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52.新たな影

 翌日、買い出しも済ませ出発の準備を整えた一行は門前の窓口で出る手続きを行っていた。

 事務員の制服を着て髪の毛を七三にきっちり分け眼鏡をかけた年若い青年が、書類をじっくり見つつ荷物と人数を確認している。


「全員お揃いですね。馬と預かっている荷物は………ありませんね。よくそんな人数で荷物最小限でいけますね…なにか便利なアイテムでもあったんですか?」

「いや、俺達は草原よりも森の中を進むことが多いから、食料に関してはあまり困らないんだ。それと野宿はできるだけ避けたいから魔法で、な。」

「なるほど、よく魔力が保ちますね。自分だったら途中でバテて魔物の餌食ですよ。」


 はははっ、と軽く笑う門番と同調するように同じく笑うリヒティの背中に冷汗がつたう。それもそのはず、今ここにいるメンバーは敵以外にもバレてしまっては色々と面倒なメンバーなのだ。

 コミエ村の三人ならまだしも、王族の中でも魔力値が高く次期王へと呼び声高いエーデル、祭司の中でも最高位の座についているオラクル、ケントニスの中で古代遺跡と歴史を主に扱っているがその紐解いた歴史から新たな魔法や魔方陣の開発など多岐にわたる分野で助言をしケントニスを卒業した者にその名を知らぬ者はいないほどに知れ渡っているヴェスティ。


(ついでにこいつら二人には神が宿ってるしな……)


 知られようものなら祭り騒ぎになるのが目に見えているエルピスとセレニテの二人。

 凄いメンバーと共に旅をしているのだと改めて実感する。


(…あれ?俺って…)


 一瞬自分について考えそうになるがリヒティは深く考えることを放棄し、手続きに意識を戻す。


「…はい、今提出いただいた書類で完了です。ちなみに、これからどちらへ行かれる予定でしょうか?」

「あー、一緒にいる仲間が学者でな。ノルドの森方面に用事だ。」

「学者様だったのですね。では若い方は入りたての学生さんといったところですか?」

「あぁ、実物を見ることも大切だってな。」

「そうなんですね…では、一つ忠告ですが…。」

「忠告?何かありましたか?」

「ノルドの森に隣接している百人いないくらいの小さな村リーテン村があることはご存じですか?」

「……あー、村名までは分からないですが、確かにありますね、半分森と一体化している村ですよね?」

「そうです。その村が一週間ほど前に





 壊滅しました。」





「!!!!!!」

「王国騎士団には知らせを出していますが、一先ず現地調査として先行で我々の町から騎士を派遣しています。ですが、犯人が捕まった知らせもまだ届いておりません。道中で会うかもしれませんので、お気をつけください。」


 思いがけない凶報に、リヒティの顔が険しくなる。


「なら、この町から出さない方が良いんじゃ…。」

「その意見もご尤もです。…失礼を承知で言いますが、あなた達がその犯人かもしれない、という疑惑があること。そして、この町にもう潜んでいるかもしれないこと。以上の意見を踏まえ、この町の住人以外の人達には厳重な審査の上での入る許可を、出るときは通常通りの対応と忠告を行っております。」


 リヒティは二日前に行った門前での審査の様子を思い出す。荷物検査はいつものことだが、身体検査を行われ、しかも荷物も一つ一つ記録されていた。検査している騎士や職員も少し険しい顔をしていて、その時はやけに真剣な顔をしているなと思っていたが、違ったのだ。怪しい人物かどうか疑われていたのだ。特にリヒティ達は他の旅人と違って荷物が少ない。怪しまれていただろう。


(…素材、表に出しといて良かった…。)


 町に入ってから素材をエルピスに出してもらい売っていたらどうなっていたことか。今頃牢屋に居たかもしれない。

 そんな動揺を悟られないように、考え込むふりをして腕を組みつつリヒティはさらに情報を仕入れようと話しを進める。


「どうりでいつもより手続きが遅かったわけか…俺達と町の人々の命を同時に守るにはこの対応しかねぇ、か。…だが、言っちゃあなんだが、この町の住人が犯人、ということはないのか?」

「はっきり言いますね。……考えたくはないですが…そのことも含めて調べ済みです。ここ三週間くらいで出入りした町人はいないか…。」


 暗い表情で言いにくそうに口を開いては閉じるを繰り返す門番に、リヒティは根気強く待つ。引く気はないと悟った門番は机の上で組んでいた手に力を込める。まるで罪を告発するように。


「…三人いました。一人は薬草を取りに出て三日後には帰ってきました。もう一人は王都へ伝達に行った騎士。この方は今こちらに向かっているそうです。そして……」



「最後の一人は行方不明です。」








 門番から情報得たリヒティは出立してある程度離れてから、仲間内にこの情報を共有した。


「…壊滅…ですか…。」

「コミエ村と同じ人がやったのかな…。」

「その可能性もあるが…ただ単純に魔物に襲われてって可能性もあるぞ。自警団はいるだろうが、数が多けりゃやられるだろうしな。」

「……魔物に…確かにその可能性もあ…る…」


 そうだ、その可能性もあったのだ、だが、あの門番ははっきり言わなかっただろうか?


