第3話:miss
翌朝。目覚ましが鳴る前から、頭はガンガンと痛み、吐き気が込み上げてくる。
(最悪だ……。よりによって、石田くんのシフトと一緒なのに)
それでも、契約社員である凛は休むわけにはいかなかった。
二日酔いの体で無理に出勤した凛は、仕事の途中で完全にダウンした。全身から脂汗が吹き出し、立っていられなくなる。
「井出、おい!大丈夫か!」
店長の声に、かろうじて意識を保っていたが、そのまま意識が遠のいた。
気が付くと、凛は事務所のソファーに寝かせられていた。額には冷たいタオル。そして、そばには石田大斗が立っていた。店長に看病を頼まれたらしい。
(昨日、私をフッた張本人が、今、私を看病してる…?)
気まずさと恥ずかしさで、凛は顔を上げることができない。昨日、「恋愛感情がわからない」と冷たく拒絶されたばかりだ。
「体温計、使ってください」
石田の声は、やはり何の感情も帯びていない。ただの事務連絡だ。凛が体温を測る間も、彼は静かに椅子に座り、壁を見つめている。
凛は、意を決して話しかけた。
石田はこう言う「井出さん、違かったら申し訳ないのですが、昨日お酒を飲まれました?」
井出は顔が真っ赤になった
「あーー...えーっとちょびっとね」
石田は淡々と言う「そうですか。」
「あの…石田くん。昨日、私のことフッたよね?のに、なんで…ここにいるの?」
石田はまっすぐ凛を見た。その瞳は、やはり無表情だ。
「店長に頼まれました。また、あなたが倒れたのは、僕が教育係としてあなたの体調管理まで把握していなかった、業務上の落ち度でもあります」
「業務…」
その言葉に、凛の胸はまた少し傷ついた。彼は全く気まずそうなそぶりもない。平然としている。まるで、昨日の告白も、その後の凛の行動も、すべてがどうでもいいことであるかのように。
(私の熱い気持ちは、彼の前では、ただの迷惑なノイズでしかないのかな…)
完璧に無関心で、完璧に優しい。その矛盾こそが、凛の心をさらに苦しめた。




