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6.3日前の襲撃

 ーーーーー夢を、みた。

 真っ暗な世界の中で泣いている光。近くに行こうとしたのに足がちっとも動かない。声を出そうとしてもまったく声が出ない。ただただ、その場に立ちつくすことしかできない

 そんな、夢、をーーーーーー


 意識が浮上した。目を覚ましたと思ったが、相変わらず視界は光しか感知できない暗闇の中。ここはどこなのかと手を動かしたとき、ガチャリとドアの開く音が聞こえた。

 音の方へと顔を向けると入ってきた相手が小走りにエルピスのもとへと来る。


「エルピス!起きたのね!あぁ、あなたは無事でよかった…。」

「母…さん?ここは…僕は…。っ!つぅ!」

「っ!安静にして!あなた、頭を強く殴られたのよ!出血も酷くて、3日間も寝ていたのよ。」

「3日、間も?!くっ!」

「横になっていなさい!今癒すから大人しくして。」


 そういうとエルピスの額に触れ、手の平がジワリと温かくなった。そこからじわじわ温かさが浸透し、痛みがどんどんなくなっていく。

(これは、魔法?温かくて気持ちいい…)

 その温かさに微睡んでいると、ふいに手の平が離れていった。


「どう?少しは痛みもなくなったかしら?」

「…うん。痛くなくなったよ。ありがとう母さん。」

「いいのよ、お礼なんて。…起きたら話しをしようと思っていたけど。もう少し寝ていなさい。体はまだ休息を求めているわ。」

「…そうかもしれない。だけど、母さん。教えて欲しい。3日前何があったのか。僕が気を失った後何が起こったのか。」

「……………そうね。長くなるけれど、しっかり聞いておくのよ。あの時ーーーーーーーー




 3日前の日中。その日も精霊を得た5人はリヒティの講義を聞きつつ、魔法の実践をしていた。

 精霊はそれぞれ得意属性があり、魔力の練り方、魔法の発動の仕方を習いつつ、精霊の得手不得手の確認もしていた。


「いいか、昨日教わった通り、まずは精霊に呼びかける。それから、自分の魔力に起こって欲しい現象、願いを込める。イメージが大切だ。そして、その魔力を精霊に渡すんだ。この魔力は多ければ多いほど、密度が濃ければ濃いほど、威力が増す。だが、発動までの時間が長ければ魔物の攻撃を許してしまう。魔法を主体に戦うならばいかに早く発動するかがキーポイントだ。剣もやるのなら並列志向が大切になるな。

 精霊を呼ぶときは絶対声にだすな!精霊の真名を知っているのはパートナーとなったお前たちだけ。もし他に知られた場合、禁術を使われて無理やり精霊との縁を切られる可能性がある。」

「リヒティ先生!その禁術のくだり講義の度に絶対言うけど、そんなことって本当にあるの?禁ってつくんだから、そんな術知っている人そうそういないような気がするんだけどー。」

「………実際、過去にあったんだ………。」


 苦虫をつぶしたような顔で、リヒティは吐き捨てるように言う。

 5人も息をのみ、不安げに顔を見合わせた。


「………だから、絶対に知られるな。いない可能性に賭けた行動をするな。………そして、善の心を忘れるな。心を強くもて。絶対に。」


 やけに真剣な表情で語るリヒティの雰囲気にのまれつつ、セレニテたちは重く頷いた。


「さぁ、実践してみるぞ。まずは心で精霊に呼びかけてーーーーーーーー」


 リヒティの講義を聞きつつ、セレニテたちは各々の精霊に呼びかける。


(私の精霊リヒト、お願い力を貸して。)


 セレニテの声に反応して風が不自然にそよぐ。心臓のあたりから温かい力を感じる。


(今日は曇り空だから、太陽の光を感じたい。お願い雲を晴らして。)


 魔力がごっそりなくなったと感じた瞬間、セレニテから頭上へ光の柱がたち、雲を引き裂いた。そして漂っていた雲が払われ、太陽が姿を現す。成功したのだ。

 成功を見届けた瞬間、足から力が抜け、地面に倒れてしまう。


「セレニテ!大丈夫か!」

「……リヒティ……頭くらくらする……。」

「あぁ、意識はあるな。一気にあれだけの魔力を放出したんだ、そりゃくらくらもする。魔力が少なくなっているのを感じるか?魔力がなくなれば今みたいな症状がでる。この前教えた魔力欠乏だな。セレニテはしばらく見学していろ。そこの木陰まで歩けるか?」

