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敗者列伝 ―光秀と三成―  作者: 妙原奇天
第二部・石田三成編

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第2話「三献の茶、三度の秤」

 寺の台所は、昼の熱が残っていた。叩き込まれた土間は、踏み締めるたびに乾いた音を返す。かめの中で井戸水は息を潜め、釜の肌には微細な泡が縁取るように付いている。

 佐吉は、人差し指をそっと泡に触れた。弾ける音が、耳朶じだをかすめる。泡がまだ米粒ほどに小さい。今は上げない。湯の「今」は、茶の「今」ではない。


「……もう少し、待たせてもらおう」


 誰にともなく呟く。

 野営の張り巡らされた縄の向こうでは、槍の石突きが地を叩く音、馬の鼻息、遠慮のない笑い声が混じり合う。戦の匂いは藁と鉄と汗の混合で、台所の湿り気の甘さを薄くする。呼ばれたのは秀吉の陣。前日、観音寺の庫裏で偶然茶を点てたのが目に留まり、また頼むと使いが来たのだ。


 最初の一献はうすく。

 二献目は厚く。

 三献目は“重く”。


 三献の茶が作り話だという噂を、佐吉も知っていた。だが伝わる話は口の都合で形を変える。自身の指の温度、湯の温度、泡の大きさ、茶葉の香り、口の渇き。ことわりに手を置くとき、伝説は脇へ退く。


 泡が、豆粒ほどになり、縁から中心へとゆっくり移っていく。

 こしきに上がり立つ蒸気の音を想像し、佐吉は火を弱めた。湯は怒らせても、なだめても、最後は戻らない。戻らせるのは順序であり、秤である。


 茶筅ちゃせんを手に、佐吉は最初の茶を点てた。

 薄い。湯を多めに取り、葉の表面に優しく息を触れさせるように泡立てる。点前よりも、まず喉に入る水の道を開くこと。唇が水を受け入れる角度を作ってやること。茶の味はその次だ。

 盆に載せて外へ出る。野営の光は眩しい。蝿たちの黒が弧を描く中、秀吉がこちらを見た。


「おう、来たか。愛想なしの小僧、だったな」


「佐吉と申します」


「名はええ。喉が渇いた。まずは、軽いのをもらおう」


 秀吉の手は大きく、茶碗が小さく見えた。口に運び、一息に飲む。喉の奥で水の通る音がした。

 秀吉は目を細める。


「……すずい」


 それだけ言って盆を返す。佐吉は頷き、台所に戻る。二献目は厚く。香を立て、茶葉が今ここにあることを告げる一杯。甕の水面に映った自分の顔は、まだ僧形の丸い頭だ。頭の形は変わらずとも、秤に乗せるものを替えよ、と師は言った。


 釜の泡は、縁に沿って滑り続ける。

 茶筅を深く入れ、腰を落とす。腕は上げない。肘から先だけで小さく、素早く。茶の筋が表面を走り、香りが立ち上る。厚い茶は人を掴む。香りで掴み、奥に引き入れる。だが掴み続けるものではない。掴めば疲れる。疲れに重さが生まれる。その重さを次で沈めるのだ。


 二献目を運ぶと、秀吉は今度はゆっくり口に含み、鼻で息をした。

 笑った。


「よう香る。茶の役目が先に前へ出ておる」


「二献目は茶の役でございます」


「ほう、役ね。役が立つと書いて役か。誰の役だ?」


「飲む方の、そして置かれた場の」


 秀吉は指を鳴らす。

 小姓たちが、紙のように薄い笑みを浮かべる。人を相手にしているようで、場を相手にしている。戦の場も同じ。佐吉はふと、場が人を動かす秤だと気づく。置く位置が変われば、同じ重さでも針は違う角度を示す。


「で、三献目は?」


「薬の役目を」


「薬?」


「疲れを、沈めます」


 秀吉は大声で笑い、掌を叩いた。遠くの兵まで振り返るほどの声だ。


「役が違えば秤を替える、か。戦も同じよ。水が要るときの兵、火が要るときの兵、どれも同じように数えたら、負ける」


 佐吉は頭を下げ、台所に戻った。

 三献目は、湯を短く、熱を深く。茶葉に湯を触れた瞬間の色の変化を、茶筅の先で押し返す。重さは、湯の重さではない。飲む者の肩にある。この肩を一息、地に沈める。薬は甘くなくてよい。苦さが舌に残り、喉の奥で丸くなるまで待つ。


 野営の風は少し乾いた。

 三献目を差し出すと、秀吉は眉をわずかに上げた。

 口に含み、喉に落とし、ふうと息を吐く。


「沈むな」


「はい」


「沈んだから、立てる。……わしは、こういうのが、好きだ」


 声は低いが、周りの空気が変わったのがわかった。茶碗の底に、日差しが薄く輪を作る。佐吉は盆を持ち直した。盆の木目の筋が、指先を撫でる。秤に指を添え、針の震えを止めるような仕草だった。


