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42.月だけが

 キン  ガッ  ガキンッ


 剣同士が打ち合う硬質な音が部屋に響く。離れては打ち付け合い、金属の火花が散る。技を繰り出している二人の表情はどちらとも真剣な表情でその視線は相手から離れず睨み合っている。

 永遠に続くかと思ったが、デリックの方が先に息を乱し始めた。魔力を大量に消費しているのもあるが、大人と子供、戦闘の経験値の差、体力面での差で徐々に二人の違いが出始めていた。


『はぁ、っはぁ…。』

『デリック、もう息が切れてるのか?そんなんじゃ俺たちを殺すことなんで出来ねぇぞ。』


 リヒティの方はまだまだ余裕があり、膝が落ちかけているデリックのことを隙は見せずに見下ろした。

 デリックはそんなリヒティの言葉に挑発され、きつく睨み下に向きかけていた剣先をリヒティへと構え直した。


(とはいえ、エーデルの方を何とかしたい…貫通したものを治すには俺じゃ無理だ…エルピス達の元に早く帰らなければ…そのためにも)


『早く決着つけよう。』

『っは!吠え面かかせてやるよぉぉぉぉ!!!』


 再び二人の剣が交差しようとしたその時


『!?』

『チッ、おせぇぞ!』


 地面が隆起し、リヒティを囲むように先端が尖った棒状の物が大量に地面から出現し、そのすべての先端がリヒティに向いていた。あと数秒止まるのが遅ければ、その先端にリヒティの体がめり込んでいた事実に冷汗が流れる。


『遅いとは失礼ね。一人で突っ走ったって追い詰められてるのはデリックのせいじゃない。』


 少し怒った口調で文句を言っているその声にリヒティは聞き覚えがあった。

 今年の儀式で最初に受け、6人の中ではストッパー役だった少女。


『リヒティさん、お久しぶりです。こんな再開になるとは思いませんでしたが、会えて嬉しいですよ?』


 そう言って首を小さく傾げ、淡い笑みをリヒティに向けているのは行方知らずの4人のうちの一人




 フェリだった。





『…………フェリ………お前も………。』

『会話は不要です。私たちの願いは一つ。


 セレニテをこちらに渡してください。』


 微笑みを消したフェリの目がリヒティを貫く。流石にまだ未熟な二人とはいえ、怪我人を庇いながらの戦闘はリヒティでも苦しく無意識に奥歯を噛みしめる。誰も言葉を発しない沈黙の時間が続く。

 しばらく待っても返答のないリヒティにフェリはしびれを切らし、深く息をついた。


『だんまりですか…セレニテを渡さず、ここを突破するにはどうすれば良いかお考えでしょうか?………無駄ですよ。』


 ~~♪ ~♬~~~


 微かに歌声が聞こえる。その歌声と共にそよ風が吹き、あたりを包んだ。


『!?』


 その歌声を認識した途端、リヒティの膝が崩れ落ち、持っていた剣までも手から離れてしまった。


『…ま、さか、これは…』

『お察しの通り、”眠りの歌”です。私たち同期の中に歌が好きな子がいたことを覚えてますか?』

『………メレ…なのか…?』

『そうです。流石リヒティさんです。歌声に魔力をのせるのが凄く難しくて…成功率はまだ低いですが、今回はうまくいったみたいですね。フィスも頑張ったんですよ?その歌声を自分の風で拡散させるには精巧な技術が必要だったんです。お二人に会ったら褒めてあげてください。』


 リヒティの瞼が少しづつ重くなり視界が狭まっていく。最後に見たのは目を悲し気に伏せた二人と近づいてくる歌声の主だった。



 ーーーーーーーーー

 ーーーーーーー



『っは!!』


 リヒティが目を覚ますと、そこは石の壁で作られた三畳ほどの小さな部屋のベッドの上だった。向かい側にはエーデルも横たえられており、その胸は上下をしている。

 そのことにほっと胸を撫でおろし、改めて部屋を見渡した。


(上に小さな窓と、反対側に鉄格子。この都市に牢屋何てあったのか?)


 石の壁のせいか空気は寒々しく、窓から見える空はとうに月を浮かべている。


(今は何時なんだ…あの月の様子だと深夜になっていることは間違いないな。それにしても)


 リヒティは自身の手首と足首を見ると、牢屋に入る者はお決まりの手錠、足かせがまったく付いていない。エーデルの様子を近くで観察するとリヒティと同じように動きを阻害するものは付いていなかった。


(考えが甘いのか、それとも他に何か意図があるのか…)


 エーデルの傷は血が止まっており、服に貫かれた跡があるがその下の肌は綺麗そのものだった。


(あいつらがやったのか?敵なら戦力阻害するためにも治さない方が良いに決まっているが…考えこんでも埒が明かないか。)


『エーデル、エーデル起きてくれ。エーデル。』


 肩を揺さぶりつつ小声でエーデルを数回呼ぶと、瞼がぴくりと動いた。


『うっ…うぅ……リヒティ?』

『目が覚めてよかった。具合はどうだ?』

『わたくし……………リヒティを……庇って………!!!』


 ぼんやりとリヒティを見ていたエーデルは急に目を見開くと、上体を跳ね起こし肩に触れた。


『………傷が……ない………。』

『あぁ、誰かが癒してくれたみたいだ。…動きとかどうだ?何かおかしいところはないか?』


 エーデルは傷があっただろう場所を何度も触れてみたり、腕をぐるぐる回してみたりしたが、特に動きを阻害されることもなく、いつも通りの状態へと治されていた。


『特に変わったところも痛みもありません。しっかりと治癒されたようです。』

『そうか…それなら良かった。』


 それ以上言葉が続かず、重い沈黙が二人をつつむ。光源が月の光のみで二人の表所をはっきりとは見せてはくれなかった。それでも伝わる遣る瀬無さ、戸惑いをリヒティから感じ取り、エーデルはそっとリヒティの腕を叩いた。


『何か、皆様の中で誤解が生じているようですね。でも生きていれば誤解を解くチャンスは巡ってきます。それまで、言葉を遮られても、聞かれなくても、諦めずに伝えていきましょう?違うのだと。』

『あぁ……そうだな。……このことはエルピス達にも話しておこう。………あいつにもショックな話しではあるが……。』

『知らずにセレニテ様をあちらに渡してしまう方が、エルピス様には堪えるかと思います。』

『…………あぁ。』

『さぁ!今のうちにここが何処なのか把握するので、リヒティはあちらのベッドへ腰かけてお待ちください。分かりましたらすぐにお伝えしますわ。』


 そういうとセレニテは目を閉じ魔力を練り始める。その様子をしばし見守ると、リヒティは自分が先ほどまで横になっていたベッドへと歩を進めた。


(デリック、フェリ、フィス、メレ………何を聞かされたのか、何を見たのか知らねぇが、お前らの誤解を解いてまたエルピス達と笑い合える関係に戻してやる。絶対に。)


 強く強く握りしめられたその拳を月だけが見ていた。

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