「……一人は無理。誰か肩貸して。」

「わかった。フェリ!セレニテをあの木陰まで連れて行ってくれないか?」

「わかりました。」


 フェリはセレニテを立ち上がらせると、腕を肩に回し、体を支えゆっくり歩きだした。それを見届けると、セレニテが倒れてから心配げに様子を見守っていた3人に向かってリヒティは手を打ち鳴らし、空気を変える。


「さぁ、3人は続きをするぞ!魔力欠乏にならないように気をつけろよ。」





 見張り台に立っている二人の村人がいた。遠くの方に黒い点を見つけた一人は双眼鏡で確認する。


「……黒い馬と人、か?なんかこっちに向かって来ているみたいだな。ちょっと下で出迎えるわ。」

「おぅ、まかせた。」


 魔法で防壁を張りつつ、待つこと数分、遠くの方から馬が走る音が聞こえた。遠くに見えた黒い点が徐々に形になり、黒い馬と漆黒の鎧を着た騎乗者が複数人いるのが分かった。それを確認した村人は、祭祀様と一緒に来る騎士しか知らないが、鎧を着ているということは騎士なのかもしれないとあたりをつけ、警戒しつつその一団を迎えた。

 一団は村人の前で馬を止めると、先頭を走っていたリーダーらしき男が一人馬から降りて村人の前に立つ。村人の頭一つ分は大きいだろうその背の高さ、威圧感に怯みつつも、村人は笑顔で出迎えた。


「ようこそ。こんな田舎まで足をお運びありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「私は王都第ニ騎士団隊長を務めているクロワと申します。本日はセレニテ嬢に用があり、こちらに参りました。セレニテ嬢はどちらに?」

「王都の騎士の方でしたか!セレニテは……今は講義の最中でしょうからあの丘にいるかもしれません。ここから左へまっすぐ行くとある丘です。ご案内いたしましょうか?」

「いえ、案内は不要です。行くぞ。」

「!?」


 一団は村人に聞きたいことだけ聞くと、また馬に跨り、教えられた方へ走り出した。村人が張った防壁は易々と破られ、衝撃が村人を襲う。

 避ける暇もなかった村人は倒れこみ、頭と背中を強く打ち付ける。


「つぅ……あんな無礼な騎士見たことねぇ!なんだってんだ!!」


 憤慨したのも束の間、ざわりと嫌な予感が背筋を冷たく流れる。


「………本当にあれは騎士…なのか?セレニテは…大丈夫なのか…?」


 もう一人の見張りに後を頼むと、他の住人を呼びに森へと駆け出したーーーー。





「デリックは火が得意属性みたいだな。発動が早いし、威力も他と比べると強い。」

「そうなのか!へへっ、この力で魔物を燃やし尽くしてやるぜ!」

「燃やしすぎて貴重な素材を無駄にしないようになー。」

「ぐぅっ」


 セレニテ以外の4人は得手不得手の属性が確定しつつあり、ただぼんやりと見ていることしかできないセレニテはついつい恨めしそうな視線を4人に向けてしまう。


(私も早くいろいろできるようになりたいのに…)


 そうすれば、父と一緒に討伐に行くこともできるし、リヒティのように一人でいろいろな場所へ旅をすることもできるかもしれない。そして、


 エルピスの目を、治すことができるかもしれない。


(私のせいだもの。私があのとき、無理を通さなければ……。)


 浮かびそうになる涙を隠すように立てた膝に顔を埋める。罪悪感と後悔で気分がさらに落ち込みかけたそのとき


「なんなんだお前たちは!!!!!」


 リヒティの今まで聞いたことのない怒声が耳に入り、驚いて顔を上げると、黒い鎧を纏った騎士のような人物達とリヒティが対峙していた。他の4人はリヒティの後ろで手をこまねいている。突然現れた闖入者を凝視していると、先頭に立っていた騎士が視線に気づきセレニテの方へ顔を向け話し始める。


