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50.魔力制御

「ヴェスティ!エルはどうだった?」

「………あー、今証拠隠滅してる。」

「………証拠隠滅……」

「一気に犯罪者のようになりましたな。」

「ヴェスティ様がいうと余計そう感じますわね。」

「普通の声量でいうな。少しは隠せ。」


 面倒そうに頭をかきつつ苦りきった表情で苦言を呈すヴェスティに、待っていた四人に笑いが起こる。


「ヴェスティもお疲れ様!」

「今温かい飲み物でも用意しましょう。少しそちらにかけてお待ちなさい。」

「いや、そんなことしなくても」


 ヴェスティが断りを言いかけると、すいっとオラクルが近づき囁きかける。


「先ほどまで神の元に居られたのです。体が震えるでしょう?その状態で魔法を使おうものなら大変なことになります。エルピス様達のためにも休まれた方がよろしいですよ。」

「………はぁーーー。分かった、休憩する。」

「分かっていただけたようでなにより。」


 にこやかにその場を離れ、飲み物の用意を始めるオラクルにヴェスティは心の中で感謝しつつも、昔と変わっていない少し強引にことを進めるその様子に呆れと懐かしさを感じつつ、指定された場所へと足を向けた。






「あっ、珍しくのんびりしてる。」


 数分後、元の状態に戻したエルピスは皆が揃っている場所まで駆け足で戻ってきた。そこには素材たちを分別しつつ片付けに入っている四人と、少し離れた場所で先に戻っていたヴェスティがカップ片手にぼんやりしているところだった。

 そんなヴェスティの様子に小首を傾げつつ、近づくエルピス。


 だが、そのエルピスの行く手を阻む者がいた。


「お待ちください、エルピス様。」

「オラクル?」


 いつもにこやかに話しかけてくるオラクルとは真逆の真剣な表情で見つめられ、エルピスは少したじろぐが、不思議そうに見つめ返した。

 そんなエルピスの様子に、オラクルは視線を合わせるためにしゃがむと、その両手を包み込み、今度はいつものにこやかな笑みでゆっくり話しかけた。


「先ほどまで力を解放しておられましたな。」

「…うん。急いでいるのに、待たせちゃってごめんなさい。」

「いいのです。ここ数日見ておりました。なかなか上手く出来ないと癇癪を起してしまう方も多くおられますが、エルピス様はよく耐えています。たまには息抜きのために別魔法をやってもいいのです。それが意外にも上手くいく近道だったりいたしますので。」

「ありがとう。」

「……ですが、」


 包んでいる両手に微かに力が入り、ここからが本題だと伝えてくる。エルピスは背筋を伸ばして、オラクルをまっすぐ見つめた。


「エルピス様の御力は創生神様の御力。数秒ならまだしも数十分も近くでその力を感じていますと、並みの精神力の方は発狂してしまうのです。……私もうっかりそのことを忘れておりました。」


 はっと気づいたエルピスはヴェスティを遠くから伺いみる。

 カップの湯気がもうなくなり、飲み物が緩くなっていてもそのまま飲まずにぼんやり座っているヴェスティ。普段だったら、このくらいの視線にはすぐに気づいてくれるのに、まったく顔を向けてくれない様子に、エルピスの中で心配が増さる。

 眉間に皺を寄せるエルピスにオラクルはこちらに気を向ける様に両手を軽く引くと、エルピスは表情そのままにオラクルへと再び視線を戻した。


「ヴェスティでしたら大丈夫です。あの方の精神力は私の御墨付きです。ですが、元の状態に早く戻すためにも、一人でゆっくりされた方が良いのです。」

「そう…だね。」

「はい。………それと、まだエルピス様から御力が漏れ出ています。一気に魔力を放出したことと今まで無意識に恐れて抑えていた御力が抑えられなくなっています。ですので、今から私と魔力を抑えるレッスンをいたしましょう。」

