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51.大人として

 オラクルの後ろを歩きつつ、先ほどと同じように魔力制御を意識的にやっていたエルピスは無事皆と合流でき、その頃には元の状態に戻っていたヴェスティが戻ってきたエルピスの頭を髪の毛がくしゃくしゃになるまで強く撫でまわした。


「うわっ!わっ!!何するのヴェスティ!」


 困惑しながら抗議をするも、前髪の隙間から見えるヴェスティの表情はいつもの表情とは程遠い大人な見守るような笑みで、二の句を告げずにいると、頭を軽く叩かれそばを離れて行った。そんなヴェスティが、その表情が、自分よりも何倍も生きている大人なのだとエルピスに実感させた。


「みんな集合したし、こっちも片付け終わったからそろそろ出発しよ!」

「そうだな。日が暮れる前に町があったらそこに一晩泊まりたい。」

「ここから北東の所に町があるはずですので、そちらに向かって行きましょう。」

「オラクル。またお願い。」

「かしこまりました。」


 6人は強化魔法を各々かけると、その街に向かって走り出したのだった。






 その町に着いた時、まだまだ日は高かったがこのまま町に滞在し、一日準備を整え二日後に出発しようという話しになった。宿をとった6人は素材を売りに行く者、そのまま宿に滞在する者、旅に必要な道具を新調もしくは新たに購入するために市場に行く者、それぞれ自由に動くことに。ただし、エルピスとセレニテは出かける場合フードを被ること、誰かしらと一緒に出掛けることが条件ではあるが、それでも久しぶりの活気のある町にセレニテは浮足立ち、エーデルと共に出かけて行った。後に素材を売りに行ったリヒティも二人と合流するようだ。

 エルピス他二人はどうしたのかというと


「……」

 パラッ

「ふ~む。」


 宿の中で借りた部屋の一つに集まり、魔力制御に集中するもの、手記を読む者、仕舞っていた服たちを見て悩む者と各々自由に過ごしていた。


 オラクルは広げた法衣をハンガーにかけて解れや汚れがないかチェックを入れる。こんな時でないと洗濯も修繕も出来ないため、町に着いたら必ずやっている作業だ。とはいっても、この旅で着ることなどないため、無駄な作業であるかもしれないが。他にもヴェスティの白衣や、それぞれの服を一緒にチェックする。ドレスで旅は出来ないため、最初の町で早々に売ってしまったたエーデルのドレスはない。

 そのお金で馬や道具を買えたため、有難いことではある。


「私の法衣もそろそろ売りましょうか…。」

「止めとめ。それで敵に場所が特定されるかもしれんぞ。」

「そうだね、それにその法衣特別な物でしょ?この旅が終わってまた祭司として復帰するだろうから、持ってた方が良いよ。僕の魔法も上達して魔力そこまで使わずに収納魔法を維持できるようになったし。」

「………そうですね。では、お言葉に甘えて。また保管をお願いいたします。」

「まかせて!……欲を言うなら、寝てる時でも常時発動できてたらいいんだけど…。」


 魔力制御が完全に安定したのか少し気を緩めて、組んでいた足を伸ばして軽くストレッチを始めつつ、エルピスは預かっていた道具たちを再び出した。

 素材類はリヒティがすべて持って行き、服は今オラクルが見ている物ですべてだ。他に入っているのは野営道具でそれらも長旅で少しずつ量が増え、今では片付けるのも一苦労な時がある。


