第50話 : street
神城の隣家の火事騒動はついに解決し、長かった規制が解除された。神城は、心身ともにボロボロの状態で、ようやく自分のアパートの部屋に戻ることができた。
しかし、彼の心には、悪化していく誤解、凛への叶わぬ恋からえぐられた傷跡が深く刻まれていた。彼はファミレスのバイトのシフトをたまたま入れておらず、そのまま家に引きこもる日々が続いた。
神城は、部屋でぼんやりと携帯を眺めていた。画面に映るのは、昔のバイト仲間とイベントで楽しそうに笑っている写真。凛、環奈、翠、そして石田。
「俺はどうしてこうなってしまったんだろうか…」
神城は、誤解される前の楽しかった日々を思い返し、声もなく涙を流した。
神城は、一旦気分を切り替えるため、以前から通っていたキックボクシングジムへと向かった。そこで汗を流すことだけが、唯一の現実との接点だった。
ジムには、地元の不良グループのメンバーも多数出入りしていた。以前の神城は、彼らと練習のみで関わることは一切なかった。高偏差値高校に通い、至極真っ当に生きてきた彼にとって、それは別世界の人々だった。
しかし、恋の絶望と人生の不条理に打ちひしがれた今の神城は、違った。
「…俺も、もう真面目に生きるのがバカらしくなったっす」
神城は、自ら不良グループのリーダー格にコンタクトを取った。
「夜中、一緒に遊ばせてほしいっす」
神城は、秀才の仮面を脱ぎ捨て、絶望という名の闇へと足を踏み入れた。
夜の街に繰り出した神城は、不良どもがやりたい放題に振る舞う姿を見た。バイクで走り回る者、近隣住民に絡む者。そして、彼らが毎日行っているのは、隣の地区の高校のグループとの縄張り争いの喧嘩だった。
神城は、その喧嘩の場に加わった。
そして、ここで皮肉な才能が開花する。
神城は、これまで理不尽な女性陣の誤解と暴力(翠)に晒され、一方的に耐える訓練を積んできた。さらに、キックボクシングで培った反射神経と基礎体力も備えている。
不良たちの喧嘩は、感情的な殴り合いがほとんどだ。しかし、神城は喧嘩を法学の条文のように冷静に分析し、キックボクシングの技術を応用した。
その結果、神城は圧倒的な強さを見せた。
彼の冷静な判断力と、地道な努力で培われた戦闘能力は、瞬く間に不良グループ内で知れ渡った。100人規模のグループの中で、神城は喧嘩を繰り返すうちに、すぐに幹部へと上り詰めた。
そして、グループのリーダーに次ぐ、ナンバー2の地位を獲得したのだ。




