第23話 : party
クリスマスパーティーは、前回の大炎上事件を反省し、今回、凛は"飲酒禁止"という厳戒態勢で、店の事務所を使って開催された。
神城「よっしゃ!凛ちゃん来てる!最高!」(今日は絶対告白への布石を打つ!)
凛「よっしゃ!石田くん来てる!」(今日は絶対、石田くんと話す機会を作る!)
恋のライバルへの対抗心は燃えたぎっているが、パーティーはトランプやスゴロクで和やかに進行していた。翠と神城は相変わらず激しい小競り合いをしながらも、二人にしか分からないテンポで会話が成り立っている。
しばらくして、神城が気がついた。
神城「あれ?そういえば凛ちゃ...井出さんいなくねぇか?」
店長「確かに見ないな。」
神城は、これはチャンスとばかりに立ち上がり、店の中を探し始めた。すぐに、普段使わない奥の倉庫から、コソコソとした物音が聞こえてきた。
神城がそっと倉庫を覗き込むと、そこには大量の缶チューハイに囲まれ、一人静かに飲酒を楽しむ凛の姿があった。既に顔はほろ酔いで赤い。
神城「凛ちゃ...井出さん!」
凛はギョッとして缶を隠す。「かっ神城くん!これは違うの。自分で買ってきたものでね…」
(いや、それが一番ダメなやつだ!)と心で叫びながらも、神城はそっと凛の隣に座り込んだ。
神城「別によくないっすか。堂々と飲んだって」
凛は焦って神城の膝を軽く叩いた。
凛「ダメだよ!あんな鍋の爆発事件(油炎上)があって、店長にも禁止って言われたし…。またあんなことあったら....わたし...わたしね…」
神城は、彼女が前回の一件でトラウマになっているのだと思い、励まそうと真剣な言葉を探した。
凛「わたし、翠に家にあるお酒を全部捨てられちゃう」
神城は、一瞬で言葉を探すのを辞めた。(そういうことかよ!っていうかどんだけ酒好きなんだよこの人!)
神城は、その子どもっぽい理由が、逆に凛らしくて愛おしく感じた。彼は照れを隠すように顔を俯かせ、精一杯の言葉を紡いだ。
神城「お、俺は井出さんの...お酒飲んでテンション上がっちゃってるの見るの好きっすよ……」
凛は、神城の腕を軽く叩いた。
凛「もぉー、からかうなよー」
凛は立ち上がった。後ろ姿しか見えないが、耳が真っ赤に染まっているのが、神城にははっきりと見えた。
凛「…先戻ってるね」
神城「そっすか」神城は、小さく笑いながら、会話の余韻に浸っていた。
神城は、気分良くトイレに行ってから、事務所に戻った。
「なんだこりゃあ!!」
事務所のドアを開けた瞬間、神城は思わず叫び、その場に固まった。
事務所の壁という壁、床という床、天井、そしてトランプをしていた全員の体中に、真っ白な粉が大量に撒き散らされていた。まるで、誰も望まない人工的なホワイトクリスマスだ。
神城「な、なんだこれ!?雪か!?」
翠「バッカじゃないの!? これ、消化器の粉だよ!」
部屋の隅には、空っぽになった消火器が転がっている。そして、その消火器の近くで、先ほどまで隠れて飲酒していたはずの凛が、缶を握りしめて気持ちよさそうに爆睡していた。
どうやら、酔っぱらった凛が、消火器をスノースプレーか何かと勘違いし、事務所中で豪快にぶちまけたようだった。
神城は頭を抱えた。
(せっかくいいムードだったのに、また大惨事かよ!)
そして、彼の視線は、凛の近くに転がる大量の空き缶に向けられた。
(まさか、俺がトイレに行ってる間に、残りの全部飲んだのか…!?)
神城の恋の行方は、一斉に噴き出された消火器の白い粉のように、混沌の極みに達したのだった。




