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森の魔女

 ある町はずれの森に、一人の魔女が住んでいました。


 ある日、魔法使いに憧れる女の子が森の魔女に頼みました。

「どうか私を魔法使いにしてください」

 魔女はにやにやと笑いながら答えます。

「では、あなたの名前を差し出しなさい」

 女の子は名前と引き替えに魔法使いになりました。

 女の子は早速、友達に魔法をしてみせようと思いました。

 けれど、

「あなた、だれだっけ?」

 友達は女の子の名前を思い出せなかったのです。

 女の子は自分の名前を友達に言おうとしましたが、自分がどんな名前だったのか思い出せません。

「あぁ、私はどういう名前だったんだろう」

 どんなに考えても名前は思い出せませんでした。




 女の子が自分の名前を思い出そうとしているのと同じ時間、一人の男の子が森の魔女のところにやってきました。

「僕はいつも友達に苛められています。どうか友達に罰を与えてください」

 すると魔女はにやにや笑いながら言いました。

「では、あなたの声を差し出しなさい」

 男の子は声と引き替えに、友達に罰を与えてもらうことになりました。

 その帰り道、男の子が道を歩いていると、目の前から友達がやってきました。

 しかし、その姿を見て男の子は驚いてしまいました。

 服は焼け焦げ、膝には傷を作り、髪はボサボサになっていたのです。

 驚いている男の子に友達は言いました。

「火遊びをしてて、自分に火がうつったんだ」

 男の子はあまりのことに、『自分が魔女に罰を与えてもらったのだ』と告白しようと思いました。

 けれど、男の子は声を出すことが出来ませんでした。




 またそれと同じ時間、一人のお婆さんが魔女のところにやってきました。

「あぁ、どうか私を若返らせてください」

 魔女はやはりにやにやしながら言いました。

「では、お前の視力をいただこうか」

 お婆さんは目が見えなくなった代わりに、若返らせてもらいました。

 お婆さんは自分の姿は見えないけれど、喜びながら家に帰ります。

 ところが、

「お前はだれじゃ」

 お爺さんは驚いた様子でお婆さんに言いました。

「わたしです、あなたの妻です」

 若返ったお婆さんは言ったけれど、お爺さんは信じてくれません。

 そしてついに家から追い出されてしまいました。

 お婆さんはせめて一目でも自分の若返った姿を見たいと思いましたが、目が見えないので見ることはできませんでした。




 翌日、女の子と男の子、それから若返ったお婆さんは森の魔女のところに居ました。

「森の魔女さん、どうか私たちを元に戻してください」

 女の子が頼みます。

 けれど森の魔女は、

「いやなこった。お前さんたちがそれを望んだのだろう?」

 そういって、からからと大笑い。

「でも、どうしてもというのなら、お前たちの魂と引きかえってのはどうだい?」

 この言葉に、三人は困ってしまいました。

 魂を失うこと、それは死を、この世界から居なくなることを示しているからです。

「どうしたね?」と魔女は意地悪な顔をして言いました。「さぁ、そのまま暮らすか、それとも魂を差し出すか、どちらにする?」

 どうしようかと悩んだ末に、女の子は言いました。

「私の魂は差し上げます。ですから、どうかこの二人だけは助けてください」

「ほう」と魔女は目を細めます。「本当にそれで良いのだね?」

「はい」

 女の子が頷くと、

「では、お前の望みをかなえてやろう!」

 それは一瞬の出来事でした。

 女の子の姿がろうそくの火のようにパッと消えたかと思うと、男の子は声を出すことができるようになり、お婆さんももとの姿に戻って目も見えるようになっていたのです。

「さぁ、お行き、そして二度と私のところにくるんじゃないよ」

 男の子もお婆さんも、そそくさと逃げるように帰っていきました。





 女の子は気が付くと、自分の部屋のベッドの上で眠っていました。

 自分の名前も解ります。

 これはどういうことなのだろう。

 そう思っていると、どこからともなく声が聞こえてきました。

「今回はお前の心に免じて許してやる。だが次はないよ」

 それは、森の魔女の声でした。



おしまい。

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