8.旅立ち
「テネレあばさんには挨拶してきたか。」
「うん。すごく心配されたけど、止められないってわかってくれたみたい。」
「…おぅ、そうか…。」
テネレに心の中で謝罪しつつ、リヒティは短剣を一本エルピスに差し出した。
「これは昔俺が使っていた短剣。定期的に手入れしていたからちゃんと使えるぞ。これを使って剣術を教えていく。っといっても、日中は馬をひたすら走らせるから、休憩の時か夜にやっていく。」
「休憩入れるとはいえ、馬ずっと走らせて大丈夫?どっかの町とかで変えるの?」
「強化魔法を施すから心配はいらないし、休憩の時に回復魔法をかけるから大丈夫だ。」
短剣と一緒にベルトも渡され、早速腰に装着する。腰に今まで感じたことのない重さを感じ、気が引き締まる。
あれからリヒティは王都の知人へメッセージを送ると、早急に荷造りをし、旅支度をあっという間に整えた。ちなみにメッセージとは魔力を使って飛ばすテレパシーで、魔力量によって飛ばせる距離が変わる便利な代物だ。
念のため隣に住む住人に王都へ向かうことを伝えたので、村中に知れ渡るのも時間の問題だろう。
エルピスも家に帰ると母に一方的に宣言し、荷造りを早急に行った。荷造りの間中、母に行かない方がいいことを説得されていたが、馬の耳に念仏といわんばかりの無視をされ、荷造りが終わるころには諦めていた。
見送る際、頭が痛そうにしていたが、セレニテたちと一緒に帰ってくる、と宣言すると、泣き笑いの顔で抱きしめられた。
母はやはり心配性で愛が深い人なのである。
「よし、荷物は括り付けたし、エルピスは俺の前の方に座ってくれ。手綱は俺が握るから鬣を掴んでおけよ。俺も落ちないように支えるからな。」
「わかった!よろしくね、リヒティ。」
「あぁ、これからよろしくな。さぁ、出発だ!」
その瞬間、風圧がエルピスを襲い、目も開けられなくなった。開けたら最後、一瞬にしてドライアイになること間違いなしだ。思っていた以上のスピードにエルピスは独り言ちる。
(僕、ここで死ぬかもしれない…)
2人の旅路は今始まったのだった。