     *


 寺に戻ると、同輩の小僧たちが口々にはやした。


「愛想なしの小僧が、殿様に気に入られたとさ」


「今度からは愛想なしが流行るのかな」


「やめてくれ」


 笑いながら台所に入る。釜の底は黒くすすけ、甕の口は冷たい。湯を捨てる前に、指を浸す。指先の皺が、水の冷たさをよく覚える。湯の白。あの白は、戦の音の中でも、静かだった。


 翌朝、住持が呼んだ。

 観音寺の奥、薄い障子を通すと、石の匂いがする。住持は膝の上で手を重ね、佐吉を見た。目の奥に、油の光を隠しているような、静かな強さがある。


「佐吉。昨夜の茶のこと、耳に入っておる」


「は」


ことわりで身を立てる者は、理で折れる。されど折れぬようたわめる技もある。理を楯にするな。理は舟だ。渡ったら降りよ」


 佐吉は黙って頷いた。

 師の言い回しは、いつも少し遠回りだ。だが遠回りのうちに、道の影が見えてくる。


「おぬし、召し抱えの使いが来ておる。小姓として、長浜へ参ることになろう」


 胸の奥で、鐘が一つ鳴った気がした。

 住持は続けた。


「僧形から武家の秩へと移る。名はどうする?」


「……佐吉のままで」


「よい。名は秤ではない。秤は、おぬしの手の中にある」


 障子を出ると、石段に風が降りてきた。襟首を撫でて通り過ぎる。足は軽い。だが、山門の鐘の高さが、骨に残った。手を伸ばせば届くようで、決して届かぬ高さ。僧堂の柱の香り、朝餉あさげの味噌の塩気、雨の日の板の冷たさ。すべてが秤皿の上で、静かに揺れている。


     *


 長浜の城下は、水の音がする町だった。

 堀は空を映し、橋の欄干に背を預けると、風は湖の匂いを運んでくる。帯刀の男たちの足音が石を打つ。屋台の綿菓子の白さに目を取られた子が母に手を引かれる。佐吉は、観音寺での衣を替え、薄茶の小袖に袖を通した。僧の衣は、一重ごとに音を立てた。武家の衣は、布の張りを音にしない。


「佐吉、こっちだ」


 声をかけたのは、昨日の野営で見た小姓のひとり、伊助いすけと名乗った。年は少し上だが、笑うと鼻筋が子どものように柔らかくなる。


「殿は今、城の内の工事を見ている。暇ができたら茶を所望なされるだろう。こっちの台所の水は、観音寺のと違うぞ」


「違う?」


「石の味がする」


 井戸を覗くと、底の石が灰色に光り、桶の縁に藻が薄く付着している。手を浸すと、指先に微かな鉄っぽさ。

 佐吉は、唇の内側を軽く噛んだ。水の秤を替える。寺の水が絹だとしたら、城下の水は麻だ。ほつれやすいが、張れば強い。


「茶は、どこで?」


「殿は時々、城の中を歩きながら飲む。座を構えぬのが、あの方のしょうだ」


 歩き茶。湯の秤が難しくなる。歩けば風が動く。風が動けば、湯の肌が震え、香りの行き先も変わる。

 佐吉は、釜の火と甕の位置を、いつもより近づけた。火と水の距離が近いほど、秤は敏感になる。敏感な秤は、人の呼吸を拾う。


 夕刻、秀吉が入ってきた。

 立ったままの男だ。目が笑っているときも、足は前へ少し出ている。まだ止まらぬ、と身体が言っている。


「佐吉、茶だ」


「はい」


 最初の一献は、やはり薄く。

 歩きながらでもこぼれぬよう、茶碗の重心を低くする。湯を高く注がず、低い音で注ぐ。秀吉は受け取り、歩を止めずに口に運んだ。喉仏が上下する。

 城の壁の白が、窓の木枠の影で縞になる。秀吉は廊を折れ、庭の方へ出る。足を止め、二献目の合図のように空を見上げた。雲が薄い。薄い雲は、秤皿に置く前から重さを予感させる。


