第41話 : omotenashi
ある夜、ファミレスでのバイトを終えた神城のもとに、一本の電話が入った。
「…え、うちの隣の家が火事?え、避難勧告!?」
神城は呆然とした。幸い、神城の部屋は類焼を免れたものの、消防と警察の規制が入り、今夜の帰宅は不可能となってしまったのだ。一人暮らしのアパートを締め出され、途方に暮れる神城。
その窮状を知った環奈が、すぐに声をかけてきた。
「あら、大変じゃない。じゃあ、今夜はウチに来なよ!私だって、障子の弁償代で神城に迷惑をかけた負い目があるからね!今日は最高のおもてなしをしてあげる!」
どうやら介抱の件はなかったことになってるらしい。
環奈の強引な申し出に、神城は戸惑いつつも、他に頼るあてもなく、環奈のマンションへ向かうことになった。
環奈の部屋は、想像通りオシャレでモダンだが、ところどころに大量のサプリメントと散らかった空き缶が混在するカオスな空間であった。
「ようこそ、神城くん!狭いけど、適当に座って!」
環奈はソファを勧め、冷蔵庫へ向かう。時刻は夜9時過ぎ。
「お仕事お疲れ様です、環奈さん!」
神城が声をかけるが、環奈はまだ会社のコートを脱いでいない。
「ん、あー。神城くん、とりあえずビールでいい?」
環奈は自分にもロング缶を二本取り出し、ソファに戻ってきた。
「って俺未成年っすよ!」
神城の悲痛な叫びで、環奈はハッと我に返った。
「あ、そうだった!ごめんごめん!じゃあ、麦茶ね!」
神城は麦茶を飲ませてもらった。一方、環奈はコートを着たまま、プシュッと缶を開け、美味しそうに一気に飲み干した。その姿は、まるで
「さあ、おもてなしその一!夕食よ!」
環奈は上機嫌で立ち上がり、キッチンへ向かった。神城は、「最高のおもてなし」という言葉を信じることにした。
ところが、環奈は料理中もスキットルを片手に、ウィスキーを口に含んでいる。そして、出来上がった料理を見て、神城は絶望を強いられた。
オムレツ:見た目は茶色く、まるでゴムボールのように硬い。
味噌汁:なぜか紫色をしており、具材の中に蝉の抜け殻が一つ、浮いていた。
「さあ、召し上がれ!私の特製『愛情オムレツ』よ!」
環奈は自信満々だが、神城は一口食べて、思わず絶句した。
「(か、硬い!塩辛い!そして…なんだこの土のような苦味は!?)」
特に味噌汁は、神城の食の常識と本能を破壊した。しかし、神城は避難生活で世話になっている手前、笑顔で耐えるしかなかった。
「お、美味しいです!個性的な味ですね!さすが環奈さん!」
「そうでしょ!フフン!」環奈はご機嫌だ。神城は、その場は脂汗を流して耐え抜いたが、数分後、本能のままトイレに駆け込んで戻したという。




