を閉じた。自分の不憫な境遇の全てが、父親の壮絶な献身と、その裏の過ちから生まれていたことを理解した。
「......そうか」
神城の目から、一筋の涙が流れ落ちた。
神城は、全てを聞いた後、男の顔を真っすぐ見た。
「あなたは?…あなたは一体、誰なんすか?」
男は、悲しそうに微笑むと、ネクタイを緩め、スーツの上着を脱いだ。
男は、神城に頭部の一部に残る、痛々しい手術痕を見せた。
神城は、その壮絶な真実に、言葉を失い、ただただ男を見つめるしかなかった。
男は、静かに付け加えた。
「昨日、たまたまこの辺で彼(神城の父)を見つけたんだよ。少し話して彼の人生の重荷を知って和解したんだ。君には、君のお父さんのことを知ってほしかったんだ」




