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46.カミングアウト

 ーーーーーーーーーー光が見える


 暗闇の中に浮かぶ直視できないほどに眩しい光ーーーーーーーーーーー


 あなたは







 ーーーーーーーーーー誰?」


 目を覚ますと薄っすら光を通す布張りの天井が見える。セレニテは一瞬、今いる場所が分からなかったがすぐにここがテントの中だと気づき、閉じかけていた目を開いた。起き抜けの体は重く、ゆっくりと起きようとした瞬間、テントの扉が開かれ、布越しではない明るい日差しがセレニテの目を焼いた。そこにいたのは


「あっ!セレス起きた?なかなか起きてこないから心配したよ。」


 エルピスだった。太陽を背に優しい笑顔でセレニテを呼ぶ。セレニテの大切な家族。かけがえのない存在。そして


「ごめん。すっかり寝入っちゃった。」


 失くしてはいけないと、心の中で誰かが叫ぶ。






「おぉ、やっと起きてきたか。」

「ごめん。寝過ごしちゃって。」

「いいのです。慣れない旅路に長距離の徒歩移動ですから、体が休息を求めるのは当り前ですわ。」

「うぅぅ、そう言ってもらえると助かる…でも、エルはちゃんと起きれたのね。」

「僕はちょっと…ね。」


 そういって視線をうろつかせ頬を掻くエルピスにセレニテは不思議そうに首を傾げ、エーデルとリヒティも顔を見合わせた。そんな三人の様子に話しを逸らそうと口を開きかけた瞬間、エルピスの頭の上に腕が乗っかり、瞑れた声が口から洩れた。


「エルピスは今大変なことが起こってるからな~。」

「ヴェスティ!!!」


 エルピスの頭上でニヤニヤと笑いながら話すヴェスティに、エルピスの咎めるような声が飛ぶが、どこ吹く風と言わんばかりにエルピスを見下ろしている。


「?大変なことが起こってる?」

「…!まさか、創生神様の御力の影響で体調に変化が?」

「!そうなのか?!エルピス!!!」

「!っち、ちが…いや、違わないのか?いやいや、違う、違うんだよ!」

「なら、何が違うのか教えてよ!」

「そうだぞエルピス!」

「えぇ!私達にも教えて欲しいのです。」

「う…うぅぅ」


 三人の善意に詰め寄られ弱った声を漏らすエルピスの様子に、ヴェスティは可笑しくてたまらないと腹を抱えて笑い出した。


「あははははははあはは!!!ひー!!!!駄目だ、ぶはっ、あっはっはっ!!」

「もー!!!ヴェスティのせいでこんなに心配されてるんじゃないか!なんとかしてよ!!」

「はー、ひー、ふふ、私が話しても良いが、隠さず全て話してしまうぞ?良いのか?」

「う………。」


 しかもヴェスティなら多少大げさに伝えそうな雰囲気がある。歴史を紐解いている研究者ではあるため、真実のみを話してくれそうではあるが…。


「…………わかった…僕から話すよ。」

「そうしたまえ。」


 ヴェスティはエルピスの頭を数度撫でると、ここから5分ほど離れた場所にある川へ滝行を行っているオラクルの元へと向かって行った。


 ヴェスティが去り、ため息をつきつつも腹を括ったエルピスは三人に話すため、昨日焚火の周りに設置した丸太へと座る様に誘導した。三人は大人しく腰掛けると、一番端に座ったエルピスへと心配を多分に含んだ視線を向ける。エルピスはそんな優しい心配性な三人の顔が見れず、地面へと目線を落としてリヒティ達が外へ行った後のことをぽつりぽつりと話し始めた。








 ーーーーーーーーーそれで真夜中に目が覚めた僕は、着替えるために外へ行ったんだ…けど………」

「けど?」

「け……ど………





 男の象徴がなくなったんだ!!!!!!!!!!」



 ーーんだ

 ーーんだ

 ーーんだ

 ーーんだ・・・・・



「「「は…はぁ???!!!!」」」


 三人の驚愕した声も森に響いたのだった。














 エルピスのカミングアウトから数分経つが、未だ誰も口を開かない。リヒティは同じ男として気持ちが手に取る様に分かり、エーデルは真剣に考えこみ、セレニテはたかがそのくらいでと呆れて半眼でエルピスをじっとり見つめていた。当事者のエルピスはもうどうにでもなれ、と遠い目で空を見上げていた。

 ヴェスティ達が帰ってくるまでこの状態が続くかと思ったが、先にその空気を壊したのはセレニテだった。


「っはぁぁぁぁぁぁぁ。もしかして、次の日の朝に悩んでたのってそのことだった?」

「うん。そのことだった。」

「っはぁぁぁぁぁぁぁ。もっと大変なことが起こってるかと思ってたけど、それが無くなっただけじゃない。心配して損したぁ。」

「そ「いや、これは男として”そんなこと”で済ましていい問題じゃない。」

「リヒティ!」


 セレニテのピンと伸ばしていた背筋が話しの最後には曲がり頬杖をついてエルピスを見やっている。そんな反応を薄々勘づいていたエルピスはセレニテの目をまっすぐ見れず、アルカイックスマイルで空ばかり見上げていた。が、リヒティの思わぬ賛同に嬉しくなり、思わず潤んだ両目でリヒティを見つめた。リヒティの目は真剣そのもので、心なしか顔に影が落ちて異様に目が光っているように見える。


「いや、そんな「女には、分からないか、この気持ち。」詠んでんじゃねーよ。」


 二人の間で静かに火花が散り、遠くで鐘が鳴る音が聞こえた気がした。激しい口論が始まった二人を無視して、エルピスは先ほどから考え込んでいるエーデルの前へと移動し、下から顔を覗きこむ。


「エーデル、さっきから何を考えてるの?」

「…っえ、あぁ、エルピス様。実は、王城で呼んだ文献のことを思い出そうと記憶を掘り返していたのですが…」

「あんまり思い出せなかった?」

「…はい、お恥ずかしながら…記憶には自信があったのですが…。」

「だいぶ昔に読んだんでしょ?なら、仕方ないよ。忘れちゃうのは当たり前。ね?」

「……そうですわね。こんなことになるのなら、お二人が王城に向かっている時に読み返しておけば良かったと後悔しておりますわ。」

「ふふっ」


 不貞腐れているエーデルと微笑むエルピスの横でセレニテ達の口論はまだまだ続く。真逆の雰囲気をその場に作っている一団を滝行から戻ってきたヴェスティとオラクルは顔を見合わせて苦笑するのだった。


「お~い、戻ってきたよ~。朝食も出来てるし、さっさと食べて出発するぞ~。」

「「「「はーい/はい」」」」


 その一声で口論も収まり、四人はヴェスティ達の元へと向かう。明るく談笑しながらも、エーデルの中に一つの疑問が芽生えた。

皆様いかがお過ごしでしょうか?私は試験が終わったと同時に風邪をひいておりました。

お体にはお気をつけてお過ごしください。

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