第62話 : visitor
その日、神城は塾の自習を終えて自宅のアパートに戻っていた。
神城が玄関で鍵を開けようとしたその時、玄関のインターホンが鳴った。
神城が不審に思いながらドアスコープを覗くと、そこに立っていたのは、作業服姿の、大柄で無骨な男だった。彼の顔を見た瞬間、神城の顔から血の気が引いた。
神城は、静かに扉を開け、男と対峙した。
「…何で、戻ってきたんだよ」
神城の声は、安堵でも怒りでもなく、静かな絶望に満ちていた。
男は、言葉を探すように口を開いたが、神城はそれを許さなかった。
「.....もう、俺の人生に関わらないでくれよ」
神城は、男の顔を見ることなく、すぐに扉を力強く閉めた。
扉の向こうで、男は寂しそうに、何かを諦めたように息を吐き出し、そのまま音もなくアパートの階段を降りていった。
たまたま神城のアパートの近くを通りかかった環奈は、その一部始終を見ていた。神城が血相を変えて扉を閉める様子と、寂しそうに去っていく大柄な男の姿。
環奈は、心配になり、去っていく男に声をかけようとしたが、男は何も言わずに、ただ黙って頭を下げ、そのまま去ってしまった。
環奈は、すぐに神城の部屋のインターホンを鳴らした。
神城が扉を開けると、そこに立っているのは環奈だった。
「ねえ、今の、神城くんのお父さんでしょ?」
環奈は、同情と心配が入り混じった顔で尋ねた。
その瞬間、神城の顔は、激しい怒りと動揺に支配された。彼は、血相を変えて、環奈に向かって怒鳴りつけた。
「ちげえよ!あんなやつ、俺の親父なんかじゃねえよ!」
神城は、秘密を知られることの恐れから、必死にそう言った。




