53.事情聴取
門前事務所内。
行方不明のリューゲ事務員について事情聴取のために来た六人。建物は長方形の比較的大きい平屋建てになっており、基本的に出入りは窓口の近くにある一か所のみ。窓は換気のために設置された窓が複数個あるが、人が通れないほどの小ささでかつ上部にある。建物内部の約四分の三は預かった荷物置きになっているため、人が入れるスペースは限られている。そこにユーリス副団長と事務員の女性とリヒティ、ついでに事務員の女性に指名されたエルピスも共に入室した。他の五人は外で見張りの騎士と一緒に待機している。
事務員の椅子に座るよう促しつつ、ユーリス副団長は二人に向かい合うように腰掛け、事務員の女性はバインダーを持って副団長の近くに待機した。
「まず初めに紹介しよう。こちらの女性はここの窓口事務の統括をしているセリュー事務長だ。」
「セリューと申します。この度は捜査に協力いただき誠にありがとうございます。」
自己紹介を受けたセリューが二人に向かって深々と頭を下げる。雰囲気が真面目そうな彼女らしい背筋がピンと伸びた綺麗な所作だった。
「リヒティです。」
「えっと、エルピスです。よろしくお願いします。」
そんな雰囲気に習うように二人も背筋を伸ばして向かいにいる二人に向かって座ったまま深々とお辞儀をし返した。緊張している二人に気を遣ってか、ユーリスは笑顔で話し始めた。
「さて、自己紹介も終わったことだし、本題に入ろうか。君達のことは全く疑っていないが、行方不明者が出たからには見つけるために小さなことでも情報が欲しい。当時の様子を聞かせてくれ。」
「……あの時、俺が窓口で出るための手続きをして他の五人は少し離れた所で待機していたんです。その時他には手続きに来た奴はいなかった…はずです。」
「そうだね。僕達以外はいなかったよ。こっちに向かってくる人もいなかった。」
セリューがバインダーに発言を記帳する音が微かに耳に届く。エルピスがちらりとセリューを横目で見るとバチリと視線が重なり気まずさで誤魔化すための下手くそな笑顔で返すと視線をまた前へと戻した。
「ふむ、君たち以外はいなかったと…続けてくれ。」
「手続きは…荷物や馬の預かりの有無と、今持っている物品と人数の確認で、十五分程度かかったと思います。」
「今の事務員がやってる平均時間くらいですね。」
「それから、今から行く場所を尋ねられて、ノルドの森に隣接している村が…壊滅したから気を付ける様に、と。」
「出立する者には伝えるよう伝達していることだな。」
「このことは伝達してますか?犯人はまだ捕まっていない、と。」
セリューのペンを走らせていた音がぴたりと止まり、ユーリスの顔も険しくなっていく。空気が張り詰めリヒティとエルピスに向かってビリビリと殺気がはしり鳥肌が立つ。
「犯人はまだ捕まっていない?まだ調査中で調査結果はきていないぞ。セリュー事務長は何か聞いているか?」
「…いえ、私のところにもそのような情報はきておりません。それに、魔物の襲来かと…。」
渦中の外になりかけていたエルピスがおずおずと手を上げつつ、疑問を投げかける。
「あの、そもそも、壊滅したというのは誰からの情報なんですか?」
三人の視線が一気にエルピスに集中し、びくりと体が震える。特に副団長ユーリスの視線が強くエルピスの体に穴が開きそうな眼力だ。が、ユーリスの視線を逸らすことなくエルピスも負けじとまっすぐに見つめ返す。
二人の視線の攻防がいつまでも続くかと思ったが、ユーリスの方が先に視線をやわらげ口の端を緩めた。
「それはーー」
「商人からだ。この町にも他所から珍しい物を持ってきてバザールを開く商人は来ているからな。…一週間ほど前…だな。」
「副団長!」
