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5.王都の使者

 祭司は宣言通り、その日のうちに早々に荷物をまとめて騎士と共に王都へと帰っていった。力を使った後だったため、いつもだったら一晩ゆっくりと休んでから翌日帰るのだが、なんだか悪いことをしてしまったとエルピスは独り言ちる。


 あれから精霊を得た五人は両親やリヒティの指導の下、魔法を習い始めている。最初はエルピスが精霊を得たら始めるという話しもあったが、強い力を制御できずに暴発したら大変だという懸念もあったため一足先に講義が始まったのだ。

 置いて行かれたような寂しさを感じつつも、しかたないと割り切って一人体力づくりの素振りを始める。心の中でカウントしつつ、これが終わったら型の復習をしようと計画していると、遠くから自分を呼ぶ声が微かに聞こえた。


「?」


 不思議に思い、素振りをしていた手を止めてその声に集中すると、草を踏みしめる音と荒い息遣い、そして久しく呼ばれなかった友の呼び声。一年前からあんなに自分のことを避けていたのに急な接近に困惑し、どうしようかと二の足を踏んでいると声の主はエルピスの正面へと着いてしまった。


「エっ、エルピス!、ハァ、っハァ、セレ、ニテが!」

「!?……フィス、だよね?セレスがどうかしたの?今魔法の講義中じゃ?」

「詳しいことは後だ!お前の妹が大変なんだよ!!」

「うわっ!」


 そういうと、今まで避けていたのが嘘かのようにエルピスの腕を掴み走り出した。急に走り出されバランスを崩し足が縺れるも何とか体制を立て直しエルピスも懸命に足を動かす。

 手を引く力強さからよっぽどの緊急事態であることは察せられたが、エルピスが行ったところで事態は変わらない、むしろ悪化するかもしれない。だが、大切な家族の一人であるセレニテの身に何かが起こっているのを聞いて、役立たずだからと家に引き返したくはないと、エルピスは自分の身を犠牲にしてでも守ろうと、決意を固めるのだった。


 ーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーー


「離してください!私は王都へは行きません!」

「これは決定事項です。あなたの意志は関係ありません。」


 遠くからセレニテの必死な声と、事務的な聞いたことのない声が聞こえる。言い争いの内容の不穏さに眉間にしわがよる。


(王都へ、連れて行こうとしている?)


 いったいなぜ?思い当たるとしたら受けたばかりのあの儀式。セレニテは村の中で一番力のある精霊がパートナーとなった。あの祭司が王へ報告していたとしても不思議ではないし、力のあるものを王都の警備などに採用していると聞いたこともある。だが、


(無理やり連れていこうとしているのはなぜだ?)


 儀式のときに祭司が言っていた言葉が頭を過る。


『これから善性に従い、世のため人のため活動していくこの者達をどうか見守りください。』


(これが世のため人のための活動?)


 権力を盾に村人を力づくで誘拐しようとし、さらし本人の意思そっちのけとは。善性に従っての行動ではありえない。


(あの人の精霊は…悲しんでいるんじゃないか?それとも、その行動の裏に結果的に善となることでもあるのか?)


 あれこれ考えていても憶測の域を出ない。すべての疑問はセレニテを捕えている者に答えてもらえばいいとエルピスは声を張り上げた。


「セレニテ!」

「!エルピス!フィス!!」


 声を頼りに伸ばした腕にセレニテの手が触れる。引き寄せつつ、反対の腕を掴んでいる暴漢者の手に向かって持ってきていた棒を振るった。


「っ!」


 油断していた暴漢者は攻撃うけ、掴んでいた腕を放してしまう。手の緩みを感じ取ったエルピスは素早くセレニテを自分の後ろへと下がらせ、暴漢者に向かって棒を構えた。フィスも守るようにエルピスの横へ並ぶ。


「無理やり連れて行こうとするなんて…いったい何が目的ですか?」

「……その者は神の器の候補者です。世界のためにも、王都へ来て儀式を受けてもらいます。」

「神の器?儀式?」


 ふいにリヒティの噂話を思い出した。亡くなると同時に産まれた子へ神が宿る、神の継承。そして15年前産まれた世代は、

(僕たちだ。)

 最近の日の陰りの早さ。ソレイユ様に何かあったのではないかと考えていたリヒティ。もしその憶測があっていたのであれば。もし宿ったものの身体と神の力がなんらかの理由で離れているのなら。

(まさかーーーー)


「………ソレイユ様に何かあったのですか?」

「エル?」

「もしや、体と神の力が、離れているのですか?だから、体を…神の器を探しているのですか?」

「っ!」


 背後で息をのむ気配がした。そして、その候補者に選ばれたのだと悟ったセレニテは体を強張らせた。

 対峙していた暴漢者はふぅ、とため息をつくと、張り詰めていた気を緩めた。


「山奥の田舎の村にこんな頭の回るやつがいるとはな。……だが、小僧。敵かもしれない者に対してこんなお喋りしてる暇があったら、拘束するなりして身動きはできないようにしておくといい。でないとーー。」


 風を切る音が聞こえたと同時に頭に衝撃がくる。


「エル!」

「エルピス!」


 2人の叫びを最後にエルピスは意識をとばしたーーーーーー。

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