第57話 : comfort
井出家での「一夜を共にした」発言を最後に、環奈は傷心の友人・陽葵を慰めるため、井出家を後にした。
夜の冷たい風の中、環奈は誰もいない道の真ん中で立ち止まり、ボソッとつぶやいた。
「神城くん、頑張って」
環奈が陽葵の家に着くと、そこには生気を失って灰のようになっている陽葵の姿があった。部屋の隅には、空になったウィスキーの瓶と、グラスが転がっている。
陽葵は、ひどく落ち込みながら、一人でウィスキーのロックを飲んでいた。
「環奈ぁ…もう、二度と恋なんてしない…」
環奈は、陽葵の隣に座り、優しく背中をさすって慰めた。失恋の痛みを深く理解している環奈は、まずは彼女の心の傷に寄り添った。
陽葵は、「もう誰にも期待しない」と、深く落ち込んでいた。このままでは陽葵が立ち直れないと感じた環奈は、いつものポジティブな環奈に戻るための、特効薬を提案した。
「陽葵、いつまでも塞ぎ込んでたってしょうがないでしょ!気分を変えようよ!」
環奈が提案したのは、合コンだった。
「どうせ恋をしないなら、楽しい場に行って、美味しいお酒でも飲んで忘れようよ!ほら、新しい出会いは、最高の治療薬だよ!」
その言葉を聞いた瞬間、陽葵の顔色が打って変わった。
「...合コン!?行く!行くわ、環奈!もう恋はしないけど、新しい男の子にチヤホヤされたい!」
陽葵は、灰色の表情から一転、前のめりになって元気を取り戻した。恋をしないと言いつつも、楽しい場所と新しい刺激には抗えない、健全な乙女心が蘇ったのだ。
陽葵を救った環奈は、この機会に最高のメンバーを集めようと考え、すぐに凛に連絡を入れた。
『凛、陽葵が元気ないから、気分転換に合コンに行こう!』
凛は、最初「私が行くのはちょっと…」と、気乗りしない様子だった。しかし、環奈は言葉巧みに凛を説得した。
『これは、陽葵の恋を応援するための作戦会議だよ!凛がいてくれないと、陽葵が沈んじゃう!恋のキューピッド役だと思って!』
その「友人の[※実際は友人の友人である]恋の応援」という大義名分を聞いた凛は、心優しい性格から、渋々承諾した。
「うーん…わかった。陽葵ちゃんの恋の応援っていう立場なら、いいよ」
凛が電話を切った瞬間、リビングの隅で参考書を開いていた神城の顔が、血の気を失って真っ青になった。
(合コン!?凛ちゃんが…俺以外の男と、新しい出会いのある場所に…!?)
神城の脳裏に、凛が他の男と楽しそうに笑っている未来が浮かび、彼の恋の絶望は、さらに深い地獄へと突き落とされた。
友人を救った環奈の行動が、神城にとって最悪の形で裏目に出た瞬間だった。