「かまわない。この者達なら話しても大丈夫だろう。あの資料を渡してくれ。」
「…いつもの”勘”…ですか。」
無言で頷くユーリスにセリューは一つ息をつき、手元の資料をリヒティに手渡した。
隣に座っていたエルピスもその資料を覗き込むと、そこには商人から得た情報やここ一週間ほどの来訪者の情報など事細かに書かれていた。
ここまでで得た情報が全て書かれているだろう資料に驚き、リヒティはセリューとユーリスを信じられないとばかりに凝視する。
そんなリヒティにユーリスは笑顔で肩を竦めて、セリューは苦笑で返した。
「その商人曰く、生存者がいないか探したようですが見つけられなかったと…。建物も倒壊しているものばかりで無事な建物はない、と…報告を受けております。ただ、動揺してしっかり見ていないようでしたので、生存者が本当にいないか村で何が起こったのか確認のために私達は向かいました。」
「王都の騎士にもねんのため応援は頼んだ。新たに強い魔物が誕生しているのかもしれないからな…。」
「強い…魔物…。」
魔物は基本的に凶暴なものと大人しいものの二種類に別けられる。ニ柱が健全に存在していた1年前までは、住処や縄張りを刺激しなければ魔物も人間を襲わなかった。極たまに森の実りが少ないために人里に降りてくる魔物もいたようだが、それは本当に稀なパターンだ。
それが、ここ一年ほどで凶暴化が進み、なわばりを刺激せずとも人間を襲うようになってきた。
セレニテに入ったことでソレイユの力は安定したとルアは言ったが、その安定とは消滅の危機を脱した、だけなのかもしれない。
エルピスの瞳が揺れ目線が下へと落ちていく。それを強い魔物に襲われる不安だと勘違いしたセリューがエルピスの傍でしゃがみ込むと、小さな頭を優しく撫でた。
「ここにいる騎士の皆さんはとても強いですので大丈夫です。必ずその魔物も倒してみせます。」
「あぁ、この町や人々は必ず守ると誓おう。」
「…ありがとうございます。」
エルピスの顔がふにゃりと破顔する。
「!!」
その顔を見たセリューに衝撃が走る。それに気づいたユーリスが二人を引き離そうと腰を上げかけた。
「セリュー事務ty「ああああああああああ!もうダメーーーー!!!!!!!!!」…遅かったか…。」
いきなり発狂しだしたセリューにエルピスは肩を跳ねさせ横にいたリヒティに助けの手を伸ばした。リヒティもリヒティで発狂し出したセリューからエルピスを守る様に腕を伸ばし、自分の後ろへと隠した。
ユーリスはセリューの持っていたバインダーを回収すると、笑顔で元の位置へと戻っていく。
セリューの発狂は続く。
「もうもうもう一目見た時から可愛い子だとは思ってたけどあの笑顔は反則でしょ!ニコッじゃなかったふにゃっだった!ほっぺは触ってないけどちょうど良い柔らかさに違いない!ちょっとピンクっぽい色してるのがポイント高い!おめめキラキラしてて空みたいに澄んだ青ででも見れば見るほど深い青!吸い込まれちゃう!髪の毛さらさらキューティクルで慰めついでに触っちゃった!我慢できなかったのごめんね!慰め3割下心7割で触っちゃった!」
四つん這いで床に向かって何やら危ないことを叫んでいるセリューに、最初は警戒していたリヒティの目がだんだんとゴミを見るような目に変わっていく。エルピスはリヒティの後ろで目を白黒して握ってるリヒティの服をさらに強い力で握りしめた。
「………ユーリス副団長。」
「ただの魔物の鳴き声だと思って聞き流してくれ。さて、話しを続けようか。」
にこやかな笑顔を崩さないユーリス。発狂しているセリュー。汚物を見るような目が止まらないリヒティ。混乱しているエルピス。
カオスな空間はまだまだ続くのだった。
変態キャラもっとだしたいね!