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と


 魔物の可能性を騎士達も思いついてるはずだ。むしろ普通に生活していれば魔物だと思うに違いない。

 それなのに、事務員はその可能性を捨てはっきり人だと告げている。


「まさか…!すまねぇ!一旦戻るぞ!!」

「リヒティ!?」


 踵を返すリヒティに驚くもエルピス達もリヒティを追って先ほどまでいた町へと戻る。

 一足先に着いたリヒティは門前に立っていた騎士の一人へ事務員の所在を訪ねていた。


「さっきまで俺達の出立の手続きをしていた事務員に聞きたいことがあって戻ってきたんだ!今どこに…。」

「事務員に?ちょっと待っててくれ、今呼んでくるから。」


 訝しみながらも要件を聞き入れた騎士は中へと入っていく。その間に追いついたエルピス達は急にどうしたのかと、リヒティを問い詰める。


「あの事務員…はっきり言ったんだ。()()って。…それに、色々考えるとおかしいんだ。町人のことを俺にこんな簡単にぺらぺら喋ったことも。エルピスを学生だと説明しても何の反応もしないことも。」

「それは…たしかに可笑しいですね。エルピス様の身長は平均値よりも低い。学生と言われても多少怪しむはずです。」

「それに、町人のことを怪しんだとはいえ、そんな詳しく説明するのはご法度だろう。魔物じゃない人がやった犯行だと確信してるなら、情報漏洩はより厳しくなるはずだ。」


 六人の空気が冷たく張り詰めていく。そんななか、事務員を呼びに行った騎士が慌てて戻ってきた。走ったのか、軽く額に汗が流れている。


「たっ、大変だ!事務員が…いない!」

「?!」

「それは本当か!」


 門前で待機していたもう一人の騎士が信じられないとばかりに帰ってきた騎士を肩を掴む。息を切らしつつ大きく頷く騎士に、もう一人の騎士は即時行動に移す。


『全騎士に告げる、リューゲ事務員の行方を知っている者は直ちに情報の提供を求む。』


 メッセージの上位互換、特定の人物複数人に向けて同時に伝達する指揮系統魔法ディレットーレ。

 学術都市で開発された魔法の一種だが、教わるのは騎士かつ役付きのみと限られている魔法だ。

 それを使えているということは


「あなたは、」

「申し遅れました。私は副団長のユーリス・オブライトと申します。あなたがたにも少しお話を伺いたいのでご同行お願いいたします。」


 いつの間にか来ていた応援の騎士が六人の後ろに二人付き、退路を防ぐ。リヒティはため息をつきつつも抵抗の意思はないと両手を軽くあげるのだった。







 薄暗くじめじめとした道が続く下水道。そこに眼鏡を取りつつ髪の毛をぐしゃぐしゃに乱している男が一人歩いていた。


「あいつらノルドの森に行くってよ!ついでにリーテン村のことも伝えたから、もしかしたらそっちに向かうかもね~。」

『馬鹿か。やつらお前のことを怪しんで戻ってきたぞ。情報を流しすぎだ。』

「げっ?!まじか~…まぁ、いっか。じゃあ、プランBでいく?」

『…そうするしかないだろう。今度はぬかるなよ。』

「了解了解!んじゃ、また後でね!」


 メッセージのやりとりを終えると、乱した髪の毛を整えつつ、脇道へと逸れる。一度借りている部屋に戻り服を変えたいと思っていたのだが。


(戻ってきたってことは、騎士に話してる可能性はあるよね~。ってことは戻ったらばったり鉢合わせ。なんてことになるかもな~。服はこのままで行くか~。)


 首元のネクタイと第二ボタンまで外し、ズボンの中へ入れていたシャツを出して着崩すと不思議なことに雰囲気が若返り、青年だと思っていた男が少年へと様変わりしてた。


(一応目元が見えにくいように髪の毛整えとくか~。)


 歩きながら髪の毛をいじりつつ、少年は目的地へと迷いなく進むのだった。

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