第46話 : cheer
数日後、神城がいつものファミレスのバイトに出勤すると、すぐに休憩室に呼び出された。待っていたのは、凛と翠の二人だった。
「神城くん、ちょっと話があるの」
凛が、いつもの優しい微笑みながらも、神城をまっすぐな目で見つめた。
「あのね、神城くん。私と翠で、神城くんと環奈のこと、応援することにしたんだ!」
凛はそう言って、両手を強く握りしめ、満面の笑顔を浮かべた。その笑顔は、神城の心を粉砕するほどの純粋さを帯びていた。
「は?応援?なんの、何の応援っすか!?」
神城は完全に混乱した。
今度は翠が、ストレートな言葉を放った。
「当然でしょう、バカヤンキー。あなたがボロボロになりながらも環奈さんのためにバイトを掛け持ちして三万円のプレゼントを用意した本気な行動。私たちは、すべて知っているわ」
「ぜ、全部って…!ただ俺は日頃の感謝を伝えただけっすよ!?」
凛は、神城の必死の弁解を「照れ隠し」だと受け止めていた。
「神城くんは、破天荒で、ちょっと放っておけない人が好きなんだね。環奈はああいう感じで危なっかしいけど、神城くんみたいに真っ直ぐで優しい人となら、きっといい関係になれるよ。お似合いだよ」
凛は、心からそう祝福していた。その言葉が、神城の心臓をナイフのように貫いた。
(ちがう!俺が好きで、一途に想っているのは、凛ちゃんなんだよ!)
神城の目線の先には、自分の想い人が、「恋の応援団長」として立っている。これ以上の絶望があるだろうか。
翠が追い打ちをかけるように言った。
「ボロボロになってまでバイトを掛け持ちして、環奈さんのために高価なウィスキーを用意するなんて…その献身こそが愛よ。私たちもサポートするわ」
翠の言葉は、神城の「三万円のウィスキーは純粋な義理立てだ」という必死の弁解を、すべて跳ね返した。
神城は、自分の片想いと、それに対する誤解による「善意の応援」いう、最悪の構図に打ちのめされた。
「ち、ちがうっす!凛ちゃ....井出さん!俺は、俺は...!」
神城が凛への想いを叫ぼうとした瞬間、凛は嬉しそうに神城の口をそっと指で押さえた。
「はい、それ以上は言わなくていいよ。熱い愛の言葉は、直接環奈に伝えてあげてね!」
凛はそう言って、神城に最高の笑顔を向け、翠とともに休憩室を出て行った。
神城は、誰もいなくなった休憩室で、その場に崩れ落ちた。
神城の片想いと弁解は、ファミレスのメンバー全員の「環奈と神城の熱愛物語」という壮大な誤解の構造の中で、完全に封殺されてしまったのだった。




