第34話 : chaos
夜の繁華街。凛と、友人である環奈は、一次会を終え、ほろ酔い気分で二次会の店を探していた。
その時、二人は偶然にも近くのコンビニの前で、神城と石田を発見した。神城はバイクを停めて缶コーヒーを、石田は自転車を脇に立てかけ飲み物を買っていたようだ。
環奈は閃いたように叫んだ。「あ、いいの見つけた!」
環奈は、神城と石田をそれぞれ片腕ずつ掴み、有無を言わさぬ勢いで二次会の居酒屋へ無理やり連行した。石田は無表情で、神城は最愛の凛の誘い[※環奈が無理やり連行しただけ]とあって、満更でもない顔で連行されていった。
二次会の居酒屋。石田はビールを注文したが、表情も態度も全く変わらず、あんまり喋らない。
環奈「ねー石田くん、何か話してよ!人間関係での愚痴とか!あるでしょ、ほら!」
石田「……特に、ありません」
環奈「つまんなーい!」
一方、神城は未成年のためウーロン茶だが、完全に場の雰囲気に飲まれて「場酔い」していた。
神城「アハハ!環奈さん、それは違いますって! 愚痴っつーのは、こう、感情を爆発させるのが大事なんすよ!ウオオオッ!」
環奈は、神城のこのハイテンションが気に入ったようだ。
環奈「そうよ!神城くん、最高!そうだ、ゲームやろうよ!恋バナ暴露ゲーム!」
神城は顔を赤くし、グラスのウーロン茶を勢いよく飲んだ。
神城「コ、コイバナ!いいっすね!盛り上がっていきましょう!」
環奈「神城くんから!本命いるんでしょ!? ヒントだけでもいいから!」
神城「ええっと、俺の好きな人は、こう、すげー優しくて、笑顔が天使みたいで、ちょっとドジなところがあって、しかも美人で、隣にいると心臓が破裂しそうになるっす!」
環奈は盛り上がるが、当の凛は「ドジで天使なところ…誰のことだろう?」と全く誰のことだか結びついていなかった。
石田は、そんな神城の熱弁を、無表情で枝豆を食べながら聞いていた。
環奈「えー!もっと知りたい!凛は!?凛の本命は!?」
凛は顔を赤くし、「ええー!恥ずかしいよ!」とごまかす。
この後も、神城は環奈と熱いトークを繰り広げ、石田はそれを無言で飲み食いしながら見守るという構図が続いた。
楽しい時間は過ぎ、お開きに。石田は店を出るなり、自分の自転車のハンドルを握った。
凛「あ、石田くん。気をつけてね」
石田は、クールな無表情のまま、自分の自転車に跨ることなく、そのまま自転車を傍らに引きずり、歩いて帰っていった。
神城は、凛を家まで送った後、環奈の家まで送っていくことにした。しかし、ここからが地獄の介抱だった。
環奈は、道中にあるコンビニを見つけるたびに缶チューハイを買い足して飲み始め、数メートル歩いては派手に転倒したり、植え込みに突っ込んだりして、神城を大いに困らせた。
神城「うおっ!環奈さん、もう缶チューハイ飲むのやめてくださいよ!早く家に着きましょう!」
環奈「やーだよー。だって楽しいんだもーん」
神城は、凛がお酒を飲みすぎるのは、間違いなくこの人の影響があると悟った。
そのあとも環奈は、道端で大声で歌ったり、電柱を恋人と間違えて抱きしめたり、果ては通りすがりの知らない人に絡みに行ったりして、神城を大いに困らせた。
なんとか環奈を無事に自宅まで送り届けた神城は、疲れ果てて、ふらふらと自分の家路についた。
神城は翌朝、バイクに乗ってバイトに行こうとした。
しかし、あるはずの場所に、愛用のバイクがない。
神城「え?俺のバイク…?どこ行った!?」
神城は、昨晩、凛たちに連行される直前にバイクを停めた、あのコンビニ前を思い出した。
神城「そうだ!コンビニにバイクを停めたまま、飲み会に連れて行かれたんだった!」
神城は急いでコンビニへ電話をかけると、コンビニの店員から絶望的な一言を告げられた。
店員「ああ、例のバイクのお兄さん?一晩中無断駐車されてたから、朝一でレッカー移動されましたよ。はい、業者から連絡があると思います」
神城は、泥酔した環奈を命がけで介抱した(恋に関係ない)充実感と引き換えに、愛用のバイクを失い、後日、2万円のレッカー代を支払うことになったのだった。