 二献目は厚く。香りを立て、歩みを止める理由を作る。

 秀吉は立ち止まり、鼻で息を吸った。


「この城は、どんどん形を変える。昨日の廊が、今日の廊ではない」


「水と火の位置が変われば、湯の顔が変わるように」


「おぬし、面白いことを言う」


 秀吉は笑い、茶を飲んだ。

 庭の砂利が、足の下で小さく鳴る。

 佐吉は、砂利の音を聞き分ける。今、殿の重心はかかとに残った。沈む気配。三献目の時だ。


 三献目を差し出す。

 秀吉は受け取り、庭の松に目をやった。


「昨日も思ったが、おぬしの茶は、人の“今”を見ておる。茶の方から押し込んでは来ない」


「茶は、押せば逃げます」


「戦もそうかもしれん。押し続けると、逃げる」


 茶碗の中の小さな渦が、重さを増しながら止まっていく。

 秀吉は飲み干し、息を吐いた。


「任せたいことがある。……茶ではない」


「は」


「秤が要る。わしの周りに、秤を置く役が」


 言って、歩き出す。佐吉は黙ってあとに従う。

 廊の角を曲がるところで、伊助と目が合った。伊助は目で「よかったな」と笑い、すぐに背を向けた。

 任せたいこと。秤を置く役。茶の秤と、戦の秤。役は違えど、重さは人だろう。


     *


 夜、城下の宿直部屋で、佐吉は一人で秤を出した。

 寺から持ってきた、小さな天秤。真鍮の皿と、細い針。重りは米粒ほどの刻みで刻まれた石。

 皿の片側に、今日一日の出来事を置く。もう片側に、言葉を置く。針は揺れて、真ん中を行き来する。


「理で折れぬよう、撓める」


 住持の言葉が、針の震えと重なる。

 秤は、正しさを当てる道具ではない。正しさが当たる場所を探す道具だ。

 佐吉は、重りをひとつ、ふたつ足す。針はまだ、落ち着かない。


 ふと、宿直部屋の隅に、もうひとつの重さに気づいた。

 自分の衣の臭いだ。寺のこうの匂いが、布の奥に残っている。湯の白と一緒に染み込んで、まだ抜けない。

 その匂いが、胸を少し締め付けた。

 鐘の高さ。手を伸ばせば届くようで届かない場所。


 ……帰りたいのか。

 問いを秤に載せる。針は、揺れながら、やがて真ん中から少しだけ右へ傾いた。

 帰りたい、ではない。

 離れがたい、だ。

 言葉を替えると、針は落ち着いた。撓めるとは、言葉を替えることでもあるのかもしれない。


     *


 数日して、城中で小さな騒ぎがあった。

 工事の手配で帳面が食い違い、運び込まれた材木が行方知れずになったのだ。番匠ばんしょうたちは顔を赤くし、役目の者は冷や汗をかいた。


「材木が消えるものか」


 秀吉の声は低かった。

 佐吉は、脇で様子を見ていた。秤の針が、いくつもの方向へ引かれている。怒り、言い訳、恐れ、保身。針の揺れは、重さに比例しない。乱雑に増えた言葉は、秤を壊す。


「佐吉」


「は」


「おぬしの秤で、見てみよ」


 場に笑いが走りかけたが、秀吉が視線を向けると止んだ。

 佐吉は前に出る。帳面を受け取り、紙の手触りを確かめる。

 日付。名前。印。材木の種類。運び込む門。木口の印。

 目で追いながら、指で追う。指に残る墨の粗さの違いが、紙の上の時間を教える。


「この印は、同じ人の手ではありません」


 指で、印の縁の欠け方を示す。

 人が変われば、欠け癖が変わる。印を押す力の向き。乾き具合の違い。

 ざわ、と空気が揺れた。


「どこで替わった?」


「ここです。運び入れの門が、裏に替わった日から」


 材木は消えていない。行き先を替えられた。

 佐吉は、裏門へ向かうよう提案した。秀吉は片眉を上げ、うなずく。

 裏門の先の空き地に、材木はあった。雨避けのむしろがかぶせてある。

 番匠が膝から崩れた。役目の者が謝った。

 秀吉は笑わなかった。笑いは、秤を狂わせることがある。彼はただ、材木の木口を撫でた。木は、撫でられると黙る。


「佐吉」


「は」


「よい秤だ」


 そのひと言は、茶の三献よりも重く感じられた。

 佐吉は、胸のどこかで鐘がまた鳴るのを聞いた。遠く、だが確かに。


     *


 夜、台所で火を落とし、釜の底に残った湯の白を見ていた。

 湯の白は、昼間よりも濃い。暗さが、白を引き立てるからだ。

 佐吉が火箸で灰を崩すと、灰は音を立てた。砂利の音の、遠い親戚のような音。

 伊助が入ってきた。


「佐吉。殿がお前のことを“役が違えば秤を替える”と皆に言いふらしておいでだ」


「笑い話に?」


「笑い話に、しておらぬところが、あの方だ」


 伊助は腰をおろし、火の名残りを眺めた。

 沈黙は、ふたりの間で気まずくない。

 伊助はやがて、小さく言った。


「おれは、あの日、最初にお前を見た時から、羨ましいと思ってた」