「ついでに野営道具も見直したいな。どれだけ入れても良いけど、取り出すときに探すのがちょっと大変なんだよね…。」

「野営道具ですか…。」

「確かに…この部屋は2人部屋で少し広めに作られているが、この道具が出たら一瞬にして狭くなったな。」


 足元に散らばるのはテントと毛布から始まり、マグカップなどの食器類、料理をするときの調理道具に調味料たち、この辺りは必要な物ではあるだろう。だが、


「これとかいらない気が…」

「言わんとすることは分かります。」

「たしかにな~。」


 三人の目の前に置かれている道具たちの中に異彩をはなっているのは、カラフルな色合いのぬいぐるみと無駄に多いマグカップ、寝心地を求めて買われた大判の敷布などなど。

 ぬいぐるみはセレニテのために、マグカップは旅の途中で壊れた時用に、敷布はエーデルやセレニテ、エルピスのために用意された物だ。


「敷布…すごく有難い物なんだけど……なんというか……。」

「ぬいぐるみとカップに関しては分からんでもないが、敷布は別に持っててもいいんじゃないか?どうせ背負わんし。」

「そうです。しっかり休めず倒れても大変です。」

「ならっ!僕達だけじゃなくて皆の分も用意しようよ!」

「いや、野宿は慣れてるからいらん。」

「それに、無い方が異変にすぐに気づけますし。」

「そこだよ!」


 失言をとったと言わんばかりに、エルピスはオラクルに向けて指を突きつけた。

 その指先をそっと下ろしつつ、オラクルはエルピスの言わんとすることを察し、続きを目線で促した。


「僕達だって野宿に慣れたいし異変にすぐ気づけるようになりたいんだ!その方が皆の気が休まる時間が多くなるだろうし。皆に頼ってばかりじゃなくて、僕だって頼られる人になりたいんだよ。」


 最初の方は威勢よく言っていたのに、最後の方には不貞腐れて立てた膝に顎の乗せて縮こまったエルピス。そんな子供じみた反論の姿勢に大人二人は苦笑してしまう。


「エルピスの意見は一理あるな。」

「っ!なら!「ただ」」


 今度はヴェスティがエルピスに向けて指を突きつける。思わずより目でその指先を見つめたエルピスの様子にくすりと笑いつつ、大人としての考えを口にする。


「慣れるまでかなり時間がかかる。最初の頃はまともに寝れず体力も気力もすごい勢いで削られていく。そんな状態で敵に遭遇してみろ。想像してみろ。………どちらが、私達の足をひっぱる?」

「………」


 答えなど明確だ。エルピスは不甲斐なさと歯がゆさで眉間には皺が寄り唇を噛みしめる。

 そんな様子に大人二人は肩を竦め、今度はオラクルが優しくエルピスの肩を叩く。


「あなた様の思いやり、しかと受け取りました。ですが、今は緊急の事態です。この件が終わりましたら好きな「この旅が終わったら」」


 いつの間にかエルピスの眉間の皺はなくなり、代わりに眉が困ったように下がっている。先ほどまで噛みしめていた唇が、今度は失敗した笑みを形作る。

 その表情があまりにも切なくて、二人は目を見開く。


「この旅が終わったら、僕はお城に幽閉なのかな…。」


 肩に置いていたオラクルの手がびくりと震える。


 それが答えだった。


 崩れかけた世界の均衡をまた正常に保つために、同じ失敗が起こらないように、ソレイユが見つかり次第厳重な体制がとられることは目に見えている。


 エルピスは分かっていた。


 この旅が最後の自由になるかもしれないことに。


「なら、この旅は楽しまなくっちゃね!」


 二人が二の句を告げずにいるちょうどその時、廊下側からセレニテ達の楽し気な話し声が聞こえてきた。


「あっ!セレニテ達帰ってきたみたい!どんな物があったか聞いてこよう!」


 わざとらしいほどの明るさでそう言うと、エルピスは廊下へと出て行った。エルピスが合流し、姦しさがました話し声を扉越しに聞きつつ、ヴェスティは床に倒れこんだ。


「は~、失敗した。」

「エルピス様は…わかっておられたのですね。」

「まぁ、ちっと考えれば分かることではあるな……ガキのくせに…。」


 未来を諦めているとあの瞳が語っていた。


 それでも


「分かってんなら、そんな未来にならないように奮闘している大人の気持ちも察しやがれ。」

「無茶をいいなさる。」


 吐いた毒は本人に届かず、虚しく部屋に響くだけだった。

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