「えっ、でも」

「大丈夫です。ルア様曰く、ソレイユ様はセレニテ様の中で安定しておられるのでしょう?ならば、世界に住む人々はまだ安全に暮らせている、ということです。」

「……でも、日が落ちるのが……。」

「急がば回れ、です。焦ってことを成しても、失敗に終わる可能性がございます。ですので、急がずご自身の地盤をしっかり固めたうえで進んだ方がいいのです。世界のためならなおさら。」


 オラクルの言い分が正しいことは承知しているが、明日にはどうなっているのかまったく見当がつかない状態で、心の中にはいつまでも焦りが生まれてしまう。今強化魔法が上手くできていないからなおさら。それでも、その気持ちをオラクルにぶつけるのは違う、ということも分かっている。エルピスは開きかけた口を閉じ、困ったように微笑んだ。


「そうだね。急がば回れ。だもんね。」

「そうです。それに、強化魔法は少しずつ上達しておられますよ。力を上手くコントロールでき始めている証拠です。」

「本当!?嬉しいな。」

「さて、向こうで行いましょう。他の皆様に伝えて参りますので少々お待ちください。」


 オラクルは素材の分別をしている3人の元へと行くため、エルピスに背を向けた。

 その瞬間、エルピスの顔が陰り舌唇を嚙みしめるも、それは一瞬でいつもの顔へと戻し、オラクルが帰って来るのをぼんやりと待った。


 そんなエルピスの様子を遠くから見つめる者がいることにも気づかずにーーーーー







 オラクルと共にみんなの元から離れた先ほどの場所に再び戻ってきたエルピスは、向かい合うように立つとオラクルをまっすぐ見つめた。


「いいですか、エルピス様。魔力は心臓から巡ると教わりましたね?ですので、魔力を心臓に凝縮させるイメージをもつのです。」

「心臓に…凝縮…。」

「体に回っている魔力が円を描きながら心臓に集約され圧縮され塊が密度を増していく。…私はそのようなイメージで行っております。」

「圧縮し、密度を濃く…。」


 体の魔力の巡りに再び集中したエルピスの両目が自然と閉じると、髪の毛が風に靡き、長い睫毛を撫でていく。

 周りに漂っていたエルピスの魔力が少しずつ内側に集約され、威圧感のある強い魔力がだんだんと無くなっていくのが分かる。


(このお方は本当に…)


 神に見初められた人間なのだと、オラクルはその両目に崇拝の光を数舜灯した。







「……収まったかな?」

「はい、元の状態に戻っておられますが…集中力がきれても同じように出来ますか?」


 オラクルに指摘され、エルピスは心臓部分に意識を集中させていた気を一気に緩めるが


「………まだまだかも。」

「そのようですね……。」


 凝縮されたいた魔力が再び外に漏れ出し、足元の草花が足の形に添って萎れていく。完全に開放をしている時とは萎れるスピード感がまったく違うが、それでも自然とは程遠い速さだ。

 エルピスはまた別の課題が生まれたことに頭が重くなったように感じ、大きくため息をついた。


「課題が多すぎて頭が痛くなってきたよ。」

「これも慣れるしかありません。しばらくの間はエルピス様は寝るときはお一人か私と共に過ごしましょう。」

「えっ?!なんで?!」

「寝ている時が一番無防備なのです。制御が甘く漏れ出たエルピス様の御力を近くに浴び続けてはいけませんので。」

「…分かった。よろしくねオラクル。」


 みんなを守るために色々とアドバイスしてくれるオラクルに、心の中で感謝しつつ、エルピスはほっと安心した顔で息をついた。


「さて、皆さんの元へ戻りましょうか。…あぁ、エルピス様は御力の制御の続きをお願いいたします。先ほどと同じやり方ですよ。」

「分かってるよ。」


 先に歩き出したオラクルを追いかけつつ、エルピスはふと思う。


(オラクルも…制御しなきゃいけないほど魔力を持っているのかな…それとも全員同じことをしているんだろうか。)

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