第15話 : drunk
庄司は傷害罪で捕まった。凛は一日だけ入院し、その後退院となった。一部始終を近くで見ていた目撃者の証言により、神城は正当防衛が認められ、罪に問われることはなかった。しかし、警察からはこっぴどく叱られ、結果として一か月の停学処分を受けることになった。
神城は自宅で、渋々反省文を書いていた。形式上は反省文を書いているが、神城の心は反省とは程遠い、むしろ誇らしげな高揚感に満ちていた。「凛ちゃんに青あざをつけたあいつをボコボコにできて、俺は嬉しいよ。やっと俺はよぅ、恩返しができた」
ふと、別の感情が胸をよぎる。「けど、凛ちゃんは俺より石田の方が頼りになると思ってるんだろうな」
凛が元彼に首を絞められていたあの瞬間、彼女は神城ではなく、石田に助けを求めていた。その事実は、彼の心に小さく、しかし確かな影を落としていた。
「まあ、仕方がない。気にせずバイトに行くか」
停学中の人間を働かせていいものかという問題はあるが、日頃から学校をサボって平日でも午前シフトに入っている神城にとって、それは大したことではなかった。いつものようにバイクに跨り、店へと向かう。
「ご注文伺います」
神城はいつもの抑揚のないセリフを口にした。
「やっほー、神城くんー」
その声に顔を上げると、カウンターの向こうには、凛が!そして、もう一人、知らない女性が座っていた。
「彼が噂の石田くん?」凛ではない方の女性が訊ねる。
「違うよ、環奈ー!彼は神城くん!!」凛はひどく慌てた様子だ。どうやら友達の名前は環奈というらしい。
「どうもー、凛の友達の環奈でーす」
「どうも」神城は何となくそう返すのが精一杯だった。
「えーっと、神城くん?だっけ?ビール2と、ワインのマグナム2本と、アラビアータをください」環奈が淀みなくオーダーする。
「ご注文を繰り返させていただきます。ビールを2本と、ワインのマグナムボトルを2本、それからアラビアータでよろしいでしょうか」
「「はーい」」
神城は「こんな早い時間にどれだけ飲むんだよ」というツッコミをあえてせずに、オーダーをキッチンに通すため、そそくさとその場を離れた。
その日は朝番だけだったので、神城は昼過ぎにはバイクを出して帰ろうとしていた。神城は元気な凛の顔を見ることができただけで今日は大満足であった。ヘルメットを被ろうとした、その時。
ガバッ
後ろから、誰かに羽交締めにされた。
「何をするんだ」
振り向くと、そこにいたのは見覚えのある人。いや、それはまぎれもなく凛だった。
「凛ちゃ...井出さん????」
「きみぃ、どこにいくんだねぇ」
顔が真っ赤で、瞳は潤み、明らかに酔っ払っている凛がそこにいた。
「かんなにさきにかえられちゃってえへへへ」
あまりの展開に神城は興奮すると同時に、強い心配を覚えた。近くのコンビニまで凛を連れて行き、水を買って飲ませる。
「井出さん!これ飲んでください!」




