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55.大人たちの考えは

 事務所を出ると騎士と一緒に待機していた仲間が二人に駆け寄ってくる。その表情は心配していたとはっきりとわかるほどで、特にエルピスに集中していた。リヒティは当事者の一人のため呼ばれるのは分かるが、なぜエルピスも一緒に連れていかれたのか、しかもわざわざ指名で、それが分からなかったためだいぶ心配かけたようだ。


「おかえりなさい。…どうだった?大丈夫だった?なんか変なことされてない?」


 セレニテが矢継ぎ早に質問するも二人はなんと言っていいのか分からず、眉が自然と下がって口ごもってしまう。


「……とりあえず、僕達のことは疑ってないって言ってたから大丈夫だよ。」

「まだ日も高いから今から出れば日暮れごろには近くの村に着くと、副団長が教えてくれた。」


 その言葉に驚き信じてくれた嬉しさもあるにはあるが、疑わなさすぎると逆に副団長への怪しさが募る。大人たちは気難しい顔でアイコンタクトを交わし合うが、次の瞬間吹っ切れたような笑顔になり、話すトーンも心なしか高くなる。


「そういうことでしたら早く出発いたしましょう。」

「夜が近くなればなるほど、凶暴な魔物も出てくるしな。」

「話しのわかる副団長さんで良かったですわ。」

「さぁ、今度こそ出発だ!」


 大きく腕を振り上げ先導をきって外へと足を進めるリヒティに続くように、大人たちも歩き出す。

 急な態度の変化に追いついていないエルピスとセレニテは足が動かず、進み始めている大人たちの背中を呆然と見つめる。

 そんな状況に追いついていない二人に気づいたエーデルは、二人の元へと戻り力強く手を引いて歩き出した。その引かれる力強さに体のバランスを崩しつつも進み始めた二人は、やはり何が何だか分からない、と目を瞬かせるのだった。










「さて、ここまでくれば魔力範囲外ですので、聞き耳を立てられることはないですな。」


 街を出てから三十分ほど歩いた草原に六人はいた。副団長の指示通り村へと向かっているため、人が歩く道が出来ている長閑な草原だ。

 リヒティはつめていた息を大きく吐き出し空へと伸びあがった。


「あぁ~、やっとまともに話せる…。意識して話してたから変に体が固まっちまった…。」

「リヒティの反応が大げさすぎてバレないかとヒヤヒヤしましたわ。」

「エーデルも人のこと言えなかっただろ。」


 そんな応酬が繰り広げられるも、何の説明もなしにここまで連れてこられた蚊帳の外の二人はというと、


「「………」」


 盛大に不貞腐れていた。

 普段遠慮しいで頭の回転もそこまで悪くなく状況を察する力のある二人だが、今回のことは判断する材料が少なく急なことで状況に追いつけなかったのだろう。この旅でだいぶこの四人の大人達には甘えられるようになり、子供らしい一面を覗かせることが度々ある子供二人。今回は膨れっ面で抗議をしているようだ。


 自分達にもわかるようにちゃんと説明しろ、と。


 そんな二人に苦笑しつつも、リヒティは事務所内にいなかった仲間たちにあの時何を話しあったのかを伝えるために口をひらいた。


「とりあえず、先に中でどんなことを聞かれたか、どんなことがあったのか軽く説明するぞ。(セリュー事務長の奇行は省いてな。)」









「あの事務員が…ですか。」

「そこまで怪しい奴には見えなかったが…いや、犯罪者はそういう一見無害な奴だったりするか。」

「そうですわね。何か理由があるのだろうと副団長様の言葉にのってここまで来ましたが…今のところ追手の気配も何もありませんわね。」

「追手って…えっ?もっ、もしかして副団長さん…私たちのこと…」

「…………囮?」


 その一言に場の空気が重くなる。


「…その可能性もある、敵が何故俺達に自分が怪しい人物だとヒントを与えるようなことをしたのかは分からないが、俺達に向けてアクションを起こしたことは事実だ。なら、何かしらの因果関係があるんじゃないかと、副団長は考えるはずだ。」

「ならば、自分たちの街の住人を守るために、赤の他人の私達を利用して危険人物が外に行くよう排除と誘導をした方が早くて危険も少ないと考えられますわ。」

「騎士は大を守るために小を切り捨てることも厭わない奴らだしな~。」

「ある意味”守る者のために”という一貫性があって私は好きですな。」


 ほっほっほっ、とオラクルが笑うも、エルピスとセレニテはショックが隠し切れず、さっと顔色が青くなる。騎士ではないにしろ、村の自警団に守られてきた身としては騎士も同じように自分たちを守ってくれるものだと勝手に思い込んでいた。


 改めて突きつけられる現実。


 旅をする以上、精霊の力を得た以上、自分たちの身は自分たちで守らなければならないと、分かっていた。


 分かっていた()()()だった。


 エルピスとセレニテの心の中にあった甘えが崩れた瞬間だった。二人の手に力が入る。自分たちの甘えに、覚悟の足りなさに悔しさが沸き上がる。


 二人がショックを受けているのをしり目に、大人たちの話し合いは進む。


「だが、結局追手が来ていないとなると……副団長の読みは外れたってことか?」

「まぁ、さっき話した街から出した理由も自分達の予想だしな。もしかしたら本当に善意で自分達を巻き込まないように逃がしたのかもしれないぞ。」

「そうかもしれませんが、戦力が少なくなっている今、そのようなことをするのは悪手かと…。少しでも戦力はあった方が良いのでは?」

「いえ、副団長様の勘で信じられる人だと言われましたが、他の騎士の皆様には完全に信用されておりません。ならば、内部分裂を少しでも少なくするために、あえて外部の者の力は借りなかった可能性がありますわ。」

「なるほどな…。…まぁ、俺達が今あーだこーだ言ってても仕方ない。あの街の問題はあの街の人達にーーーー




 ドォン!!!!!!!!



 遠くの方から大きな爆発音が響いた。

 方角的に先ほどまでいた街で間違いない。

 それを認識した瞬間、六人は街へと駆け出した。


「エーデル!街が今どうなってるか探れるか?!」

「今やってますわ!…………街の中央の広場から爆発が起こったようです!」

「なぜいきなり…。」

「そのセリューとかいう奴が行動を起こした、ってところか。」

「………」


 街がどうなっているのか、目視ではまったく分からないが大変なことが起こっていることは事実なようだ。

 エルピスは遠くの方で微かに見える街を見つめつつ、足を懸命に動かす。


(犯人は街や村を滅ぼすのが目的?それなら今度こそ僕達が止めて見せる!)





 ーーーーーーーーー

 ーーーーー





「あ~あ、あいつら結局ここ出ちゃったよ。」

『それなら好都合。プランAを実行するぞ。』

「は~い。それじゃあ、街の人達には犠牲になってもらいましょ!」


 噴水広場の真下の下水道内。そこに大きな魔方陣を完成させた少年は楽し気に魔力を流すのだった。

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