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41.子供の成長

『……デリック……本当に……生きて…!』


 家から出る間際にヴェスティから聞いた時は一瞬聞き間違えたかと思ったが、生きていて欲しい気持ちが強かったためその言葉を信じリヒティ達はここまで来た。あの残虐な殺害現場にいなかった4人。敵に誘拐されたのかとも思ったが、リヒティ達と同じように難を逃れた可能性もあった。それがヴェスティの言で難を逃れ生きている希望が強くなり、今目の前にいる。

 感極まり目が熱くなる。リヒティが手をデリックに伸ばすと一歩すっと下がり手を避けた。


『?デリック…?』

『…リヒティ…なんで俺達に何も言わずに旅に出たんだよ…エルピスだけなんで連れて行ったんだ?』

『…本当はエルピスも連れて行くつもりはなかった。だが、あのままじゃ無理やりついていきそうな勢いで、説得する時間もなかった…だから連れて行ったんだ…。』

『本当か?』

『本当だ。こんなことに嘘ついてどうするんだ。…俺も一つ聞きたい。誰の推薦でここに入れたんだ。ここに入るには祭司か王族の推薦が必要なはずだ。』

『………』


 黙り込むデリックにリヒティが再び口を開こうとした瞬間


 ボゴッ!!!!


『??!!!』


 リヒティの足元に深い凹みが出来、そこから煙を発している。それは魔法が被弾した跡。リヒティは呆然とその跡を見やり、信じたくないとばかりに瞳を揺らしデリックへと視線を向けた。


『………デリック?』

『ペテン野郎が……母さんたちを殺しやがって……!』

『まっ『黙れ!!!!』

『『グゥ…!』』


 デリックの体から魔力が放出され、二人に魔力の圧が襲い掛かる。空気が揺らめきデリックの周りを魔力が覆っているのを見て取れた。圧で息がしずらくなり細く小刻みに息をする。倒れそうになる体をなんとか持ちこたえ耐えていると、デリックが二人に向かって手を伸ばし指先に魔力を集中させ始める。


『リヒティ、俺はここに来てから魔法について色々学んだ。体を強化する魔法。人の傷を癒す魔法。壁を張り人を守る魔法。そして…』


 魔力が集まった指先には一センチほどの玉が浮かんでいた。それがリヒティに向けられている。二人の背に嫌な汗が流れる。

 デリックのギラギラした視線が射貫く。口角が歪み、歪な笑みをのせると、さも楽し気に笑いだす。


『人を殺す魔法もなぁ!!!!!!!!!!』


 魔法が放たれ、高速でリヒティの額へとまっすぐに飛んでくる。リヒティは動けずその魔法の弾丸を凝視していると


『リヒティ!!!』


 エーデルが魔法圧を跳ね除けデリックの体を押し飛ばすが、エーデルの肩に被弾し、その体を後ろに吹き飛ばすほどの威力を持って襲い掛かった。


『っっっっ!!!!』


 肩から血が溢れ地面と服をじわじわと汚していく。あまりの痛さにエーデルは傷口を強く抑え呻き声を漏らした。


『エーデル!!』

『お仲間に助けられたなぁ。……次は殺してやるよ。』


 また指先に魔力が集まっていく。今度は確実に殺すためにさらに魔力の密度を上げていく。


(このままじゃ俺たちもやべぇが、デリックも魔力枯渇で大変なことになる。)


 魔力放出はまだ続いている。このまま行けば魔力が枯渇し命の危険がある。今は敵意を向けられているが、昔からの顔馴染みをすぐに敵判定するほど非道にはなれなかった。

 リヒティは舌打つとこの圧から逃れるため、体を巡っている魔力に集中するため目を閉じた。


(昔じじぃに言われたな。目には目を、魔力にはーーー)


『魔力を!!』

『!!??』


 瞬間、リヒティから膨大な魔力が放出し、デリックの魔法を消し飛ばした。デリックよりも膨大な魔力の圧にデリックの体がよろめき、先ほどから練っていた魔法が四散していく。魔法が中断されデリックの顔が悔し気に歪む。


『くっ!まだまだぁ!!』


 デリックの周りに火がいくつも出現し、二人に向かって一斉に放たれる。リヒティはその火に対抗するため水の魔法で撃ち消した瞬間、水蒸気が発生し部屋の中を霧で覆いつくした。


(しまった!とりあえずエーデルをーーー)


 視界が悪い中エーデルの元へ向かおうとした瞬間、霧を割いてデリックが現れリヒティに向かって剣を振り上げた。


『っぶねぇ!』


 仰け反ることで剣先を躱せたが、髪を数本切られ地面に音もなく落ちていく。数歩下がって間合いを取るが、デリックの視線も剣先もまったくブレずにリヒティへと向けられている。村にいたころよりも格段に実力をつけたデリックにリヒティは場違いにも破顔してしまった。


『ふっはははは!』


 いきなり笑い出したリヒティにデリックは虚を突かれたが、すぐに顔を引き締め再び剣を構える。


『何がおかしい!!!』

『あー、いや、すまんすまん。笑うつもりはなかったんだが、嬉しくてな。』


 目尻に滲んだ涙を手で拭いつつ、リヒティはデリックへ微笑んだ。


『強くなったな、デリック。』

『!!!!』


 魔法を教えたのは数日しかなかったが、小さいころから知っていた子供の一人がここまで強く育ち、リヒティを負かそうとしていることに大きな成長を感じ取り、なんだか嬉しくなってしまったのだ。

 デリックの目が大きく見開きリヒティを見つめるが、すぐに目を吊り上げ、剣を持つ手がギリリと音をたてた。


『ふっっざけるな!!!』


 デリックの額に青筋が浮かぶが手が震え剣先がぶれる。息が荒くなりリヒティをきつく睨む瞳も揺らぎ、明らかに動揺している。


(だいぶ動揺してるな。このまま戦わず逃げられれば…いや、エーデルがあの状態じゃ無理か…)


 リヒティはエーデルの位置を横目で確認すると、デリックへと構えを取る。


『笑っちまってすまねぇな。…相手してやるからかかってこい。』


 リヒティの目が鋭くなりデリックをまっすぐ捕らえる。その視線は刃のようでデリックの首元に刃が当てられているような静かな殺気を纏わせていた。

 デリックはその殺気に体を震わせるが、一呼吸つくと再び剣を構え直し、リヒティへと一歩踏み出した。

3月いっぱいは試験に忙殺されそうです…更新遅くてすみません…。

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