「何を」


「お前の指だ。針の震えを止める指。おれには、あれがない」


「指は、練れる」


「練っているうちに、場が変わる。……でも変わる場を喜べる奴だけが、残るんだろうな」


 伊助は笑った。節に小さな古傷がひとつある。

 佐吉は、自分の指先を見た。湯と墨と土と、昨日までの鐘の高さ。

 撓める技。

 寺の石段を降りた時の、足の軽さと骨の寂しさ。その両方を秤に載せ、針を真ん中に持っていく。

 それを、毎日やることだ。


     *


 秀吉は、動く人だった。

 朝、城の外を歩き、町の職人と話し、子どもに笑いかけ、昼は兵の稽古を見て叱り、夜は帳面の端に目を走らせる。

 その合間に、茶を所望した。茶は座ではなく、足のそばで飲むものになった。

 佐吉の役目は、湯と火と水の距離を、その都度測り直すことだった。

 湯が怒らぬよう、火を宥め、場の風に合わせ、香の道を作る。

 三献の秤は茶だけの話ではない。

 最初は薄く――場に入る。

 二献目は厚く――場を掴む。

 三献目は重く――場を沈める。

 この順序を乱すと、人は荒れる。

 荒れは、役立つ時もある。だが荒れを秤に載せずに使うのは、ただの放火だ。


 ある夜更け、秀吉が独りで庭を歩いていた。

 佐吉は、遠巻きにそれを見ていた。

 月が雲の影を引き連れて、庭を横切る。松の枝が、黒い文字のように空に書かれる。

 秀吉は立ち止まり、空に向かって言った。


「秤を見誤ると、人を殺すな」


 誰にともなく。

 佐吉だけが、その声を拾った。

 あの声は、茶の三献に安堵した男の声ではない。

 戦場で秤を持つ者の声だ。

 佐吉は、胸の奥にその声を置いた。置き場所は、湯の白の隣だ。


     *


 召し抱えの日取りが決まった。

 寺から城へ、正式に。

 観音寺へ最後の挨拶に行くと、山門の前で、同輩たちが待っていた。

 笑って、泣いた。泣いて、笑った。

 住持は何も言わず、茶を点ててくれた。

 最初は薄く。

 二献目は厚く。

 三献目は――不思議なほど、軽かった。


「師」


「うむ」


「三献目が、軽い」


「おぬしが、重いからよ」


 師の笑い皺が、目尻に寄った。

 佐吉は、茶碗を両手で包んだ。

 鐘の高さは、変わらない。だが鐘の音は、変わる。打つ人が変われば、鳴りは変わる。

 寺を出る足は、やはり軽かった。

 しかし、離れがたい鐘の高さが骨に残る感覚は、消えなかった。


     *


 長浜に戻ると、秀吉は待っていた。

 城の間で、地図の上に石を置いている。


「佐吉」


「は」


「秤を頼む」


「承知」


 秀吉は石をひとつ摘み、別の場所に置いた。

 その指の動きは、茶筅の動きと似ている。広げず、閉じず、撓める。

 佐吉は、地図の縁に指を置いた。紙のささくれが、指の腹に触れる。

 紙は脆い。だが重なれば、風をも止める。


「三献の茶は、笑い話にしておけ」


 秀吉は、唐突に言った。

 佐吉は目を上げる。


「笑い話の方が、人は覚える。覚えたものの裏に、秤を置けばよい」


「心得ます」


 笑い話は、長浜城中に広がった。

 最初に薄い茶を出して喉を潤し、次に厚い茶で香りを楽しませ、最後に重い茶で疲れを沈めた小僧。

 愛想なしの小僧は、殿様に気に入られた――と。


 だが本人にとっては、それは、

 秤と順序が人を動かすと初めて知った日。

 そして、理を撓める技が、骨の中で目を開いた朝のこと。

 湯の白と鐘の高さが、同じ棚に並んだ、その記憶であった。


 佐吉は、火を見た。

 火は、撓めれば、灯である。

 撓めなければ、ただの焼け跡だ。


 その夜、宿直部屋で天秤の針が静かに止まった時、窓の外で湖の面がわずかに鳴り、遠くの鐘が一つ、遅れて響いた。

 音は、遅れて届く。

 だが届いた音は、長く残る。


 佐吉は目を閉じ、息を深く吐いた。

 秤は、これから幾度も狂うだろう。

 狂うたびに、撓める。

 三度の茶の順序を、三度の秤に置き換えながら。


 ――戦も同じよ。

 あの笑い声が、今夜はなぜか、少し切なかった。

 笑いの裏に、沈むものを見てしまうと、人は笑いの形を忘れない。


 茶筅を握る手は、明日の湯を待っている。

 明日の湯は、今日とは別の白を見せるだろう。

 それでよい。

 それがよい。


 湯の白が静まり、針が真ん中で眠る。

 佐吉は、眠りに落ちる直前、遠くの鐘をもうひとつ、確かに聞いた。

 その音は、骨に降りて、撓み、やがて真っ直ぐになった。



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