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派遣、恋に落ちる  作者: 竹子


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第38話 : observer

キャンプの次の日。神城の働くファミリーレストランは、朝から張り詰めた空気に包まれていた。本部からの「偉い人」の視察日だ。

「今日は絶対に一切のミスを許さん! みんな、くれぐれも頼むぞ!」

店長は青い顔で、悲壮な叫びを上げていた。だが、その視線がレジ横に立つ凛を捉えた瞬間、言葉を詰まらせる。

今日の凛は、どこか様子がおかしい。顔色は青白く、動作はフラフラ。時折、抑えきれないように「うっ…」と小さく呻いている。


神城(心の声)

「や、やべぇ!凛ちゃん、二日酔いだ! キャンプの次の日も環奈さんと飲むとか言ってたからにして…!そんな凛ちゃんは最高に弱々しくて、可愛いっす! まさに守ってあげたい天使!」


神城は、視察の緊張感どころか、自分の仕事すら完全に忘却した。口元は緩みっぱなし、顔はニヤニヤ。フロアを歩き回りながら、彼の意識は凛のフラつきに一点集中。

神城「ヘイ!オーダー入ります!……って、凛ちゃん、顔色が…」

客「あの、ハンバーグのセットを頼んだのですが?」

神城「うおっ!す、すみません!たらこのパスタセットっすね!」

客は呆れ、神城は上の空。フロアは崩壊の予兆を見せ始めていた。


その頃、神城のデレデレしきった態度を監視していた翠の忍耐は、限界を超えていた。

翠「神城、いい加減にしなさい。あなたの接客態度はマイナス評価よ!」

凛に水を持っていこうとする神城の、あまりにも締まりのない笑顔を見た瞬間、翠のリミッターは完全に外れた。

ドゴッ!

翠は、神城の急所である弁慶の泣き所に、全力の蹴りを炸裂させた。

神城「ぐあぁぁぁぁぁ!翠ちゃん、なぜ今蹴るんだーー!!」

蹴りの反動でバランスを崩した翠の手から、トレイの上のドリンクと料理が宙を舞い、派手に床に散乱した。

ガシャン!ドシャッ!

フロアは一瞬で修羅場と化し、静寂の中に響いた皿の破片の音が、その場にいる全ての人間を凍りつかせた。


フロアが地獄絵図と化す中、さらなる混乱が厨房から発生する。

翠が床の片付けに追われている隙に、なぜか無関係者の環奈が店の裏口からこっそり侵入し、調理師用のエプロンを勝手に着用。

環奈は、間違えて作ってしまい冷やしてあった焼酎の水割りを見つけるや否や、ゴクリと飲み干す。

環奈「フッフフ…ファミレスって、こんなとこにもお酒あるんだねぇ」

そして、彼女は店員の目を盗んで、出来上がったばかりのフライドポテトを酒のつまみにし始めた。厨房の奥からは、環奈の陽気な鼻歌が漏れ始めている。


フロアの惨状と厨房の歌声が入り乱れる、まさに地獄のようなカオスの最中、ついに本部の偉い人が来店した。

偉い人「うん、今日は視察に……」

店長は、床に散らばる料理の残骸、うずくまる神城、フラフラの凛、そして厨房から聞こえる環奈の陽気な歌声に気づき、顔面が真っ青になった。彼は必死に新メニューの紹介を始め、必要以上に大きな声で偉い人の注意を逸らそうとする。

幸いにも、偉い人は店長の必死の努力と、メインフロアを避けるように歩く店長の誘導に目を逸らされ、カオスな状況からは目を背けたまま、無事に店を後にした。

店長「よ、よし……なんとかバレずに済んだ……」 


安堵の息をついたのも束の間、翌日の昼。店長の携帯に、非情な電話が入った。

本部「店長さん、お客様から重大なクレームが届いていますよ」

本部「『接客係が、全く話を聞いていない。しかも床に料理をぶちまけ、厨房からは飲酒中だと思われる女性の歌声が聞こえた。こんなヤバいファミレス、二度と行かない』とのことですが……」

店長「うわあああああ!結局バレたぁぁぁ!」

神城たちの、はちゃめちゃな行動は、本部へのクレームという重いしっぺ返しとなって、店長にのしかかったのだった。

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