第45話 : whiskey
神城は、翠からボコボコにされたものの、なんとか日当を受け取り、急いで自分のバイクに飛び乗った。目的地は、例の神翠酒店だ。翠も追いかけてくるに違いない。
バイクを飛ばし、神翠酒店に到着。神城は急いで三万円のウィスキーを確保し、レジで代金を支払った。
勝利を確信し、ウィスキーを抱えて店を出た瞬間、店の前に一台の車が止まった。助手席から、翠が飛び出してきた。運転席には、凛が困惑した表情で座っている。
「神城くん!こんなところで何してるの?」凛が声を上げる。
「待てヤンキー!そのウィスキーは渡さないわよ!どちらにしろお姉ちゃんに渡るんだからいいでしょ!」翠が叫び、神城に蹴りを入れた。
「ぐはぁ!ち、違うんだ」
蹴られながらも神城は必死にウィスキーを抱える。
「あなた、お姉ちゃんのために日雇いのバイトをしてたんでしょう!?」翠は神城の腹を蹴り上げる。
「.....かっ....環奈さんだー!」
神城は、思わず名前を叫んだ。
その瞬間、翠の動きがピタリと止まった。
「…え?」
翠の顔から、一気に血の気が引いた。神城が好きなのは、自分の姉の凛ではなく、環奈…?翠は、あまりの衝撃に立ち尽くし、呆然とした。
運転席の凛も、目を丸くし、ポカンとしている。凛はただ翠に「急にここに来てほしい」と頼まれて車を出しただけで、ウィスキーの事情など知らないのだ。
(この隙だ!)
神城は、ウィスキーを抱えたままバイクに飛び乗り、呆然とする二人を置いて猛スピードで走り去った。
そのまま環奈のマンションに直行。環奈は、会社のコートを脱ぎ散らかし、ソファでウィスキーを呷っていた。
「環奈さん!」
神城は、ボロボロの状態で、高級ウィスキーを差し出した。
「これ!環奈さんにプレゼントっす!日雇いで稼ぎました!」
環奈は、ウィスキーを見て、その銘柄と値段を一瞬で理解した。そして、ボロボロになった神城の姿を見て、彼女の目から涙が溢れた。
「神城くん…!」
環奈は、ウィスキーを受け取ると、普段の豪快さからは想像もつかないほど優しく、神城の頭を撫でた。
「ありがとう…。こんなに嬉しいのは、昇進した時以来だよ…!」
環奈はその夜、いつものようにガブ飲みすることなく、その三万円のウィスキーを、静かに、一口ずつ、大切に味わった。
神城の財布は軽くなったが、心は温かかった。彼は、環奈の「最高の笑顔」を見ることができたのだった。