「我々は王都第二騎士団。セレニテ嬢を王都へお連れするよう仰せつかった。セレニテ嬢はただちに我らと同行していただきたい。」

「………なぜ、セレニテを連れて行こうとする。理由がわからなければ、はいそうですかって渡せるか!」


 瞬間、刃が打ち合う甲高い音が響いた。リヒティと先頭の騎士クロワの剣が交差し離れる。


「お前たちはセレニテを連れて逃げろ!」

「!!!」

「行かせませんよ。」

「お前たちの相手はこっちだよ!」


 いつの間にか不自然に曇っていた空から雷が騎士たちに向かって降り注ぐ。


「ぐぅ!」

「がっ!」


 何人か戦闘不能にできたが、まだ動ける者が複数いる。リヒティは足止めをしようと再度魔法を使おうとするが


「あなたの相手は私ですよ。」


 クロワの素早い剣技がリヒティを襲う。躱し受け流し凌いでいるが、防戦一方で威力の高い魔法を放つ隙がなかなかない。その隙に残りの騎士が5人を追いかける。


「くっそ!」

「……複合魔法を放てる魔力、そして私と打ち合える剣技。ぜひ我が第二騎士団に勧誘したい逸材ですね。」

「はっ!とっくの昔に蹴った話しだな!俺は騎士団になんて入らねぇ!絶対に!!」

「ほぅ。昔別の騎士団に勧誘されてましたか。………残念です、あなたなら精霊とともに、もしかしたら騎士団の誰よりも強くなれたでしょうに……。」

「!!!!」


 地面が揺れ、バランスを崩したリヒティに向かって刃が振り下ろされたーーーーーーーーー





「デリック達はセレニテを守ってくれ!俺は応援を呼んでくる!!」

「わかった!フィス、頼んだ!」


 フィスは村へと走り、セレニテたちは隠れやすい森へと足をすすめた。森までは障害物のない草原が広がっているため、ここで見つかれば逃げきるのは困難になる。


「早く、誰か来てくれ!」


 祈りの言葉は無情にも遠くから聞こえる音で砕かれる。ガチャガチャと金属音が打ち鳴らす音が近づいてきていた。


「!!みんなは先に行って!ここは私が足止めするから!!」

「フェリ!」

「私の得意属性は地だったでしょ?穴を作れば多少の時間稼ぎにはなるはずよ!」

「~~~~~っなら、俺たちも残る。3人いれば全員をぶちのめすこともできるかもしれないぜ。セレニテはその間に森へ向かって逃げろ。」

「でも!「いいから!なんでリヒティが逃げろって言ったのかはっきりとはわかんねぇ。でも、リヒティの判断が間違いだったことなんて一度もねぇ。何かあるんだ。捕まっちゃいけない理由が。」


 タイミング悪く魔力を使い切ってしまった自分自身に悔しさが湧き、歯を食いしばる。


(一緒に迎え撃ちたい。でも、魔力も何もない私はただの足手まといだ…)


「……みんなお礼は後でいうから。……森で待ってる。」


 セレニテはふらふらの身体に活を入れて森へと走り出した。





「ハァ、ハァ、なんで、大人がいねぇんだよ!いたとしても、戦えない、やつだし!ハッ、ハッ、このままじゃ、セレニテが、」


 村中を走り回るが戦える者がいないことに絶望したフィスは膝をついてしまう。


(いないってことは森にいるのか?うまく逃げきれてたら合流できるかもしれないけど、もしその前に捕まったら?)


 嫌な想像にぞっとする。


(駄目だ!何か他に手はないのか?!)


 ここに残っていたのは年寄りと防御や回復の魔法しか使えない大人たち。そして年端もいかない子供。あとーーーーー


(そうだ。エルピスがいる。)


 まだ目が見える頃、一緒にリヒティから武道の型を教えてもらったが、誰よりも呑み込みが早く、リヒティと型稽古をしているのをよく見ていた。目が見えなくなっても型稽古はしているようで、一度その様子を見に行ったことがある。本当に見えていないのか疑うほど、手の突き出し、足の払いすべてが素早く綺麗で正確だった。


(精霊を得ていないから魔法は使えないけど、俺がうまく魔法で援護できればーーーー。)


 一抹の望みに賭け、エルピスのもとへ駆け出したーーーーーーーーーーー

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