第64話 : confession
神城は、環奈を怒鳴りつけて追い返した後も、父親の秘密が知られるかもしれないという動揺が収まらなかった。
その数日後。神城がアパートで気を散らしながらも受験勉強をしていると、玄関のインターホンが鳴った。
(また環奈さんか!?しつこいんだよ!)
神城は、環奈が諦めずに来たと思い込み、強い怒りと共に扉を開けた。
しかし、扉の前に立っていたのは、見知らぬ、品のいいスーツを着た中年男性だった。
神城は、セールスだと判断し、再び怒りの感情を込めて追い返そうとした。
「セールスなら結構っす!帰ってくださ——」
その時、スーツの男は、神城の遮る声を静かに受け止め、低い声で言った。
「君のお父さんと同じ会社に勤めていたものです」
その一言で、神城の体が硬直した。彼は、抵抗する力を失い、訝しげな視線を向けながら、しぶしぶ男を通した。
「こんなところで立ち話もなんだ。少し、話をしないか」男は玄関を上がるなり、すぐに神城をカフェへと誘った。
神城は、警戒心と、過去を知る人間への恐れから、終始不機嫌そうな態度で男の後をついて行った。
カフェに着くと、男はまず、仕事の話や、神城の受験の話など、世間話を始めた。神城は、早く本題に入れとばかりに、終始憮然としていた。
そして、男は飲み物に口をつけた後、静かに話し始めた。
「私はね、君のお父さん....山口くんのかつての後輩だったんだ」
神城は、父親の旧姓を呼ばれたことに、肩をビクリと震わせた。男の瞳には、遠い過去を懐かしむような、深い哀愁が浮かんでいた。
男は、神城の父親と、彼が起こした事件の核心的な真実を語り始めた。
「昔、君のお父さんには、救えなかった仲間がいた。それは、君のお父さんがエリート営業マンだった頃、彼が教育係になっていた一人の優秀な後輩のことだ」
男が語る「後輩」は、神城という名前だった。
その神城(後輩)は、君のお父さんにつくほどの、非常に優秀な社員だった。しかし、その優秀さとは裏腹に、同期から陰湿な嫌がらせを受けていた。大の大人になっても収まらない、嫉妬心からくるものだったという。
そして、事態は最悪の方向へ動く。
「ある同期が、女を使ってハニートラップを仕掛けたんだ。真面目で女慣れしていなかった後輩は、すぐに騙されてしまった。それが会社で大問題となり、彼は社内で居場所を失った」




