第31話 : relay
クラス対抗リレーは、神城の学年(全5クラス)で行われた。神城は2-Bのアンカーを任され、翠は2-Eの第一走者だった。
凛の「期待してるよ!」という言葉を胸に、神城の闘志は炎のように燃えていた。
スタート!
結果、神城のいる2-Bは……ダントツのビリ。最初の走者がコケかけたせいで、他のクラスに大きく突き放されてしまう。中盤も盛り返せず、第三走者からバトンが渡った時点で、4位のクラスとでさえ30mほど離されている。
そして、ついにバトンが神城に渡った。
「任せろ!俺がヒーローだ!」
神城はバトンを受け取るや否や、キックボクシングで鍛えた驚異的な脚力とスタミナで、全力で走り出した。彼のスピードは、他の走者とは比べ物にならない。
神城は瞬く間に差を詰め、二クラスを追い抜き、一気に3位まで順位を押し上げた! スタンドからは、大きな歓声が上がる。
その瞬間、スタンドの一角から、ひときわ大きく、可愛らしい声が聞こえてきた。
「神城くーん!頑張れー!期待してるよー!」
それは、凛の声だった。
神城の脳内は、再び最高の妄想で埋め尽くされる。
(凛ちゃんだ!凛ちゃんは今、俺のキックボクシング仕込みのスピードに惚れてる!)
神城は、期待に応えようと、全速力で走っているにもかかわらず、スタンドの凛の方へ大きく体を向けた! そして、最高の笑顔で手を振った!
ドゴォッ!
神城は、足元のトラックを見失い、派手に足を捻って大転倒した。
砂埃が舞い上がり、グラウンドは一瞬静まり返る。
神城は倒れてあまりの痛さに動けない。しかし、後ろからはさっき追い抜かした2名の走者が、猛然と迫ってくる。
(くそっ、このままでは順位が…!凛ちゃんの期待が…!っていうかキックボクシングは格闘技だろ![※今更気づいた])
神城は、痛みに歪んだ顔で、倒れたまま後ろを振り返った。そして、格闘家としての最後の執念を覚醒させた。
「抜かさせはしねえよ」
神城は、うずくまりながらも手を伸ばし、後ろから来た走者の足首をガッチリと掴んだ!
ドゴシャッ!
神城に足を掴まれた2名の走者は、見事に連鎖して派手に転倒した。その間に、神城は痛む足を引きずりながら、なんとか立ち上がり、ふらふらとゴールラインを通過!
神城のクラスは3位になったが、スタンドからは「反則だ!」「あいつ足掴んだぞ!」「2-Bはどうなってるんだ!」という地鳴りのような大ブーイングが起こった。
グラウンド中央で、神城は痛みと達成感に顔を歪ませながら、スタンドの凛を見た。
凛は、手で口元を覆いながら、なんとも言えない苦笑いをしていた。
そして、競技場にいた翠は、腕を組みながら完全に呆れていた。
翠「何がキックボクシングよ。所詮ヤンキーの汚い喧嘩ね」
神城の体育祭は、ブーイングと大失敗、そして予想外の愛の暴走で幕を閉じたのだった。




