45.夜の会話
学術都市から旅立った一行は、ヴェスティの勧めで古代遺跡があるオウトの森を目指していた。馬があれば半月ほどで着ける森ではあったが、馬は学術都市に置いてきてしまった。荷物はエルピスに預けたままだったため問題はないが、足がなくなったのは辛いものがある。
「まぁ、たまには歩くのもいいことではあるが…。」
「いたーい!」
「セレニテ様我慢してください。魔法で治すとまた痛めやすい足に戻ってしまいます。」
「こんなの…痛くな「ほぅ?これはどうかな?」いたー!!!」
「ヴェスティ…エルピス様を苛めるのを辞めていただきたい。でなければ私の拳が「あーはいはい、真面目に治すねー。」
王都へ向かう時に馬にかけた強化魔法を使って早く行く案も出たが、エルピスとセレニテの強化魔法を施すような精密な魔力操作はまだまだ安定していない。その状態で無理に強化魔法をやろうものなら、下手をすれば音速のスピードを出してしまい体が風圧でバラバラになってしまう。
それは避けるべきだという大人の話し合いで決まり徒歩での移動だったが。
(強化魔法を使っての移動に変えた方が良いか?)
エルピスとセレニテの泣き顔がリヒティの心にちくちくと突き刺さる。
(いやいや、あいつらだって儀式を受けて大人の仲間入りをしたんだ。この程度乗り越えられなきゃいけないだろ。)
村が焼かれてからなのか攫われてからなのか知らないが、二人に対しての態度が前よりも過保護になっていることはリヒティも少しは自覚していた。
が、
(なんか…あいつらが泣いてると、どうにかしてやりたくなるんだよな…)
「はぁぁぁ…」
人知れずリヒティは深くため息をつくのだった。
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その後、太陽が落ち次の村までまだ距離があるため、一同はそこでエルピスから道具を受け取り、各々野営の準備を始めた。
最初の頃と比べると準備の手際が良くなったエルピスとセレニテに、リヒティとエーデルはうんうんと微笑みながら頷きあっている。
「あいつら…仲良しすぎじゃ?」
そんな様子を見てしまったヴェスティは、白い目でそんなことを呟く。たまたま近くにいたオラクルは笑いながらその意見には同意した。
「確かに、仲がよろしいですね。同郷だから、というのもあるのでしょうが、この旅でお二人はとても成長されています。色々と教えている大人として嬉しいところがあるのでしょう。」
「そんなもんか~?」
「研究バカのあなたには分からない感情かもしれませんね。」
「…喧嘩なら買うぞ?」
「ほっほっほっ、冗談です。」
楽しそうなオラクルにヴェスティは毒気が抜かれ、ふっと軽く笑う。都市内でのやり取りで思うところがあったが、どうやら自分の思い過ごしかもしれない、とヴェスティは肩の力を抜き、エルピスとセレニテの元へと向かった。
遠ざかるヴェスティを見つめつつ、オラクルはぽつりと呟く。
「そう、成長されているのです。…眩しいほどに…。」
その晩、火の番は最初にオラクル、次にヴェスティの順番に決まり、オラクルは一人焚火の前でヴェスティの研究室からリヒティ達が持ち出した手記を読んでいた。
(この擦り切れ具合は、ヴェスティの家で見たものより後の手記のようですね。お二人が誕生して200年後あたりでしょうか?)
簡単に破いてしまいそうな手記を丁寧な手つきで読み進めていく。時には感情が溢れた殴り書きであったり、少し震えた字であったり、楽しいことがあったのか上に跳ねた字体だったりと、この手記から書いた者の気持ちが流れ込んでくるような手記だった。
全て読み終わり手記を閉じて疲れた目を解すため目頭を揉んでいると、閉じていても分かってしまうほどに眩しい光が隣から溢れた。その光が収まり、閉じていた目を開けるとそこには
「創生神様…」
「久しいな、オラクル。」
膝を着こうと立ち上がりかけた時、創生神は手でそれを止めた。
「よい。楽にしておれ。」
「承知いたしました。」
再び今まで腰掛けていた場所に座り直すと、改めて創生神へと向き直った。
「創生神様、御身自らなぜこちらへ?私共に任せていたではありませんか。」
「…そうしていたが、思っていた以上に彼奴等は行動が早かった。これ以上二人が守ったこの地を荒らされるわけにはいかん。」
「そう思うのであれば、なぜ居場所をすぐに教えてくださらなかったのですか。こちらで保護が出来ていればこんなことにはならなかったはずです。」
「本当にそう言い切れるか?」
「……どういうことでしょうか?」
「おぬしも知ったであろう。あの王族の隠蔽を。」
「!」
「それと、死ぬ間際に離れて暮らすのも楽しいと…」
「………それが本音ですね。」
神に向かってしていいことではないが、ついつい胡乱な目で見てしまったオラクルは、大きくため息をつき頭が痛いと言わんばかりに手を額に当てた。
「とりあえずは、創生神様が御力を貸してくださるのであれば余程のことがない限り大丈夫でしょう。…ですが、エルピス様は大丈夫なのですか?」
「何を言いたい?」
「………御身の御力は強大です。ソレイユ様の器だったとはいえ、人の身には過ぎる御力のはず…なぜ無事なのですか?」
「…………さて、なぜだろうな。」
本当に知らないのか、知っていてはぐらかしているのか、顔色を窺うが、その御尊顔はぴくりとも動いておらず無表情でオラクルを見つめてくる。表情がなくても圧のあるその顔をずっと見ていられず、オラクルはふいと視線を逸らした。
「…無事なのであれば良いのです。…御身も無理はしないようお願い致します。」
オラクルが深々と頭を下げると、ふわりと頭に触れるものがあった。それが一瞬何か分からずに困惑したが、左右に揺れることで、それが神の手だと気づき体を硬直させてしまう。
そんなオラクルの様子に神は首を傾げ、不思議そうに呟いた。
「これでエルピスは喜んでいたが。」
「私には身に余りますのでエルピス様とルア様だけにして頂きたい!」
試験が終わり次第続きを書きつつ改稿作業に入りたいと思います。
評価していただきありがとうございます!




