第56話 : fireworks
「え?一夜を共にしたって?」
凛は酔いのせいで目が焦点が合っていないが、環奈の爆弾発言だけはクリアに聞き取った。
神城は、このチャンスを逃すまいと、立ち上がって必死に弁解した。
「違います!違います井出さん!一夜を共にしたなんて言葉の綾です!俺は隣の家が火事になって追い出されて、環奈さんの家に転がり込んだだけです!それも、床で寝てただけで……純粋に、ただの居候です!」
神城は、自分の人生の全てを懸けて、環奈との関係を否定し、恋人ではないことを、丁寧に、論理的に説明した。
しかし、酔って情緒不安定な凛は、神城の説明を全く聞いていなかった。
「ねえ環奈ぁ一週間以上ってことは、環奈の家でずっとイチャイチャしてたってこと?もー、青春だねぇ!」
凛は、環奈の肩を抱き、完全に神城の血の滲むような真実を無視した。
翠は、ブランケットにくるまったまま、その様子を見て呆れ果てていた。
その時、環奈のスマホが通知音を鳴らした。
「あー、マジか!陽葵が彼氏と別れたってメールが来た!」
陽葵は環奈の会社の同期らしい。
環奈は、酔いも冷めぬまま、勢いよく立ち上がった。
「ごめん、凛、神城くん!私、友達の傷心を癒しに行くわ!またね!」
環奈は嵐のように去り、リビングは一気に静寂に包まれた。残されたのは、神城と翠、そして酔っ払いの凛だけだ。
三人は時間を持て余し、押し入れから引っ張り出された『半生ゲーム』を始めることになった。神城はキャリアアップに真剣になり、翠は意外な経営手腕を見せ、凛は終始笑いながら小銭をばら撒いていた。
時間はあっという間に過ぎ、午後9時になろうとしていた。
その瞬間、遠くから「ヒュ〜…ドーン!」という花火の音が聞こえてきた。
「え、こんな時期にやってるんだね」凛が窓の外を見上げた。
神城、凛、翠の三人は、自然と窓際に集まり、夜空に咲く不規則な花火を眺めた。凛三人の間に流れるのは、クラスメイトと家族、バイト仲間としての、穏やかな時間だった。
夜空を照らす光と、静かな感動が、何となくいい雰囲気を作り出す。神城の心臓は、凛の隣にいるという事実だけで爆発寸前だった。
そして、凛が神城に顔を向けた。
神城の耳には、凛の優しく、ロマンチックな声だけが響いた。
(神城フィルター)
「ねえ、神城くん.....よかったら泊まっていく?」
(泊まっていく!?お泊まりか!?俺と凛さんが一晩を共にする…これは奇跡だ!)神城の脳内では、天使がトランペットを吹き鳴らしていた。
(現実)
実際、凛は延々とお酒を飲み続けているせいで、呂律が回っておらず、声は大きく、調子は雑だった。
「かみしろくーん。よかったら泊まろうよー。翠もよろこぶよー」
その言葉を聞いた翠は、即座に猛烈な怒りを露わにした。
「は?何で神城がうちに泊まるってなるのよ!」
翠はすごく怒っていたが、神城の耳には翠の声は届いていなかった。彼は、凛の提案という名の不憫な奇跡に、勝手にドキドキしていた。




